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小さな幸せを味わうクリスマス菓子 〈菓子四季録 vol.8〉

菓子四季録では、グラフィックデザイナー  澤田清佳さんと一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、熟成されていく味わいを楽しむ「ラム酒漬けフルーツのクグロフケーキ」。


Advent(クリスマス前の期間)を楽しむケーキ

街中にクリスマスツリーが飾られ、イルミネーションが灯り、クリスマスソングが流れる。そんな12月がけっこう好きです。みんながウキウキしてわくわくしてる感じが漂い、日を追ってその感じが大きくなっていく。その盛り上がっていく雰囲気が好きなのです。

どんなに暖冬と言われていても、12月になると朝晩の空気はキリッとしてきて、透明感を増し、ああ冬だなと思う感じも好きです。セーター着て、コートを着て、マフラーを巻いて、手袋をしてどんどんモフモフになる冬の重ね着も好き!

今月はそんな今の時期にぴったりな「ラム酒漬けフルーツのクグロフケーキ」を紹介します。ラム酒漬けのフルーツをたっぷり入れて作ります。市販のものを使ってもいいのですが、とっても簡単なので時間があればぜひ手作りしてみてください。おいしさのレベルが上がります。

ラム酒漬けフルーツの他にもスパイスやアーモンドパウダー、はちみつ…とおいしさを積み重ねて、さらにラム酒のアイシングでデコレーション。すぐに食べてもおいしいのですが、作ってから寝かすとさらに深みが増すケーキです。

幾層にも重ねられた味わいと香り

ヨーロッパでは「アドベント(Advent)」という期間があります。クリスマスより前の日曜日から数えて3つ前の日曜日から12月24日までがその期間にあたります(今年2023年は12月3日から24日)。この日曜日から本格的にクリスマスを楽しむ準備が始まります(宗教的にはイエス・キリストの降誕を待ち望む期間のこと)。ツリーを飾ったり、ろうそくを灯したり、カードを送ったり、クリスマスのお菓子を食べたり。クリスマス当日だけでなく、それまでの期間を楽しむ感じがとても好きです。日本でもお馴染みになりつつある「アドベントカレンダー」はここから来ています。クリスマスまで指折り数えて、みんなで盛り上げていくのがこのアドベント期間。

アドベント期間に食べるケーキとしてもオススメです

計画好きとしては何事においてもその準備期間が好き。旅も計画を立てている間の妄想期間が好きですし、荷物のパッキンをあれこれ考えながらしているときもそう。テスト勉強自体はそこまで得意じゃないないけれど、テスト勉強の計画を立てるのは好きでした。何か大きなイベントもそこに向けて準備していく間がイベント自体と同じかそれ以上に楽しい。

クリスマスもその前の準備期間にあれこれする時が本当に楽しいのです。そんなアドベント期間にもぴったりなケーキ。長持ちしますので、早めに作って、毎日少しずつ食べて、クリスマスまでの日々をさらに楽しく過ごしてみてください。


ラム酒漬けフルーツのクグロフケーキ(レシピ)

材料(直径18cmのクグロフ型1台分)
食塩不使用バター 140g
グラニュー糖 130g
塩 小さじ1/4
卵(M) 3個
バニラオイル 少々
◯ 薄力粉 140g
◯ アーモンドパウダー 40g
◯ スパイス 小さじ1/2〜1
*シナモン、カルダモン、クローブ、ジンジャー、オールスパイス、アニス、ナツメグなどが代表的なクリスマススパイス。この中から好みのスパイスを使います。スパイス初心者はシナモンだけを使ってもいいでしょう。
ラム酒漬けフルーツ 250g(水気を切った正味)
*自家製のラム酒漬けフルーツの作り方は後述しています。
<シロップ>
ラム酒 大さじ2〜3
はちみつ 30g
<アイシング>
粉砂糖 100g
ラム酒 大さじ2〜3

