メロンと睡蓮、そして旅に行きたい〈菓子四季録 vol.14〉
菓子四季録では、イラストレーター 澤田清佳さんと一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、甘い香りを楽しむ「メロンのビスキュイロールケーキ」。
好きな果物選手権堂々の第2位!
「いちばん好きな果物は何ですか?」という質問の答えは決まっています。
「白桃」です。詳細は長くなるので以下で。
そして2位は「メロン」です。こちらもけっこう私の中では長い間不動の地位(3位はけっこう変わっています)。しかしながら、メロンへの愛は白桃のそれとは違います。白桃に向けるのが狂おしいほどの愛であれば、メロンへは穏やかで、優しく静かな愛。この違いは一体なんなのでしょう?
私は茨城出身なのですがメロンは我が県の名産品(メロンの生産量日本一です!)で、小さい頃から夏といえばメロンでした。スイカも栽培が盛んで、よく食べていたのですが、私はこどもの頃からメロン派でした。
ジューシーさ、優しい甘さ、品のある香りと味わい。瑞々しさと上品さを併せ持ち、見た目のグリーンも涼やかで透明感があふれています。私の誕生日の少し後にいつもメロンが箱で届きます。母からの誕生日プレゼントです。地元の名産品であり、娘の大好物であるメロンを贈ってくれる母、最高です。
そんなメロンを使ったお菓子ですが、今回はロールケーキにしてみました。メロン、スポンジ、クリームの組み合わせにするのは決めていたのですが、ショートケーキではなくロールケーキです。スポンジは「ビスキュイ」にしました。
この「ビスキュイ」は「苺とミルキークリームのブッセ」の時にも使っています。
「ビスキュイ」は別立て法で作られたスポンジ生地のことです。別立て法とは、卵黄と卵白を別々に泡立てる方法のことで、一緒に泡立てる共立て法に比べて、ふんわりとした軽い食感に焼き上がるという特徴があります。共立て法で作るスポンジは「ジェノワーズ」と呼ばれています。ショートケーキのスポンジケーキにはこの「ジェノワーズ」が使われます。
「ビスキュイ」は砂糖が多めで、バターなどの油脂分は入りません。メレンゲがしっかり泡立つので、軽くふわふわした食感が生まれます。吸水性があるのでティラミスやムースの土台にも使われます。果物の中でも水分多めのメロンにはぴったりの組み合わせ。
クリームは、泡立てた生クリームに水切りヨーグルトを加えたヨーグルトクリームです。生クリームだけだと夏はやはり重たいので。軽やかなヨーグルトクリームはメロンとも相性良し。
ビスキュイ生地、ヨーグルトクリーム、メロン。この3つが一体化されるとまたなんとも素敵なハーモニーが生まれます。ふわっサクのビスキュイ生地に、なめらかでコクもありつつ爽やかなヨーグルトクリーム。そこに上品な甘さと香りのメロン。優しくて、軽くて、爽やかな組み合わせは暑い季節にもぴったりです。見た目も白と薄いグリーンの組み合わせが上品で美しい。
メロンは1年中手に入りますが、旬は夏。いろんな種類のメロンがお店にも並びます。種類はともあれ、T字のヘタがついたメロンは大体、奥の棚とか1段高い場所に置かれています。高級メロンの印とも言える、このメロンのT字型のヘタのことを「アンテナ」と呼びます。これは1株から1果とれた証拠として、側枝を残したのが始まりです。 まっすぐに伸びた美しいTライン。 そして均整のとれた、丸々としたメロンは丁寧に育て上げた証。
今日はせっかくなので、アンテナのついたメロンを入手!こちらを使っておいしいロールケーキを作っていこうと思います。
メロンのビスキュイロールケーキ(レシピ)
下準備(工程1が終わったタイミングで行う):天板にオーブンペーパーを敷く。薄力粉をふるう。丸口金を絞り袋にセットする。オーブンを190度に予熱する。
1.ザルにペーパータオルを3〜4枚重ねて敷き、プレーンヨーグルトをのせ、重さが半量になるまで水切りする(約2〜3時間)。
2.ボウルに卵黄とグラニュー糖(A)を入れ、白っぽくふわっとするまで泡立て器で泡立てる。
3.別のボウルに卵白を入れ、ハンドミキサーで泡立てる。やわらかい角が立ったら、グラニュー糖(B)を2回に分けて加え、しっかりしたメレンゲを作る。
4.2の生地にメレンゲの1/3量を加え、泡立て器でムラなく混ぜ合わせる。残りのメレンゲを2回に分けて加え、その都度泡立て器でムラがなくなるまで混ぜる。
5.薄力粉の半量をふるい入れ、ゴムベラで切るように混ぜる。粉が見えなくなったら残りの薄力粉を同じように加えて混ぜる。
6.丸口金をつけた絞り袋に5の生地を詰め、天板に斜めに絞り出す。上に粉砂糖の半量を茶こしでふる。粉砂糖が消えたら再度ふる。
*隙間がないように絞り出しましょう。
7.190度のオーブンで12〜13分焼く。生地の表面に焼き色がつき、触ってみて弾力があれば焼き上がり。
8.ケーキクーラーの上に、焼き色のついている面を上にしてのせ、粗熱をとる。
9.メロンを縦長に切りキッチンペーパーの上に置いて水分をとる。
10 .ボウルに生クリームとグラニュー糖を入れて、ボウルの底を氷水で冷やしながら九分立てにする。水切りしたヨーグルトを加えて全体をよく混ぜる。
11 .オーブンペーパーの上に焼き色のついた面を下にして生地を置き、オーブンペーパーをゆっくりとはがす。クリームを塗り、メロンを並べ、手前から巻いていく。形を整えてラップで包み、冷蔵庫で1時間以上冷やす。
