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「『女性は野心的じゃない』のウソ…そろそろ現実を直視しません?」のウソ

 フェミニストはダボハゼのように訳も分からず「ジェンダー格差を説明する理論」に飛びつくのをやめればいいのにとつくづく思う。それを強く感じたのはyahoo!ニュースに転載された以下の記事を目にしたからだ。

 「マイクロアグレッションがあるから女性は出世しないんですぅ」と主張する傍ら、ノーベル経済学賞を2023年に受賞したクラウディア・ゴールディン教授の研究結果を持ち出す。

 アホなんですかね?

 記事においてゴールディン教授の研究結果に触れた箇所は以下だ。

クラウディア・ゴールディン教授による、MBA卒業生の男女を対象にした研究によると、男女のMBA取得者の収入は、キャリアのスタート時点ではほぼ同じなのにも関わらず、すぐに乖離が生じることが分かっています。

その要因として、「MBA卒業前のトレーニングの差」「キャリアの中断の差」「週所定労働時間の差」などが挙げられています。中でも特に、第1子を出産するタイミングで、女性MBAがキャリアを中断し、パートタイムなどに移行することで労働時間が短くなることが大きな影響を与え、結果的に収入格差が生まれているということです。

マッキンゼー共同調査が明らかにした「女性は野心的じゃない」のウソ…そろそろ現実を直視しません?
石角友愛 2023/11/20 BUSINESS INSIDER (強調引用者)

 太字で強調した箇所に注目して欲しい。さらに、マイクロアグレッションに触れている記事の箇所と見比べてみよう。

ニューヨーク市立大学ジョン・ジェイ・カレッジの心理学および教育学教授のケビン・ナダル氏によると、マイクロアグレッションとは「歴史的に周縁化されたグループに対するある種の偏見を伝える、日常的で微妙、かつ意図的な(または意図的ではない)やりとりや行動」と定義されています。無自覚な差別、小さな攻撃性ともいわれます。

 あからさまな「差別」や「マクロアグレッション」と何が違うかというと、マイクロアグレッションを行う人は無自覚で、自分がマイクロアグレッションをしていることに気づいていないことがあるということです。

 そして、Women in the Workplaceレポートによれば「長年のデータによると、女性は男性よりもかなり高い割合でマイクロアグレッションを経験している」ということが分かっています。 職場におけるマイクロアグレッションの例として以下のようなものが挙げられます。

・自分の手柄が他の人のものとして評価される
・実際よりも低い役職に間違われる
・見た目についてコメントされる
・自分と同じ人種の別人と勘違いされる
・自分の感情状態についてコメントされる


 レポートでは男性と比べ、女性、とりわけ有色人種の女性やLGBTQ+の女性がマイクロアグレッションの被害に遭う確率が高いと書かれています。そして、結果として「心理的に安全だと感じようともがき、自分の声を消したり、コード・スイッチ(職場では別人のモードになること)をしたり、自分の重要な側面を隠したりして『自己防衛』をする」ようになるということです。

同上 (強調引用者)

 見比べてこの可笑しさが理解できるだろうか?

 こんなバカバカしい記事を堂々と雑誌というメディアに出ているところから判断して、何についても他責思考でいるフェミニストには分からないかもしれないが、まったく理由になっていないものを理由として挙げているのだ。

 マイクロアグレッションに触れた記事の箇所において、

  • 「長年のデータによると、女性は男性よりもかなり高い割合でマイクロアグレッションを経験している」

  • 結果として「心理的に安全だと感じようともがき、自分の声を消したり、コード・スイッチ(職場では別人のモードになること)をしたり、自分の重要な側面を隠したりして『自己防衛』をする」ようになる

としている。このことについてアレコレは言わず、そうであると同意して議論を進めよう。その上で、ゴールディン教授の研究結果を見てみよう。

 ゴールディン教授の研究結果から、男女のMBA取得者の収入格差は以下を要因とすることが判明した。

  • MBA卒業前のトレーニングの差

  • キャリアの中断の差

  • 週所定労働時間の差

 とりわけ、第1子を出産するタイミングで、女性MBAがキャリアを中断し、パートタイムなどに移行することで労働時間が短くなることが大きな影響を与え、結果的に収入格差が生まれている。

 このことを「中高一貫進学校と大学合格」譬えで説明しよう。

 中高一貫進学校への入学前に十分に勉強しており学校の授業についていけるなら問題はないが、もしも入学前学力が周囲の生徒よりも劣るとき、授業についてこれず大学受験時には大きな学力格差となり、合格する大学のランクが変わってくる。

