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夢の中のわたし

いつからだろう。
生きるのがつらくなったのは‥。

今年で29歳。
恋人と呼べる人とは三年前に別れ
それ以来心華やぐようなことはなにもない。

会社では誰よりも早く出社し仕事を始める。
昼は手作りした弁当を一人で食べる。同僚とは必要な会話のみ。
笑うことなど一切なくきっと誰からもつまらない人間だと思われているに違いない。

このままではコミュニケーションを取る力も考える思考が低下するのも分かっていた。
でもそれでもぃぃと思ってた。

定時ぴったりに会社を後にし駅に向かう。満員電車に揺られながら
今日の出来事がふと甦ってきた。

「なぁ‥こんなもん必要ないだろう‥俺が指示したか?してないよなぁ‥っと役に立たねーよなお前」

言われたことをやったまでなのに彼は指示したことさえ忘れている。いつものことだ。
理不尽だとはじめのうちは
思っていたがもう慣れた。
無言のまま彼の嵐が過ぎるのを待った。

「ただいま‥」
一人で暮らす真っ暗な部屋に帰り布団に飛び込む。

寝ている間は幸せだ。
なにも考えないでただ夢の中へと身を委ねればいいのだから。


「みや‥みや‥」

私の髪を撫でながら
誰かが名前を呼んでいる。

そうだ‥私‥夢の中でこの人と‥。

昨日の夢を思い出した。

「シュウ‥。」

ゆっくりと目を開けながら
彼の名前を呼んだ。

「みや‥うなされてたよ。
苦しそうだったけど‥
変な夢でもみたの?」

心配そうに
シュウが私の顔を覗き込む

「大丈夫‥なんでもなぃよ」

彼の胸に顔をくっつけた。

ここはシュウのいる夢の世界。
日々の辛い現実から逃れ
シュウとずっと居られたらぃぃのに。

夢の続きが見たい
そう強く願うとシュウのいる世界に毎晩来ることができるのだ。

そのおかげで私の心も次第に
和らいでいき少しずつではあるが同僚に愚痴を言ったり笑って会話できるようになっていた。

そんなある日会社で突然異動の辞令が下された。周りに打ち解けてゆく私の事がパワハラ上司の気に触ったのだろう。

配属先の新しい上司の木ノ下さんは前の上司とは違い優しく丁寧で私のことをなにかと気にかけてくれていた

新部署での歓迎会の帰り道

「ふたりで飲み直しませんか‥」

木ノ下さんから声をかけられた。
お酒の力もあったのか会話は弾みそれからは毎日電話をし彼の声を聞き眠りにつくようになった。
私はいつの間にかあの夢のことも
シュウの存在も忘れてしまっていたのだ。


それから1ヶ月程経ったある日
木ノ下さんが出張になり時間の空いた私はソファでうたた寝をしていたようだ。
目の前にシュウがいた。

「シュウ‥あの‥あのね」

「ん?どうした?」
シュウはいつもと変わらない優しい顔で私を見た。

「私ね‥もうここには居られない。シュウには感謝してるの。救ってくれた。とても幸せな夢だった。でも現実に帰らなきゃ。木ノ下さんが待っているの」


「みや‥なにいってるの?ここ現実だけど?」

「え‥こっちが現実?」



いつからか私は夢と現実の境が分からなくなっていたようだ。


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