皆川ひとえ

小説はひさしぶりに書いてます(未完になっちゃってるものはすみません)。普段は台本とか書…

皆川ひとえ

小説はひさしぶりに書いてます(未完になっちゃってるものはすみません)。普段は台本とか書いてます。

マガジン

  • 【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ

    創作BL小説です。あらすじ↓ 「お前、俺が見えるのか?」 高校生の静生の前に現れたのは、死んだ親友・純の幽霊。 「一応、幽霊らしいこともできるんだぜ」 取り憑き、取り憑かれる関係となり、歪んでいく友情。二人の青春は決して動き出さない。青春は、永久に立ち止まる。 作者の趣味を詰め込んだ共依存心霊・ラヴです!(笑) ※エブリスタ、ムーンライトノベルズにも掲載

  • 【小説・月木更新】青の眩惑

    毎週月曜日・木曜日更新で小説連載します。あらすじ↓  わざと男の恰好をしている女子大生、行幸。そんな彼女の前にある日、10は歳下であろう少年、あおいが現れた。行幸のことを完全に男だと思い込んでいるあおい。二人の「男同士」としての、奇妙な交流が始まった。 ※エブリスタで過去連載していたものです。

最近の記事

【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ recollection.3-3

 そんなふうにして俺たちは、痛みと官能にふち取られた、それでいて平凡な時間を過ごした。  思えば本を読むようになったのもこの頃かもしれない。小澤はうちで、俺ほったらかしで、虚ろで退屈そうな眼で本を読んでいる日もあった。彼が読むのは小説ばかりで、大人が読むような(と俺が勝手に思っていた)新書とか、自己啓発とかを読んでいるところは見たことがなかった。俺はただあいつがページを繰る指を、行のあいだを走る眼球の動きを目で追っていた。  その時まで俺は、教科書や参考書以外の本を読むことに

    • 【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ recollection.3-2

       そうして俺は週の大半の放課後を小澤と過ごすようになった。何か特別面白いことをしたわけではない。映画を観たり、簡単なゲームをしたり、或いはただ夜になるまで話をするだけの日もあった。時には二人で食卓を囲むこともあった。  突然、小澤が卵やら玉ねぎやらの詰まったスーパーの袋を持って現れた日は驚いた。 「……何それ」 「オムライス。作ろうぜ」 レトルトやコンビニ弁当を温める以外の目的で初めてまともに台所に立った。 「何でオムライスなの」 玉ねぎを刻みながら訊いた。 「んー? 子供は

      • 【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ recollection.3-1

         指の綺麗な男だった。今となっては顔なんかよりよほど、その指の白い肌の上を、漏れ入る弱い夕陽が滑っていく様が鮮明に思い出される。  別に死んでみるまでもなく分かっていたことだが、両親は何も俺に対する愛情がなかったわけじゃないと思う。実際俺が死ねば、ちゃんと葬式を出してくれたわけだし。  ただ俺にさほどの興味はなかったはずだ。仕事が忙しいのかあまり家にいない人たちだったので、普通に物理的にしょうがない。  あの人たちはきっと、家庭というステータスが欲しかっただけだ。両親は俺に

        • 【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.5-3

          (何だよ、この男) 頭の中に声が響く。そして弁明する間すら与えられずに、耳の奥を弄ばれる。 「んっ……!」 思わず見悶えた俺に、大場が怪訝そうな目を向けてくる。 「大丈夫……?」 「あ、ああ……何でもない」 小声で応えて、大場から視線を逸らした。 (おい純っ……! 何やってんだよ馬鹿!) (だからぁ、ソイツ何なんだよって聞いてんのぉ) (ただの昔の同級生だよ……っておい……!) (あーほら……これくらい我慢しないと……俺、ちょっと耳舐めてるだけじゃんね? お友達に気付かれちゃ

        【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ recollection.3-3

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        • 【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ
          20本
        • 【小説・月木更新】青の眩惑
          12本

