見出し画像

この1冊『今夜、この世界からこの恋が消えても』(一条 岬 メディアワークス文庫/KADOKAWA)

一条岬さんのデビュー作、2022夏公開映画の原作

一条さんは、第26回電撃小説大賞(2019年)で投稿作品『心は君を描くから』が《メディアワークス文庫賞》を受賞しました。その後、本書『今夜、世界からこの恋が消えても』でデビュー。
「セカコイ」と呼ばれ、韓国や中国でも人気で多くの方に読まる作品です。
2,022年7月に、道枝駿祐(なにわ男子)、福本莉子、福川琴音らの出演で映画化されました。

メディアワークス文庫のブックカバー評「大胆な構成と緻密な心理描写が持ち味」


「日野真織」「神谷透」「綿矢泉」の話

高校生の神谷透は、嫌がらせを受ける同級生を助けようとしたことをきっかけに、嫌がらせをやめる条件として日野真織に告白するゲームをやらされることになってしまいます。
そんな受け入れられるはずもない告白が、真織に受け入れられてしまいます。

真織には、交通事故による前向性健忘という記憶の障がいがあります。
一旦眠りにつくと、事故の時から眠る前までの記憶がなくしてしまいます。
毎朝起きると、記憶は事故の翌日に戻ってしまうので、障がいがある自分を受け容れることから始め、失われた日々のできごとを書き留めた手帳を読んで、記憶をつないでいく作業も必要なのです。
壮絶な苦行を毎日繰り返す真織には、普通に恋愛をして結婚することなど想像できません。
透から告白されたとき、「こんな自分にも何か新しいことができないか頑張ってみよう」という気持ちが湧き、「私のことを本気で好きにならないこと」を透に求めてその告白を受け容れます。

透はいつしか真織を「好き」になっていきます。
毎日記憶を失う真織を「毎日楽しませてあげたい」「日記を楽しいことで埋めたい」と思うようになります。
同級生でただ一人、真織の病気を知る綿矢泉は、いつも真織をサポートし、2人の疑似恋愛を優しく見守ります。
話の後半は・・・いろんな展開があります。
泣きながら読むことになるのは必至です。

病気を知った2人の疑似恋愛は、誰も予期できない展開へ

豊かなこころを持つ人物たち

前向性健忘に苦しみながら、恋をして、親友との関係を深めていく「真織」。明るく前向きになろうとする努力と周囲の愛の力で道が拓けていきます。記憶障がいがある方々の壮絶な苦しみを思わざるを得ません。

父親との二人暮らしで家事を担う「透」。真織や同級生たち、家族との関わりに、純朴な真っ直ぐさが見えます。「優しさ」という言葉では表せない、湧き出るような人を思う心を持っています。作中の「衛生感」がぴったりなのかもしれません。

学校の生徒で真織の病気を知るただひとりの親友「泉」。真織の親友で、いつも寄り添います。真織と透の波乱の人生に巻き込まれて、その青春時代を過ごます。その心中をこの作品から察するのはとても難しい。

嫌がらせに関わる同級生たち、嫌がらせを受けていた「下川」、小説家を諦められない透の父、芥河賞(本作表現のまま)作家の姉「早苗」といった登場人物たちは、それぞれに苦しみながらも皆がこころ豊かに前向きに生きようとします。この時代の中で、そのひとりひとりの姿は清々しく見えます。

一条さんがテーマとした「手に入れること」と「失うこと」。
どこに目を向けるかで、生き方や感じ方が違ってきます。
新しいことに向おうとする真織、人を幸せにしようとする透、人の苦しみや痛みを抱えようとする泉。
それぞれに何かを失い、何かを手に入れているのでしょう。

一条さんの想い、そして映画化へ

一条さんは、あとがきにこう書いています。

生の中に生が含まれているように、人はあらゆるものを得る傍らで失ってもいます。失って初めて、そのものが持つ本当の価値に気付いたりします。
…人生は一度きりなのに、失くして気付いた頃にはもう遅い。

『今夜、この世界からこの恋が消えても』あとがき(メディアワークス文庫)

この作品は、映画化されました。

監督-三木孝浩
神谷透-道枝峻祐(なにわ男子)・日野真織-福本莉子・綿矢泉-古川琴音

『今夜、世界からこの恋が消えても』公式サイト(TOHO)

映画の全体構成やカギとなる大事な言葉は、原作を忠実に映像化しています。
映画のはじまりは原作と変えて、真織が記憶の障がいから回復するシーンから始まります。
ストーリーや場面も多少の変化を加えています。
道枝さん、福本さん、古川さんが、原作のイメージを損なうことなく、中心となる3人をしっかりと演じられています。
花火やクロッキーなどは、映像ならではの迫力と美しさがあります。
劇場内には、映画の前半からすすり泣きの声があちこちから聞こえました。
原作同様、泣ける映画です。ぜひご鑑賞を。

一条さんは、映画の公式サイトでこうコメントしています。

今、当たり前にもっているものは、いつか失ってしまうもの。
だからこそ、心を込めて大切にしたい。
…道枝さんの演じる透はどこまでも優しく、福本さんの演じる真織は生きることに真摯で、古川さんの演じる泉は大切な何かを守ろうとしている。
生きて、動いて、人物として思考する三人の姿に感動し、同時にとても嬉しくなりました。

『今夜、世界からこの恋が消えても』公式サイト(TOHO)

続編『今夜、世界からこの涙が消えても』

「セカコイ」の続編は、綿矢泉を中心に描かれています。
一条さんの世界の広がりを味わうことができます。


🌸さくらワーカーズオフィス🌸

「今夜、この世界からこの恋が消えても」は、🌸さくらワーカーズオフィス🌸に置いています。
🌸さくらワーカーズオフィス🌸をご利用のみなさまは、いつでも自由に手に取っていただけます。
フリースペースは、ゆっくり過ごしていただくことできます。

さくらワーカーズオフィス
代表 山口哲史
810-0001
福岡市中央区天神4-1-28 天神リベラ702
Phone : 090-2581-9529
※見学、利用のご相談はHPの連絡フォーム、TwitterのDM、メール、Noteの問い合わせを使ってご連絡ください。
(平日日中は電話対応いたしません)
HP : https://mjm-counsel.org
Twitter : @sakuraworkers
Mail : contact@mjm-counsel.org

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?