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日本とワルシャワのショパンの1949年

「眞木先生の音は可愛く激しく、独特な世界が聞こえる。まさに現代にピッタリ!」(綾戸智恵/ジャズシンガー


ショパン没後100周年である1949年。戦後4年、世界は戦争の惨禍からの復興の最中にありました。ナチスの侵略によって壊滅させられたショパンの故郷ポーランドのワルシャワでは、このショパンの記念的な年に、戦後初「第4回ショパン国際ピアノコンクール」を開催し新しい時代の幕開けを行いました。(このコンクールの優勝者は同率一位ということで、ハリーナ=チェルニー・ステファンスカ [ポーランド]とベラ・ダヴィドヴィッチ [ロシア] の2名に栄誉が与えられました。彼女たちはその後、順調に活躍して世界的なピアニストとなり、日本でも馴染みのある演奏家でもあります。)

時を同じくして我が日本では、若き日の二人の天才、朝比奈隆(44歳)指揮、眞木利一(22歳)ピアノ&関西交響楽団によるショパン「ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11」の演奏が、戦争で打ちのめされた人々を鼓舞するかのように関西のラジオ局で放送されました。

30分のラジオ放送用にカット(abridged)された部分があるにせよ、これは日本最古のショパン「ピアノ協奏曲第一番」全曲録音です。
技巧面では昨今の演奏に及ばないかもしれませんが、当時の白熱したライブ感や情熱的な表現は、ダイレクトに感動を呼び起こしてくれるパワーが秘められています。後に世界的な指揮者となった朝比奈隆氏の録音としても最古の部類のものであり、またジャズの世界でも活躍しお弟子さんにはあの綾戸智恵さんもいらっしゃる眞木利一氏の22歳という瑞々しいショパン演奏を聴ける唯一の音源となっています。

眞木利一氏は、パウル・シュルツ教授と、フジコ・ヘミングさんの師匠でもあるレオニード・クロイツァー教授に師事したピアニスト。多才な眞木氏はその後ジャズ音楽に活動の場を広げていきますが、「クラシック界での活躍を期待していた朝比奈隆氏はさぞ悔しかったのでは?」と、綾戸智恵さんは語ってくださいました。
晩年、モーツァルトのピアノ協奏曲を収録した骨太の素晴らしい演奏がCD化されていますが、その他には眞木利一氏のクラシック演奏を聴くすべがありませんでした。

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CD化に際して用いられたSPレコード4枚8面は、当時の好事家によってラジオ放送をエアチェックしたプライヴェート録音であり、材質が極めて特殊なアルマイト盤であるために保存状態全体的に保存状態が悪く、部分によっては剥落・腐食していました。(下記写真参照)
また盤面によって保存状態にもバラつきがあり、部分部分でノイズに埋もれていたり、急にピアノの音が鮮明になったりと現代のデジタル録音とは雲泥の音質差があります。
それでも尚、日本を代表する若き日の巨匠たちによる72年前のショパン演奏を聴くことができる驚きや喜びは、とても新鮮な体験となることでしょう。

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末筆になりますが、この歴史的にも重要なレコーディングを発見し、提供してくださった松原聡氏(ピアニスト、ピアノ研究家)の情熱と博識に敬意を表します。

そして、このリリースに快く賛同してくださり、多くの貴重なエピソードを聞かせてくださった眞木利一氏のご親族とジャズシンガーの綾戸智恵さんに深く感謝いたします。


皆様からいただいたサポートは、ピアノ歴史的録音復刻CD専門レーベル「Sakuraphon 」の制作費用に充てさせていただき、より多くの新譜をお届けしたいと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。