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楽語⑴〜速度記号
今回は、Adagio、Andante、Allegro、Prestoなど、おもに曲の冒頭に記されている速度記号について、
代表的なものの意味を少し深掘っていきます。
速度記号の語源や、使われてきた歴史を知ることは、楽曲を本質的に理解するのに役立ちますし、
また演奏する人にとっては、表現力のレベルアップにつなげることができるでしょう。
今回とりあげる速度記号はこちらの10個です。
【遅い記号】
Grave グラーヴェ (形)
Largo ラルゴ (形)(名)
Lento レント (形)(名)
★Adagio アダージョ (副)(名)
★Andante アンダンテ (形)(名)
★Moderato モデラート (形)
【速い記号】
★Allegro アレグロ (形)(名)
Vivo ヴィーヴォ (形)
Vivace ヴィヴァーチェ (形)
Presto プレスト (副)(名)
★意味を強める接尾語
-issimo (例)Lentissimo,Prestissimo
★意味を弱める接尾語
-etto -ino (例)Allegretto,Andantino
曲の例は、ショパンとベートーヴェンを用いています♪
遅い記号
ショパンはGraveはあまり使用しませんでした。
傾向としてLargoは生真面目な雰囲気の曲に、Lentoは緩やかな雰囲気の曲に使用されています。
Grave…重大な。重い。低音の。
(羅)gravis「重い」
「荘重な」「威厳のある」「重病」「苦痛」というニュアンスを含んでいます。
音楽用語では、”basso”(低い声で)という意味もあります。
♪ピアノソナタ第2番op.35
…冒頭の指示がGraveです。
Largo…幅のある。広い。ゆったりした。
(羅) largus「気前の良い、豊富な」
(例)ponte largo 「幅の広い橋」
larga piazza 「広い広場」
「緩い」「だぶだぶの」「理解がある」「偏狭でない」というニュアンスです。
Adagioよりもかなり遅く、荘厳な感じです。
♪前奏曲op.28-4
Lento…遅い。のろい。緩んだ。
(羅) lentus「柔軟な」
(例)passi lenti 「ゆっくりした足どり」
treno lento 「遅い列車」
「ゆっくりした」「緩漫な」「たるんだ」という意味です。
♪練習曲op.25-11「木枯し」の冒頭
Lentoは絶対的な速度だけでなく、”piu lento"「より遅く」など、相対的な速度を示す時にも使われます。
《♪ピアノソナタ第2番op.35》の第2楽章の中間部などに、”Piu Lento"の指示があります。
Adagio…ゆっくりと。静かに。
成句ad agio「のんびりと」が一語になったものです。
「遅い」「気楽に」「のんびりと」「静かに」「慎重に」という意味合いです。
17世紀に使われ出し、当初はcomodoや、lentoと同じ意味でした。
現在はlargoと同義語で、イタリア語圏ではandanteと同じ意味で使われています。
(ごちゃついていますね…😅)
またソナタの緩徐楽章は、古典派はAndante、ロマン派になるとAdagioが使われることが多いです。
ベートーヴェンは緩徐楽章にAdagioを使い、貴族たちから「感動的で心を打つ表現」と評判だったそうです。
しかし演奏するときは、テンポ・ルバート(テンポを揺らすこと)を控えめにし、裏拍の音価を正確にとる必要があります。
♪ピアノソナタ「悲愴」op.13 第2楽章
Andante…現行の。平凡な。気取らない。
andare「行く、進む」の現在分詞形です。
①物事が進行している様子を表しています。
「行く」「進む」「通じる」「及ぶ」「過ぎる」など。
②「凡庸な」「安物の」「二流な」という意味もあります。
ショパンはAndanteとAndantinoをはっきり区別しており、
Andanteの方がゆっくりと演奏されます。
ノクターンにはAndanteの曲が7曲と多く、ゆったりさせる指示の"sostenuto"を伴っています。
♪ノクターン第2番op.9-2
こちらはAndantinoの例です↓
♪ノクターン第12番op.37-2
またアンダンテは、時代によって速さが異なります。
~モーツァルトまで 少し速めのテンポ
19世紀~ 少し遅めのテンポ
以下は『伴奏の芸術(ヘルムート・ドイチェ著 鮫島有美子訳/音楽之友社)』より、
テンポについての項の抜粋です。
”ベートーヴェンは1813年にイギリスの”メロディー納入者”にたいしてこう書いている。
「これから先、私がアレンジすべきメロディーを送られる際には、その中にandantinoがあったなら、これがandanteよりもゆくっりめなのか速めなのか記しておいてください。音楽の他のもろもろと同じようにこの表現は何とも漠然としており、時にはallegroに近かったり、あるいはまるでadagioのようだったりするからです。」
