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ピアノ伴奏法⑵〜モーツァルト《♪すみれ》


♪すみれ“Das Veilchen” KV476は、1785年6月8日、モーツァルトが29歳のときに作曲された歌曲です。

モーツァルトが文豪ゲーテの詩に曲をつけた唯一の例であり、
モーツァルトの歌曲のうち、最もポピュラーな作品として愛されています。





文豪ゲーテについて

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ヨハン・ヴォルフガンク・フォン・ゲーテ
(1749〜1832)
《代表作》「若きウェルテルの悩み」
     「ファウスト」

・文学者、政治家、自然科学者。
小説家、詩人として名を馳せるだけではなく、ワイマール帝国の大臣を務めたり、公園を設計したり、解剖学や鉱物に詳しかったりと、多才な人物でした。

・ゲーテの作品をモチーフにした音楽作品は多く、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、メンデルスゾーンや、
フランスのグノー(♪ファウスト)、マスネ(♪ウェルテル)、デュカス(♪魔法使いの弟子)など、多くの作曲家に影響を与えています。


ゲーテは14歳のとき、当時7歳だったモーツァルトの演奏に感動して以来、生涯モーツァルトのファンでした。

《♪すみれ》は、モーツァルトが詩の最後の2行を書き加えているのですが、
ゲーテは気を悪くすることなく、むしろ「モーツァルトが曲をつけてくれた!」と喜んだのだそうです。


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《すみれ》 訳と原詩

この詩は、「若きウェルテルの悩み」が書かれたのと同時期、ゲーテが24歳のころ、
いくつものバラード(物語詩)の1つとして、さらりと書かれました。

それまでの観念的で、難しい言葉が多かったドイツ語詩の世界に、ゲーテは新しい風を吹きこみ、

自然そのもののような、素朴で純粋、それでいて感動的な詩を、たくさん作り出したのです。


《すみれ》 (小塩節 訳)

牧場に菫が咲いていた
人にも知れずうなだれて
ほんとに可愛いすみれひともと。
そこへ羊飼う娘(こ)がやってきた
足どり軽く 心も軽く
牧場の小径をあちらから
歌をうたってやってきた。

「ああ!」すみれは思う
「いちばんきれいな花になりたい
ほんのちょっとの間でも
そしてあの娘の手に摘まれ
胸に抱かれて しぼんでもいい。
ああ ほんの
ちょっとの間でも!」

ああ!でも 少女は
気にもとめずに通り過ぎ
踏んで砕いたそのすみれ。
すみれは倒れ 息絶えながら
「これで おしまい
でもあの人の足に踏まれて
あの人の足もとに死ねてうれしい!」

(すみれはかわいそう!
ほんとうに可愛いすみれ ひともとだった。)


※ひともと;離れて1本だけ生えている草木


《Das Veilchen》 (Text:J.W.v.Goethe)

Ein Veilchen auf der Wiese stand,
Gebückt in sich und unbekannt,
Es war ein herzig‘s Veilchen.
Da kam eine junge Schäferin
Mit leichtem Schritt und munterm Sinn
Daher,daher,
Die Wiese her,und sang.

Ach! denkt das Veilchen, wär' ich nur
die schönste Blume der Natur,
ach, nur ein kleines Weilchen,
bis mich das Liebchen abgepflückt
und an dem Busen matt gedrückt,
ach, nur, ach nur
ein Viertelstündchen lang!

Ach, aber ach! Das Mädchen kam
und nicht in acht das Veilchen nahm,
ertrat das arme Veilchen.
Es sank und starb, und freut' sich noch:
und sterb' ich denn, so sterb' ich doch
durch sie, durch sie,
zu ihren Füßen doch!

(Das arme Veilchen!
Es war ein herzig's Veilchen.)


この詩は「すみれ」の、切なくて可憐な感情が表現されています。

恋する少女に摘んでもらいたいすみれが、
少女に気づかれることなく踏まれてしまい、
「でもあの子に踏まれて幸せだった」と思いながら、死んでしまっていく様子が描かれています。


(《♪のばら》の「『摘むなら刺すわよ!』と言うばら」と「乱暴に摘み取ってしまう少年」と比較してみると興味深いです。)




演奏ノート

この歌曲は、よくある有節形式ではなく、
物語風のバラード形式で作曲されているため、

歌詞の情景にあわせて、伴奏がめまぐるしく、どんどん変化していきます。


伴奏する際には、次の3つのことに留意しましょう。

①古典派の楽曲だが、歌にあわせて基本的にレガートで演奏する。

②情景描写、特にすみれと娘との対比に目を向け、各部分を弾き分ける。

③それぞれの場面と、和音の表情について考え、表現する。


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[2]倚音は引き延ばされ、( )内のように弾きます。
[17]右手は、羊飼いの娘の軽やかな足取りを表現しています。
左手はテヌートで、音を十分に保ちます。
[22]〜[26]右手は娘の歌で、伸びやかに楽な感じで弾きます。
左手は、フィンガーペダルを使います(バスを四分音符分のばします)。
[27]ト短調になるので、雰囲気の違いを感じます。

[30]〜[34]右手が、歌のメロディと同じ旋律なので、歌手の表現を限定しないよう、伺いながら弾きます。


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☆「ach!」という単語のところは、伴奏も歌と一緒に切ります。
[49][51]ここは「ertrat das arme Veilchen.」と、すみれが踏まれてしまうシーンなので、深い悲しみを表現するための減七の和音が使われています。
[54]ここは「freut'(喜び)」の感情が歌われているので、明るい属七の和音が使われています。
[61]ここのpのアルペジオは、歌がレチタティーヴォというのもあるので、よくためて大切に弾きます。



楽譜の画像は、下記のサイトのものを使用しました。

こちらのサイトでは、ベーレンライター社のモーツァルトの楽譜を無料で閲覧することができます。





次回のピアノ伴奏法⑶は、シューベルト の《♪夜の夢》を予定しています🌙


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!🌸


さくら舞




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