 中高一貫校に進学したが、たとえば中学2年の時に半年間休学することとなった場合、直後の中2の授業はおろか、その後の中3・高1・高2・高3の授業にもついていくことが出来なくなる。その結果、大学受験時には大きな学力格差となり、合格する大学のランクが変わってくる

 毎週の平均勉強時間に差がある場合、同じ中高一貫校に在籍していたとしても、大学受験時には大きな学力格差となり、合格する大学のランクが変わってくる

上記の3つの要因に関して、中段の要因が最も大きな学力格差の要因である

筆者作成

 この譬えで分かっただろうか。ゴールディン教授の研究は以下のようなものなのだ。

  • スタート時の劣位が最終段階にまで影響する

  • 途中のブランクは以後も悪影響を与え続けて最終段階で大差となる

  • 普段の労働時間の量の差が最終段階における差になる

 つまり、記事において紹介されたマイクロ・アグレッションの問題は、ゴールディン教授の研究とは一切関係が無い。つまり、男女の収入格差の要因とマイクロアグレッションとの関係は、あるかどうかは未だ分かっていないフェミニストの偏見の中だけにあるミッシングリンクである。したがって、男性よりも女性の方がマイクロアグレッションに晒されており、心理的安全を求めて自己防衛していたとしても、収入(≒出世)との間には直接的関係は無いのだ。

 記事の表題に挙げられた「『女性は野心的じゃない』のウソ…そろそろ現実を直視しません?」というウソは、当人が野心的であれば熟す、以下のハッキリと目に見える行動として表れる以下の頑張りをマイクロアグレッションを言い訳にして熟そうとしない「野心的じゃない女性」の言い訳だ。

  • 男性と同じようにMBA卒業前からキチンと頑張る

  • 子供が生まれたら即座にシッター(かメインに子育てをする配偶者)に預けて仕事に復帰する

  • 普段の仕事において男性と同様にハードワークを熟す

 これらを実行したら男女の収入格差は生まれないというのがゴールディン教授の研究結果だ。男性と女性が全く同じキャリアなら男性と女性との間には差が生まれないのだ。マイクロアグレッションなどどこにも関係がない。もし、関係があるのであれば「お気持ち」や「印象」ではなく、学問的な裏付けを持った証拠でその関係性を示せという話である。

 もちろん、「子供を即座に預けられるかどうか」に関して、あるいは「(家庭をほったらかしにするような)男性的ハードワークが可能かどうか」に関して、社会にジェンダー差別的構造が存在しているというものはあるだろう。しかし、「スタート時から男性と同じ能力水準で、かつ、子供を即座に預けて男性と同様にハードワークを熟した場合」そこには男女差が生まれない。

 そして、マイクロアグレッションの例として具体的に挙げられた「見た目についてコメントされる・自分の感情状態についてコメントされる」などは一切直接的関係が無い。職場でそういったことを言われようがなんだろうが、男女の収入格差(≒出世の格差)には全然影響しないのだ。

 また、石角氏は記事の結語において以下を述べているが、差別体験がどうのこうのと言いたいのであれば、ゴールディン教授の研究など引っ張り出してくる必要などどこにもない。

私もアメリカ生活が長いため、学校などの組織で自分以外の女性と勘違いされることを多く経験していますが、その度に小さい違和感を覚えていました。もちろん、ほとんどの場合勘違いした人に悪気はないためその場では「マイクロ」な出来事として流すことが多いのですが、今回のレポートで、勘違いされること自体がマイクロアグレッションにあたると知ったことは、大きな発見でした。

マッキンゼー共同調査が明らかにした「女性は野心的じゃない」のウソ…そろそろ現実を直視しません?
石角友愛 2023/11/20 BUSINESS INSIDER

 「こんな不快体験をした。こういうのって善くない!」と言いたいのであれば、素直に「相手を不快にさせるようなものは無くしていこう」と言えばいいのであって、「女性が野心的じゃない、というのは嘘だ!」などと主張するべきではない。

 基本的に「仕事における野心的人間」は男女問わず「ガツガツと働く仕事人間」なのであって、社会は男女問わず野心的なガツガツとした労働に(ある程度)比例して報いる構造となっている。そのワーカホリックな生き方が当人の個人的幸福に結びついているかどうかはともかくとして、そうした人間が高い収入を得ている。

 つまり、女性が高い収入を得ていないのは、マイクロアグレッションがどうのこうのというよりも、その女性が野心的な行動を取っていないからなのである。


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