しかし作曲家であり作家でもあったカール・ゴルミックは、その20年後の1833年に既にこう書いている。
「andanteはその直訳の”歩いているように”で大きな誤解をもたらした。andanteは断固としてゆっくり目のテンポである。」
ここではもう、今日一般的に使われる意味合いに達しており、andanteが18世紀の古い意味に誤解されることを心配している。
今ではその状態がまた逆となった。
「andanteがゆっくり目のテンポと見なされているため、18世紀の速めのandanteの演奏はゆっくり過ぎる。」(ニコラウス・アーノンクールの言葉)”
曲そのものからテンポを感じとるセンスも必要ですが、時代ごとの様式を学ぶことの大切さに気づかされました。
Moderato…控えめの。節度ある。穏健な。
"moderare"「控えめにする」の過去分詞形。
「程よい」「控えめの」「抑えた」「自制した」「無茶をしない」「節度のある」「穏健な」という意味があります。
速さを決めるのが最も難しい楽語の1つです。
「中庸な速さで」ともいわれ、
「ちょうど良い速さで」→「その曲にふさわしい速さで」というのが本来の意味です。
そのため曲想によっては、メトロノームの目安より遅かったり速かったりします。
♪マズルカ第32番op.50-3
"Allegro Moderato"は、どのテンポで演奏するか悩みますが「生き生きとした感情を伴い中庸な速度感で演奏する」のがベターです。
♪ピアノ協奏曲op.58 第1楽章
Allegro…陽気な。快活な。
(羅)alacer「手早い、きびきびした」
「嬉しい、満足した」「陽気な、活発な」「色鮮やかな」「ほろ酔いかげんの」「みだらな、のんきな」という意味をもち、
最もイタリア人的な気質を表す言葉です。
音楽用語として古くから用いられ、当初はvivace、spigliatoと同義語で、その後Prestoと同じ意味を示すようになりました。
現在ではveloceと同じ意味をもち、Prestoよりは遅い速度を表します。
また古典派のソナタ形式の第1楽章は、原則としてAllegroです。
(第1楽章のことを「アレグロ楽章」とも言いますね。)
ベートーヴェンのAllegroは多彩で、
"vivace"、"con brio"、"ma non troppo"などが付加されている場合が多いです。
“con brio" Allegroよりかなり速く。
"vivace" 速さ+軽妙さ。
".ma non troppo" 「〜しすぎないで」
♪ピアノ協奏曲第5番「皇帝」op.73
Allegrettoでは、優雅さがプラスされます。
♪バラード第3番op.47
速い記号
Vivo…生きている。生き生きとした。
(羅)vivere「生きる」→vivus 「生きている、活発な」
(例)bambino vivo「元気な男の子」
colore vivo 「鮮やかな色」
「速く」「いきいきと」「生きている」「精力的な」という意味です。
速度表示と表現指示、両方の意味があり、
Allegroとほぼ同じ速さです。
vivaceなどとくらべると、より生命力に重点がおかれます。
♪華麗なる大円舞曲第1番 op.18
Vivace…元気のいい。生き生きとした。活気を帯びた。鮮やかな。
(羅)vivere「生きる」→ vivax(vivacis)「長寿の、元気な」
「活発な」「聡い」「活気のある」「鮮やかな」という意味です。
速度表示と表現指示、両方の意味があり、
AllegroとPrestoの中間の速さです。
vivoなどとくらべると、聡明さや活発さをふくんだ速さを表しています。
♪小犬のワルツ op.64-1
Presto…すぐに。急いで。
(羅)praesto「手に持った」
(例文)A presto! 「近いうちに!」
Fate presto.「早くしてよ」
速度的なというより、時間的な早さを意味します。
最も速い動きを表します。
最上級のprestissimoは、ベートーヴェンから使われるようになりました。
ソナタの急速楽章を示していることもあります。
♪ピアノソナタ第2番op.35の第4楽章
今回の参考文献はこちらです。
ラテン語からの語源や、イタリア語の日常会話での意味や用法なども載っていました。
様々な国際コンクールの審査員を務めた著者の経験をもとにした、楽曲の実例が豊富です。今回はショパンとベートーヴェンに絞りましたが、他の作曲家の例もたくさん掲載されています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
さくら舞🌸
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