作り方のさらなるポイント
*ヨーグルトの水切り
「ヨーグルトの水切りは2〜3時間が目安です。もっと早く!!!という方は下に敷くキッチンペーパーをこまめにとりかえてみてください。さらにヨーグルトの上にもキッチンペーパーをのせて、何か重石になるものを置くとさらなる時短に。もともとゆるめなテクスチャーのヨーグルト(『小岩井 生乳100%』ヨーグルトとか)は水を切っても柔らかすぎてしまうので、ごく普通のプレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト的な)がおすすめです。」
とキウイの記事に書いたのですが、これらに加えてキッチンペーパーの枚数を多くするのも有効です。ヨーグルトの水分を吸い取る作戦です。
待ちの姿勢で臨むと待ち時間が長く感じられるので(せっかち、あるある)、前の晩から準備しておくのが理想的です。
*ビスキュイ生地
卵はMサイズを使うと3個だと足りず、4個だと余ります。なので計量して使ってください。卵白の泡立てをしっかりすれば、混ぜても絞ってもそこまでへたれません。ただ、手早さは必要。出来上がった生地を素早く絞れるように、天板と絞り袋の準備は事前にしておきます。
絞るのはあまり考えずにテンポ良く絞った方がまっすぐになるような気がします。曲がったとしても、巻いてしまうと見える部分は限られますのでそこまで気にする必要なし。どうしても気になる部分は粉糖をふれば大丈夫。
メロンの切り方と巻き方
メロンは縦に長めに切ります。こうやって切って巻くと、メロンが芯になり巻きやすいのです。またこの置き方をすると、カットした時に必ずメロンが出て来ます。
巻く時に定規等を使うと、しっかり巻けます。文章で説明するとむずかしいのですが、とにかく違う方向に引っ張ることでぎゅうっと締まります。
*粉砂糖でさらさらに
焼きが甘かったり、湿気が多い時期はビスキュイの表面の砂糖が溶けてきやすいです。こういうときは溶けないタイプのデコレーション用の粉砂糖をふりかけておくとさらさらがキープできます(なんか化粧品のフェイスパウダーみたいな感じ?)。
メロンと睡蓮と私にノスタルジィを添えて
チームメイトの清佳ちゃんに「今回はリキュールは入らないんですね」と言われて気づきました。確かに。例えばキウイの時に使ったヨーグルトクリームにはコアントローを加えました。けれど、今回は「入れる」という選択肢は浮かびませんでした。合わないわけではないけれど、そうするとメロンの繊細な味わいが消えてしまいそうだったからです。
気づけばケーキをのせるお皿も、白とか薄いグリーンやシルバーなど淡いカラーを選んでいました。この優しくて、軽くて、爽やかな組み合わせは何か強いものが入るとかき消されてしまう。酸味も欲しいけれど、サワークリームやクリームチーズでは強すぎる。リキュールの風味はtoo muchになってしまう。淡くて、繊細で美しい景色の中に強い色はいらないのよね、みたいな気分なのです。
そんなことを思っていたら、その空気感はなんだかモネの「睡蓮」みたいだなと思いました。寒色系の淡い色が重なり、近くで見ているとそれがなんだからわからない。でも、少し俯瞰すると美しい景色が浮かび上がる。
もちろん、睡蓮は連作でいろんな絵があります。いろんな色使いがあります。でも私が思い浮かべるのは淡い寒色のグラデーション。水面と反射する光。
柔らかくて、優しくて、ちょっと懐かしい。私のメロンへの思いは、故郷へのノスタルジィのような気持ちを含んだ穏やかな愛なんだって思いました。
"Water Lilies" collection of mine
モネの睡蓮がとても好きで、国内と世界に散らばるいろんな睡蓮を見たいなと思っています。今までもいろんな場所で、いろんな睡蓮を見ました。水の色も睡蓮の様子も様々。モネは睡蓮という絵を通して、光を描いているのだと思います。水面に反映された繊細な光や色彩が重なり、まるでそこにあるような景色が広がっているのです。
モネの睡蓮コレクションを振り返ってみたら、旅に出たくなりました。旅の話もnoteに書きたい。
そして思ったより睡蓮は色が淡くなかった(笑)でも、私の中の睡蓮は薄い寒色のグラデーションなんです。それはまさに今回のケーキみたいな。メロンが美味しい間に繊細なメロディを紡ぐロールケーキをぜひ作ってみてください。
旅に行きたくなりました
ボストン近郊在住の友人が旅行でタイに行き、トランジットで日本に寄ったので久々に再会。マンダリンオリエンタルホテルに泊まって、お土産にスペシャルティーを買ってきてくれました。TWG Teaとのコラボでこれはマンダリンオリエンタルでしか売っていないブレンドとのこと。
グリーンティー(緑茶)ベースでバニラとラベンダーが加えられています。
こちらも優しくて、繊細なお味と水色。甘い香りが幾重にも重なり、メロンのビスキュイロールケーキにもぴったり。マンダリンオリエンタルにもいつか泊まってみたい〜。そしてアフタヌーンティーを体験してみたい。
この記事を書きながら、このお茶を淹れて飲んでいたらさらに旅に行きたいモードへ。まさかこんなに旅に行きたい気持ちになるなんて。旅はいいよね。夏は苦手なシーズンなので家でゆっくりしながら、次の旅の妄想を始めようかなと思います。
【Photos : Sayaka Sawada】*をのぞく
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