【作り方】
下準備:バターを室温におき、やわらかくする。卵を使う直前まで冷蔵庫で冷やし、卵黄と卵白に分ける。◯をあわせてふるう。オーブンを170度に予熱する。

バターのやわらかさは押した時に
指がスッと入るくらいが理想
冷やした卵を直前に取り分けます
粉類はまとめてふるっておきます

1.型に溶かしバター(分量外)を塗り、バターが固まるまで冷蔵庫で冷やす。強力粉(分量外)を茶こしで薄くふり、型を軽く叩いて余計な粉を落とす。生地を入れるまで冷蔵庫で冷やしておく。

溶かしバターを丁寧に塗ります
強力粉を茶こしで薄くふります
余計な粉は落とします

2.ボウルにバターを入れ、なめらかになるまでゴムベラで練る。グラニュー糖の半量と塩を加え、白っぽくふわっとするまでハンドミキサーでしっかりと泡立てる。

泡立てる前にまずはバターだけでよく練ります
グラニュー糖を加えます
ハンドミキサーで泡立てます
色が白っぽくなり、ふわっとしたらOK

3.のボウルに卵黄、バニラオイルを加えてさらによく泡立てる。

卵黄を加えてさらに泡立てます

4.別のボウルに卵白を入れ、ハンドミキサーで泡立てる。やわらかい角が立ったら、残り(半量)のグラニュー糖を2回に分けて加え、ハンドミキサーの羽根に詰まるくらいかたいメレンゲを作る。

卵白だけで泡立てます
やわらかい角が立ったらグラニュー糖を加えます
しっかりとしたメレンゲになるまで泡立てます

5.の生地にのメレンゲの半量を加え、ゴムベラで混ぜる。◯の粉類を半量ふるい入れ、ゴムベラで切るように混ぜる。残りのメレンゲ、◯の粉類を同じように順に加えて混ぜる。

メレンゲを半分入れます
手早く全体を混ぜます
粉類を半分ふるい入れます
全体を混ぜます
さらにメレンゲ、粉を順に加えて混ぜます
生地の出来上がりはこんな感じ

6.のボウルにラム酒漬けフルーツを加えて混ぜ、クグロフ型に入れる。170度に予熱したオーブンで50〜60分ほど、しっかりとした焼き色がつくまで焼く。竹串を刺し、生地がついてこなければ焼き上がり。
*しっかり焼いた生地にシロップを染み込ませることで、食感がよくなります。

ラム酒漬けフルーツはたっぷり入れます
丁寧に型に入れていきます
焼き色がしっかりつくまで焼く

7.シロップ用のラム酒とはちみつを小鍋にかけて人肌に温め、型に入れたままの焼きたてのケーキに染み込ませる。粗熱が取れたら型から外し、ラップに包んで最低でも1日置く。
*3日程度置いておくと味がぐっと馴染みます。ラップの上から重ねてラップを巻いて冷暗所に置くと、冬ならば1ヶ月ほど保存可能。保存時は乾燥しないように気をつけましょう。

はちみつを加えるとコクが出てさらに保湿力アップ
はちみつが溶けたら出来上がり
焼きたてのケーキに染み込ませます

<仕上げる>
8.アイシング用の粉砂糖とラム酒をボウルに入れ、ゴムベラやスプーンなどでよく混ぜる。ケーキの上からかけ、乾かす。

ラム酒で作るアイシングです
混ざりにくいので丁寧に馴染ませます
かなり、かためのテクスチャーです
ようやく、下に落ちるくらいのかたさ

スパイスを効かせる

今回はスパイスを色々混ぜて使っています。シナモン、カルダモン、クローブ、ジンジャー、オールスパイス、アニス、ナツメグなどが代表的なクリスマススパイスと言われています。どれを使うかはお好みで。スパイス初心者はシナモンを少し加えるだけでも。スパイスが少しでも入るとクリスマス感が出ますよ。私はアニス以外のスパイスを適当にミックス(アニスの香りは少しだけ苦手なのです)。混ぜているときもクリスマスっぽい香りがして、幸せな気分になります。スパイスは香りだけでなく、殺菌・抗菌にも効果があります。考えてみたら、ヨーロッパのクリスマスのお菓子にはスパイスが入っているものが多い!シュトレン、クリスマスプディング、ヘクセンハウス、パン・デピス、ミンスパイ…。あれは味わいもさることながら、長持ちさせる為でもあってとっても理にかなっているんだなあと実感。