        記事

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.5-2

           大学というのは今まで置かれた他人どうしの寄せ集めの中で、最も「まし」な環境だと分かった。  俺の入った日本文学科には、クラスという概念は一応あるが、クラス単位で受ける授業は英語くらいなもので、大半の人間とは他人のままでいても何ら問題はなく、また珍しいことでもない。  そもそも友達がいないこと、一人でいることに対する許容度が高校のそれとは段違いだった。それにはうちの大学が、誇れることは学生数の多さくらいのものだというマンモス大学であるところも大きい。世の中には、下手をすれば高

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.5-2

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.5-1 ※過激め表現有

           年度が変わった。予定通りに実家を出て、何の変哲もない大学生としての生活を始めて数日が過ぎた。  慣れない一人暮らしにホームシックになる奴も世の中にはいるようだが、俺には懐かしむべき地元での思い出は何一つないし、誰の目もない空間での毎日は寧ろ気楽だ。  ……と、言いたいところだが、俺は正確には一人暮らしではない。  ホームシックに陥るようなタイプの人間は、敢えて訳ありの部屋でも借りてそこに“出た”幽霊と友達になるのが手っ取り早いんじゃないか。悪霊でない限り、話し相手くらいには

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.5-1 ※過激め表現有

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.4-2 ※過激め表現有

          「静生は、卒業したらこの家出てくんだったよな」 ベッドに寝転がりながら、本から顔も上げずに純は言う。 「そーだよ。だから本棚片付けてんの。ほらそれも貸せ。つーか人の本勝手に読むな」 純が本を差し出してくる気配もなかったが、俺は構わずに本棚の中身を段ボールに移す作業を続ける。何せ引っ越しの準備は忙しいのだ。手を止めてはいられない。 「そーかあ。なあ俺も、ついてっていい?」 あまりに何でもないふうに訊かれて、つい何も考えずに「うん」と言ってしまうところだった。 「え何て? ……い

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.4-2 ※過激め表現有

          【小説・月木更新】青の眩惑 #12(完結)

           車を降り、海岸に続く坂道を下っていく。夏休みだというのに、予想に反して、人は全然いなかった。  あおいは波打ち際まで下りて、足元に寄せる海水をじっと見下ろしている。行幸はアスファルトで舗装された斜面に腰掛け、その背中をただ眺めていた。  青いなあ。海も、空も、全部。  あおいは、つま先の数センチ先には水がくるところまで海に近付いている癖に、決してその足を水に入れはしないのだ。  そうだね。若いって冒険だけど、同時に、臆病だ。  分かってた。僕たちはもう、寄りかかり合うことで

          【小説・月木更新】青の眩惑 #12(完結)

          【小説・BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.4-1

           じゃあ、俺が純に好きと言ったら――  詮無いことを考えていても、時間だけが通り過ぎていく。  卒業アルバムを開いた時、「やっぱりな」と思った。  クラス全員の個人写真が載るページには、ちゃんと名前順に従って、純の顔写真も載せられていた。  こういうのを残された人間の自己満足というべきなのかどうかは分からない。ただ俺は、世にも奇妙なことに死んだ本人に見解を訊ねることも可能ではあるが、訊いたところで純は「んー俺は別にどっちでもいいけど」とか言いそうだ。  それにしても、個人写

          【小説・BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.4-1

          【小説・月木更新】青の眩惑 #11

           大学生が一人でレンタカーを借りるなんて、高くつくうえになんと虚しいことか。こういうのって、数人でワイワイと乗り込んで旅行にでも行くのが普通なんだろう。  まあ、今回のような事情がなかったとしても、どっちにしろ、私が友達とレンタカー借りてワイワイ、なんて一生あり得なかったんだろうけど。 「あんた、運転とかできたんだな」 座席に対して少し小さすぎるあおいの身体は、シートベルトを締めるとどこか不自然だ。助手席に身体をうずめ、生意気な物言いはいつも通り。内心はしゃぐ気持ちを、抑え、

