見出し画像

雨、雨、雨の下山の日

薬師沢小屋は、薬師沢と奥の廊下という流れがぶつかって一つになり、黒部川となる場所。
右も左も沢。

夜寝ていても、沢の音が騒がしく聞こえる。
風流という流れではなく、眠れない。

夜、まだ3時前、外は暗くて、沢の音なのか、雨の音なのかわからない。
隣のお兄さんがゴソゴソと、出発の準備をしている。3時、お兄さんは暗い中出発していった。

「すごいなぁ、こんな暗いうちから出かけるんだ。」

朝ごはんをお弁当に変更してもらっている。
私も、折立12時30分のバスに間に合うように、余裕を持って5時前に出発する。

眠れない。まだ早いけど、出発の荷造りをする。
だんだんと、外が薄明るくなり、天気の様子が判るようになってきた。

「雨だ☂️」
「えー、今日は曇りの予報じゃなかったっけ?」

ゴールの時間が決まっている日に雨だなんて、
太郎平までの登りが心配になった。
と同時に、作ってもらったお弁当は、途中の草原のベンチで景色と花を眺めながら食べる予定だったのに、それが出来ない。残念な気持ちいっぱいだ。

グダグダしていてもしょうがない。
午後からは晴れの予報だから、だんだん小降りになるだろう。でも様子を見ている時間の余裕はない。
一度荷造りしたのに、レインパンツとゲイターをリュックから出し、雨仕様に着替える。

名残惜しい薬師沢小屋、
玄関で、やまとけいこさんにお礼と、
次の本も楽しみにしてますね。と伝えると、

「あっ、ちょっと待って、」

と言って、小さなしおりにイラストを描いてくれた。「薬師沢小屋とイワナ」、そこに私の名前を入れて、やまとけいこさんのサインも。

「かわい〜い、お守りにします!」

「裏は、薬師如来のお守りなんです。気をつけて、また来てくださいね。」

明るく、優しい声で見送って頂いた。

薬師沢小屋から、今日下山するのは私だけ。
他の方々は、雲ノ平に向かう。
寂しい下山。不安な下山。全て自分の判断で進むしかない。
雨はけっこう降っている。
今までも、登山で雨に降られることはあったけど、小雨で短時間。
今日は本格的な雨の中、折立まで、6時間歩かなくてはならない。

初めての山小屋泊まりは涸沢カールだった。
その時も、辛い最後の登りで雨にザーザー降られた。その時以来の雨の登山だなぁー。

薬師沢小屋からは、しばらく木道の稜線を歩く。雨を遮ってくれるものはない。
雨は容赦なく、体を叩く。カベッケが原をうらめしく眺めながら、黙々と歩く。晴れてれば、ここのベンチで朝のお弁当を食べる予定だったのに。
夕べ作ってもらったちまきのお弁当は、まだリュックの中だ。

「どこでお弁当にしよう?」

雨の中では、リュックも開けられない。

薬師沢の小さな沢が現れるが、やばい!増水している。溢れた水は橋の上を流れている。
長い距離を歩くからと、新調したゴアテックスの登山靴は、ちょっとした水溜りぐらいでは、浸水しないが、ここまで水が溢れていると、靴ひも辺りから、徐々に水が染みてくるようになった。

大きな沢にかかる橋は、
橋上までさすがに増水してないが、小さな沢は、ほぼ増水している。川幅も広くなっている。流れの勢いもすごい。
靴に水が入らないように、つま先立って歩いていたら、川の流れの勢いで、流されそうだ。
もう、濡れても仕方ない。しっかり靴底を地面につけて、そろりそろりと、溢れた沢を渡る。

大きな橋を3つ超えると、沢から離れ
太郎平への登りが始まる。
どこの登山道でもそうだが、他より低くなっている登山道は、雨が降ると水が登山道に流れ込む。
ここも例外ではなく、登山道は川になっている。
まだ良いのは、川の水が泥水じゃないこと。
きれいな沢の水が、雨と共に流れてくる登りの道を、はぁはぁと、荒い息をしながらひたすら登る。

辛いのは、休憩するところがないところ。
そして、靴の中に水が入りグチュグチュと音を立て、そして重くなった靴だ。

靴を脱いで靴下を変えるところもないし、
休憩すれば体は冷える。

もー、太郎平小屋まで歩き切るしかない。
息を整えるくらいの休憩で、休みなく歩いた、登った!雨はいっこうに、弱まる気配がない。展望もない。

太郎平を出発して、薬師沢に向かう人達と、パラパラとすれ違うようになってきた。

「この先の沢はどうですか?」

と聞かれ、

「小さな沢は増水してます。気をつけて。」

と言ってすれ違う。

木道に出た。登り切った。もうすぐ太郎平小屋だ、

7時30分
頑張った〜、太郎平小屋だ。

しかし、座ってゆっくり休憩しようと思った外の屋根付きのテラス席は、雨が吹き込んだのだろう、ビショビショで座れたものではない。
そして、これから出発する人達で溢れている。

レインウェアは、外は雨でびしょ濡れ、中は汗でびしょ濡れ。
びっしょり汗をかいたウェアは、風で冷えて寒い!
ゆっくり休憩していたら、冷えてしまう。
たったまま、ちまきを2つ食べ、トイレだけ済ませて、すぐに出発した。

昨日の男性グループの皆さんも、
この雨の中を歩いているだろう。頑張ろう。

太郎平小屋からの下りは、しばらくはゆる〜い稜線の下りだ。登ってきた時は、ここに薬師岳が見えていたのに、今日は雲の中で姿を見せてはくれない。それでも広く開けた稜線は気持ちいい。
急がなくていい。
ここまで来れば、バスの時間には充分間に合う。

のんびりと、時に来た道を振り返り、景色を眺め水たまりになった登山道をゆるゆる下る。
雨は少し、小降りになっていた。


折立から、今日薬師沢を目指して登ってくる人達が増えてきた。
今日は土曜日、若いグループが多い。
前のベンチでは、沢山の人が休憩をしている。その中に、

「あ!追いついた〜昨日はありがとうございました!」

昨日の男性5人グループだ。
同じ日に折立に下山し、バスも一緒と聞いていた。
ここから、またご一緒させて頂いた。

もうこの辺に来て、私の足はフラフラだった。
膝は痛いし、足の付け根はガクガクして、力が入らずフラフラだった。

これから登ってくる人達とのすれ違いが、良い休憩になっていた。

皆さんのペースについて行けず、遅れがちになっていた。
最後の休憩では、雨もほとんど上がっていたので、レインウェアをリュックにしまい、水分補給して、皆さんより先に歩いて下り始めた。

30分程で、愛知大学登山部の慰霊塔が現れる、登山口に到着した。

歩き切った!全身汗と雨とでびしょ濡れだった、髪も4日も洗ってない、ボサボサだ。
でも自分が誇らしかった。
初めての3泊4日のロングコース、歩ききれるのか不安だった。正直怖かった。
私の体力は、思っていた以上にある事にも気づけた。

何より、雲ノ平で見上げた100名山は圧倒的だった。写真では伝えられない。
存在感と雄大な姿と、それでも私達人間を優しく見つめているかの様な優しさも感じた。

一度は行きたい雲ノ平と高天原温泉は、また行きたい場所になった。

この場を借りて、
3泊4日の山行きに、一緒に歩いてくれた沢山の方々、山小屋スタッフの方々、皆さまがいて、
この大冒険を楽しむ事が出来ました。

ありがとう!
また、来ます!

この後、富山駅で温泉に入り、
きれいになって帰りました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?