楽語⑴〜速度記号
今回は、Adagio、Andante、Allegro、Prestoなど、おもに曲の冒頭に記されている速度記号について、
代表的なものの意味を少し深掘っていきます。
速度記号の語源や、使われてきた歴史を知ることは、楽曲を本質的に理解するのに役立ちますし、
また演奏する人にとっては、表現力のレベルアップにつなげることができるでしょう。
今回とりあげる速度記号はこちらの10個です。
曲の例は、ショパンとベートーヴェンを用いています♪
遅い記号
ショパンはGraveはあまり使用しませんでした。
傾向としてLargoは生真面目な雰囲気の曲に、Lentoは緩やかな雰囲気の曲に使用されています。
Grave…重大な。重い。低音の。
音楽用語では、”basso”(低い声で)という意味もあります。
♪ピアノソナタ第2番op.35
…冒頭の指示がGraveです。
Largo…幅のある。広い。ゆったりした。
Adagioよりもかなり遅く、荘厳な感じです。
♪前奏曲op.28-4
Lento…遅い。のろい。緩んだ。
♪練習曲op.25-11「木枯し」の冒頭
Lentoは絶対的な速度だけでなく、”piu lento"「より遅く」など、相対的な速度を示す時にも使われます。
《♪ピアノソナタ第2番op.35》の第2楽章の中間部などに、”Piu Lento"の指示があります。
Adagio…ゆっくりと。静かに。
17世紀に使われ出し、当初はcomodoや、lentoと同じ意味でした。
現在はlargoと同義語で、イタリア語圏ではandanteと同じ意味で使われています。
(ごちゃついていますね…😅)
またソナタの緩徐楽章は、古典派はAndante、ロマン派になるとAdagioが使われることが多いです。
ベートーヴェンは緩徐楽章にAdagioを使い、貴族たちから「感動的で心を打つ表現」と評判だったそうです。
しかし演奏するときは、テンポ・ルバート(テンポを揺らすこと)を控えめにし、裏拍の音価を正確にとる必要があります。
♪ピアノソナタ「悲愴」op.13 第2楽章
Andante…現行の。平凡な。気取らない。
ショパンはAndanteとAndantinoをはっきり区別しており、
Andanteの方がゆっくりと演奏されます。
ノクターンにはAndanteの曲が7曲と多く、ゆったりさせる指示の"sostenuto"を伴っています。
♪ノクターン第2番op.9-2
こちらはAndantinoの例です↓
♪ノクターン第12番op.37-2
またアンダンテは、時代によって速さが異なります。
以下は『伴奏の芸術(ヘルムート・ドイチェ著 鮫島有美子訳/音楽之友社)』より、
テンポについての項の抜粋です。
曲そのものからテンポを感じとるセンスも必要ですが、時代ごとの様式を学ぶことの大切さに気づかされました。
Moderato…控えめの。節度ある。穏健な。
速さを決めるのが最も難しい楽語の1つです。
「中庸な速さで」ともいわれ、
「ちょうど良い速さで」→「その曲にふさわしい速さで」というのが本来の意味です。
そのため曲想によっては、メトロノームの目安より遅かったり速かったりします。
♪マズルカ第32番op.50-3
"Allegro Moderato"は、どのテンポで演奏するか悩みますが「生き生きとした感情を伴い中庸な速度感で演奏する」のがベターです。
♪ピアノ協奏曲op.58 第1楽章
Allegro…陽気な。快活な。
音楽用語として古くから用いられ、当初はvivace、spigliatoと同義語で、その後Prestoと同じ意味を示すようになりました。
現在ではveloceと同じ意味をもち、Prestoよりは遅い速度を表します。
また古典派のソナタ形式の第1楽章は、原則としてAllegroです。
(第1楽章のことを「アレグロ楽章」とも言いますね。)
ベートーヴェンのAllegroは多彩で、
"vivace"、"con brio"、"ma non troppo"などが付加されている場合が多いです。
♪ピアノ協奏曲第5番「皇帝」op.73
Allegrettoでは、優雅さがプラスされます。
♪バラード第3番op.47
速い記号
Vivo…生きている。生き生きとした。
速度表示と表現指示、両方の意味があり、
Allegroとほぼ同じ速さです。
vivaceなどとくらべると、より生命力に重点がおかれます。
♪華麗なる大円舞曲第1番 op.18
Vivace…元気のいい。生き生きとした。活気を帯びた。鮮やかな。
速度表示と表現指示、両方の意味があり、
AllegroとPrestoの中間の速さです。
vivoなどとくらべると、聡明さや活発さをふくんだ速さを表しています。
♪小犬のワルツ op.64-1
Presto…すぐに。急いで。
最も速い動きを表します。
最上級のprestissimoは、ベートーヴェンから使われるようになりました。
ソナタの急速楽章を示していることもあります。
♪ピアノソナタ第2番op.35の第4楽章
今回の参考文献はこちらです。
ラテン語からの語源や、イタリア語の日常会話での意味や用法なども載っていました。
様々な国際コンクールの審査員を務めた著者の経験をもとにした、楽曲の実例が豊富です。今回はショパンとベートーヴェンに絞りましたが、他の作曲家の例もたくさん掲載されています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
さくら舞🌸
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