ちょっと実験みたいで楽しい
自分好みの配合でどうぞ
いろんなスパイスを使うと香りがさらに豊かに

型の準備は丁寧に

そして下準備。クグロフ型は少し形が複雑なので丁寧に溶かしバターを塗ります。一度冷やして、薄く強力粉をまぶします。そして使うまでは冷蔵庫で冷やしておきます。型からきれいに外れるかどうかは、やはり下準備にかかっているなと思います。適当にやると一部がうまく外れずガッカリすることも。お菓子の見た目はとっても大事なので、きちんと手順を踏んで準備してくださいね。

細かいところまで丁寧に
粉は薄く、まんべんなくが理想
余計な粉は型をトントンと叩いて落とします

メレンゲをしっかり泡立てる

前回の洋梨のケーキはシュガーバッター法で作り、ベーキングパウダーでケーキを膨らませています。今回は同じシュガーバッター法なのですが、メレンゲを使い膨らませていきます。なので「メレンゲ作り」がすごく大事!

メレンゲは油分が入ると上手に泡立たなくなります。きれいなボウルを使うのも大事ですが、卵白と卵黄を分ける時に卵黄が少しでも混じらないことが大事。卵白、卵黄を分けるのは専用の道具を使ってもいいですが、個人的には卵黄を優しく手ですくう方式が簡単でおすすめです。卵は冷やしておくと、卵黄の油分がしっかりとして取り分けしやすいです。

卵を冷やしておくと卵黄が崩れにくいです
卵黄をすくったら、余計な白身を除いていきます
卵黄は割らないように丁寧に扱って

グラニュー糖が入ると、卵白は安定しますが粘度が上がって泡立てにくくなるので、最初は何も入れずに泡立てます。そして少し角が立ってきたら、グラニュー糖を2回に分けてしっかりとしたメレンゲを作ります。もちろん、その前にバターとグラニュー糖でしっかり泡立てておくことも大事です。ふわっとしていることで、メレンゲが素早く馴染みます。

メレンゲはもこもこしてくるまで泡立てます

メレンゲ作りがうまくいけば、あとは順番に混ぜていくだけ。メレンゲの泡を潰さないように手早く混ぜてオーブンへ。焼いているとすごくいい香りがしてきます。この香りをかぐと「ホリデーシーズンだなあ」としみじみ。そして、この香りを堪能できるのは作る人の特権。お菓子が焼き上がるのを持つ時間は私にとっては至福の時間です(仕事だとそうも言ってられないときもありますが)。

シロップとアイシング

焼きたてにシロップを染み込ませていきます。「はちみつをこんなに使って甘すぎるのでは?」と思っても大丈夫。このシロップのおかげで時間が経ってもケーキがしっとりと保湿されます。そしてラップに厳重に包んで数日寝かします。時間が経つとフルーツと生地とスパイスとシロップが馴染んで一体感が増すのです。

シロップが全体を保湿します
乾燥には注意して寝かします

そして仕上げはラムアイシングです。このベージュカラーはラム酒の色。大人味のアイシングです。そしてこのアイシング部分がとってもおいしいのです(苦手な人は水を代わりに使って下さい)。ここの部分がもっと欲しい!と食べながら思うのですが、このくらいがベスト。

みなさんが思っているより、テクスチャーがかなりかたいのです。ゆるく流れ落ちるくらいのかたさだと、かけた直後は良いのですが、しばらく経つと下に落ちてしまいます。大事なのはアイシング自体の自重でゆっくり落ちて、下につかないくらいのかたさにすること。こうすると絵本で出てくるようなビジュアルのアイシングになります。

すくって落とすとようやく落ちるくらい
流れるようには落ちないかたさ

「アイシングをかける」は撮影でもよく取り上げられるポイントです。その度にこのアイシングのかたさは「え、こんなにかたいの?」と毎回驚かれます。そのくらい持ち上げて垂らすと、ようやくゆっくり落ちるくらいです。