          【小説・月木更新】青の眩惑 #11

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.3-2

           あの非常口が開くと知らなければ、純は恐らく死ななかっただろう。  だからと言って、与田さんのせいで純が死んだのではないことを俺は理解している。彼を責める気など当然1ミリも沸かない。  与田さんが俺に、何か言いたかったことがあるとすれば、純が死んだのは俺のせいでもないということだろう。  だからこんなことを訊くのは――自分が自殺だと認めてすらいない男に訊くのは、これ以上なく不毛だと分かっていたけれど。 「なあ純。お前が死んだのって――俺のせい?」 部屋のレースカーテンの隙間を

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.3-2

          【小説・月木更新】青の眩惑 #10

           夏は、どこか死の匂いがする。  青空の色も、足元の草むらの緑も他のどの季節よりも鮮やかに濃い。一歩外に出れば、すぐにけたたましいセミの鳴き声に取り囲まれる。そんな季節には寧ろ、生の躍動感を感じ取るのが普通の感覚だろうとは、思う。  それでも、明るすぎる色が見せる高揚感はどこか虚しくて、その奥には、寂しさや悲しさが隠れているように思えてならないのだ。  頬を汗が伝った。これでこそ、生きてるって感じがする。でも、あまりに強い生きているという実感は、どうも、逆に嘘っぽいと思うのだ

          【小説・月木更新】青の眩惑 #10

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.3-1

           今でも俺の居場所は非常口前の廊下だ。  何のことはない。純はいないが、また元の、一人の昼休みに戻っただけだ。一人だから何だ。これが本来の俺で、いつものことじゃないか。  一人を恐れてはいけない。  今日も俺は誰もいないこの場所で―― (え、誰かいる……?) 窓の前に立ち、四角い空を眺めている人影をみとめる。この廊下に人がいることは、珍しい。って―― (与田、さん……?) 放課後の見回りでここに来るのは知っていたが、この時間にここにいるところは見たことなかった。  俺の足音に

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ page.3-1

          【小説・月木更新】青の眩惑 #9

           ここ、どこだろう。  ベッドの上のような気も、何か不安定な吊り橋の上にでも寝転がっているような気もする。周囲には何の景色もなく、ただ白だけが目に飛び込んできた。それは壁や床や天井が白いのか、それとも射し込む日光に目が眩んで何の輪郭も捉えることができないのか、よくわからない。  しかし確かに分かるのは、行幸の隣には乱れた万葉が転がっている。その瞳はもうやめてと懇願するようにも、行幸をなおも求めているようにも見える。我慢できなくなった行幸は彼女にくちづけ、その舌に自分の舌を絡ま

          【小説・月木更新】青の眩惑 #9

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ recollection.2-3

           そうして純は、俺の日常に入り込んできた。教室での互いの生活は相変わらずだったが、時たま気まぐれのように、一人本を読んでいるはずの俺に、純は話を振ってきたりするようになった。 「マジでシゲがそんなこと言ってたの?」 「いやマジだって、純」 「えー……それはさすがにやばくね? なあ、静生」 「え、ああ……そうだね」 急に振られても、他人との会話には慣れてないし、心の準備が出来てなかったしで、俺はもごもごと曖昧な返答をすることしかできない。  俺を会話に入れても変な空気になるだけ

          【小説/BL】アドレセンス・サンクチュアリ recollection.2-3

          【小説・月木更新】青の眩惑 #8

           あれから、万葉と井岡はつき合い始めた。  いつも自分の味方でいてくれる万葉が好きな人と幸せになってくれればいいと、本気で思ったから、だからあの時万葉の背中を押したのに、そして井岡のことはもう好きではないはずなのに。  なのに、どうしてだろう。  並んで歩く二人を見ると、デートの様子を投稿したインスタグラムを見ると、井岡の家に泊まったという万葉の話を聞くと、どうしてこんなに、苦々しい気持ちになるのだろう。  これが私の心の狭さなのかな、と思う。そして醜さ。  本当は、井岡のこ

          【小説・月木更新】青の眩惑 #8