p.4|物語のしっぽ / Tails of a tale
このところ、ビーズ刺繍、糸刺繍、鉛筆画で同じひとつのイメージを描いていた。『ありふれたくじら』Vol.6の挿絵につながるイメージ。素材によって生まれる変化がおもしろい。
手仕事の繰り返しは、受けとる情報が日々変わる予測できない不安の中でも、今日から明日へ続いていく日常を作り出していく。
このイメージは、あるひとつの考古遺物のことを調べながら芽生えてきた。
2019年の春、ニューヨーク州アルバニーのニューヨーク州立博物館に収蔵されている平板(タブレット)を見に行った。19世紀、ニューヨーク州ロングアイランドの島の中央部のブルックヘイブンという町で、畑を耕していた農夫が見つけた平たい雲母の平板だ。大きさは19.7×15.5cmほど。黒く輝く雲母の表面に、細く傷をつけて描いたような絵がある。
(上:取材時のスケッチ)
平板の中央にはツノの生えた、蛇のように長く手足のない「怪物」が描かれている。その背中には少し小さな生き物が2頭くっついている。その口は怪物に似ているが胴体は短く、前足・後ろ足があるようにも見える。怪物のまわりには鯨と思われる尻尾が4、5頭、まるで怪物から逃げているように描かれている。絵が何を表すのか、どのように使われたのかも、はっきりとはわかっていない。中央に描かれた怪物は、ロングアイランド周辺の先住民の伝承にある「海の精霊」ではないかとも考えられている。鯨を浜辺に打ち上げ人々に授ける精霊だ。
(上:"Legacy" The magazine of the New York State Museum, Vol.3 No.1 Summer 2007 のコピー)
頭にはツノ、大きな口を持ち海に棲む蛇のような長い体の怪物。まるで、竜のようにも見えてくる。そういえば日本の三陸沿岸部の伝承では、竜神は海底に棲むものだという。ロングアイランドの雲母に描かれた怪物/精霊と、日本の私たちが知る竜とは、何か関わりがあるのだろうか。
遠く離れた土地でも、海にまつわる伝承はどこか似ていることがある。どこまでがひとつの物語で、どこからが別の物語なのか、それともそれらは同じひとつの物語だったのかーーその広がりを想像しながら、イメージをかたちにしていく。
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