最初から落ちずに、少し時間が経つと垂れるくらいのかたさ
絵本チックなビジュアルのアイシング

ラム酒漬けフルーツの作り方

ラム酒漬けフルーツはぜひ、手作りをしてみてください。

1. 瓶を煮沸消毒するか、アルコールで拭く。
2. 好みのフルーツをボウルに入れて混ぜあわせる。
*オイルコートしてあるドライフルーツは熱湯をかけて、乾かしてから使う。
*サイズの大きなものは、適当な大きさにカットする。

いろんなフルーツを入れるとおいしい
全体をムラなく混ぜます

3. 瓶にきっちり詰めていく。フルーツがしっかりお酒に浸るように、ラム酒を注ぐ。

瓶に詰めていきます
ラム酒を浸るまで注ぎます

4. 2〜3日経つとフルーツが水分を吸い、顔を出してくるので、ラム酒を少し足す。冷暗所で保管する。1週間後から使えるが、1ヶ月ほど漬けてから使い始めるのが理想。

数日後に少しラム酒を足します
左は漬けたて、右は1年前に漬けたもの

レーズンを基本にクランベリー、アプリコット、いちじくなどお好みのドライフルーツを清潔な瓶に入れて、ラム酒を注ぐだけ。あとはそのまま時間をおけば出来上がりです。私はいろんなことに使うので、大きな瓶で漬けています。

小さな幸せを運ぶケーキ

出来上がったケーキはじっくり、ゆっくり楽しむのにふさわしい味わいです。濃いめなので、薄く切って少しずつ楽しむのがおすすめです。色々な味と香りが重なり、さらに寝かすことで味が深くなっていきます。紅茶にもコーヒーにも合いますし、お酒好きな人はワインと合わせても!

ケーキカットを真剣に見つめるはぴ
薄く切っていただきます

私は毎年、クリスマスがくる前にこのケーキとシュトレンを焼いています。おやつの時間に自分の為に少しだけ切っていただきます。クリスマスデコレーションをしたお部屋で、チャコフスキーのくるみ割り人形の音楽(毎年12月はこれとクリスマスのスヌーピーの音楽がヘビーローテションされます)をかけてティータイムを過ごします。いろんなことを小さく重ねたこのお茶の時間は私にとっては宝物。静かに、ゆっくり楽しむのにこのケーキはぴったりなんです。

クリスマスのテーブルにもぴったりです
コーヒーも一緒にどうぞ

もちろん、ケーキは我が家にやってきた方々にも少しずつサーブします。「わー、クリスマスですね」とみんな目がキラキラします。そんな様子を見ると私もとても幸せになれます。

Christmas is doing a little something extra
for someone.
クリスマスとは誰かの為に少しだけ特別なことをすること

Charles M. Schulz

これはスヌーピーの作者チャールズ・M・シュルツさんの言葉です。「ちょっとだけ」っていうのがいいなあと思います。誰かの為にちょっとしたいいことをすると、自分自身も幸せな気持ちになれるのは科学的に証明されている事実。そうやってみんなが誰かのために少しだけ優しくなれれば、世界はきっともっとよくなっていくはず。

私はクリスチャンではありませんがクリスマスは「大切な誰かの幸せを願う日」だと思っています。みなさんのクリスマスシーズンが温かく、優しい時間でありますように。そして、このケーキが誰かを幸せにしてくれたならばこんなにうれしいことはありません。

May you find hope and peace this joyous season and may the coming year be your most successful year yet!!

【Photos : Sayaka Sawada】

同じレシピをグラフィックデザイナーの澤田清佳さんが絵で紹介しています。絵のかわいさもさることながら、手順の流れがとってもわかりやすいです。個人的にはイラストで全体を把握し、写真で詳細を確認していただくのがおすすめです。

子どもの頃はフルーツケーキが苦手だったという清佳さん。大人になった今、それが好きになった理由とは?
清佳さんは今回のフルーツケーキを「にぎやかさとあたたかさが詰まっている」と表現しています。フルーツケーキの真髄は「時間を味わうこと」というメッセージと共に食べ物の持つ魅力の「味」以外の側面についてのお話をぜひ読んでみてくださいね。

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