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#140字小説 1月21日~31日

1月21日
今日は料理番組の日。
ゲストの大御所芸能人に「感動するハンバーグ」を提供するのがシェフである僕の仕事だ。
しかし、手違いで肉が届かない。
今から準備しても収録時間に間に合わない。仕方がない。
僕は腹を括って豆腐で代用した。
豆腐ハンバーグを食べた大御所芸能人は涙した。
「うまい。これは母の味だ。昔を思い出した。感動した」
…満足頂けたようで良かった。

1月22日
今日はカレーライスの日。
給食のカレーは嫌いだ。
父のカレーみたいにスパイスが効いてない。
普段料理をしない父が唯一こだわってつくるのがカレーだ。
それを食べるのが大好きだった。
でももう食べることもない。
もうすぐ離婚が決まる。
今後、父と母と3人で食べたあの味以上のカレーに出会える日はくるのだろうか。

1月23日
今日は花粉対策の日。
花粉の時期はいつもマスクが欠かせない僕。
僕には花粉症仲間のクラスメイトがいる。
同じようにいつもマスクをしている。
「今日花粉多いよな」「鼻水めっちゃでるわ」
そんなたわいない話をしているうちに彼と仲良くなった。
あるとき、彼の素顔がどうしても見たくなった僕は、彼がうたた寝をしていた放課後、彼のマスクを取った。
「…見たな」真っ赤に裂けた唇に涙を浮かべた目、震える体。
それでも僕は、彼を美しいと思った。

1月24日 お題『通勤電車』
通勤電車の中。
同じメンバーが同じ席に座っている。
俺の横には綺麗な女性が立っている。
そして急ブレーキがかかる。
女性がふらついて俺の靴を踏む。
「ごめんなさい!」と謝られる。
同じだ。
このやりとりを月曜日から繰り返して、もう木曜日になる。
どうやら電車の中でタイムループしているようだ。
電車を降りると、いつも通りの日々が続いているのに。
そう、いつも通りだ。毎日会社に行って同じ仕事の繰り返し。
じゃあ、電車の中でタイムループしていたって問題ないじゃないか。
モヤモヤしながら、金曜日も電車に乗った。
同じメンバーが同じ席に座っている。急ブレーキがかかる。
本当に俺はこのままでいいのか? 女性がふらつく。
俺は彼女の肩を抱きとめた。
「あ、ありがとうございます」
俺の人生は、再び動き出す。

1月25日 お題『昆虫好きな女子』
「なにやってんだ?」
僕は、目の前の大きな木に一生懸命登っている女の子に声をかけた。
「うわっ!なによ!大きな声出さないでくれる!?逃げちゃうじゃない!」大きな声で怒られてしまった。
「やった!捕まえた!」木から降りてきた女の子は黒い昆虫を掴んでいた。「クワガタ?」図鑑でしか見たことない。さすが田舎だな。
「かっこいいでしょ?私もこんなに大きいのは初めて捕まえた」
女の子の嬉しそうな笑顔は、東京にいた他の女の子たちとは違っていた。「転校しても楽しめそうだな」
僕がつぶやくと、女の子はクワガタからやっと目線を外して僕を見た。
「ところであなただれ?」


1月26日
今日はコラーゲンの日。
母はよく「コラーゲンが足りないわ」と呟いていた。
どうやらコラーゲンは美容と健康に良いが、年齢とともに減少するらしい。俺は母の日にコラーゲンドリンクを贈った。
すると母は涙して喜び「もったいなくて飲めない」と言った。
せっかく買ったのに、それは困る。
俺はコラーゲンドリンクを定期購入することにした。
やっと母は飲んでくれた。いつにも増して笑顔が増えたように思う。
数年が経ち、俺は最後のコラーゲンドリンクを仏壇に供えた。
定期購入の解約手続きもしなきゃな、と思いながら。


1月27日
今日は求婚の日。
そして、俺たちが付き合って5年目の記念日。
俺は花束を抱えて彼女と同棲中の家へ走った。
もう彼女は帰ってきているはずだ。呼吸を整えて玄関の前に立つ。
「…?」何かがおかしい。
玄関をあけると真っ暗で静かな部屋が俺を待っていた。
「嘘だろ…」テーブルに置き手紙がある。
俺は震える手で書かれた文字を読んだ。
「…結婚してください…え?」
急に部屋が明るくなる。
どこからか現れた彼女が指輪を差し出している。
そういえば、逆プロポーズというものがあるらしい。


1月28日
今日はコピーライターの日。
自分で言うのもなんだが、俺は優秀なコピーライターだ。
新卒で大手広告会社に入社して以来、ヒットを連発し、同僚の誰よりも成績を上げてきた。多少汚い手も使ったが。
「お前自身のコピーはなんだ?」
俺のライバルと称された成績2位の同僚が会社を去る時、最後に俺に言った。
「……」俺は答えられなかった。
友達もいない。真剣に付き合った女もいない。俺は何も持っていない。
足元が崩れていく気がした。


1月29日
今日は人口調査記念日。
僕の街は過疎化が進み、人口は500人。僕のような子供は10人しかいない。さらに20年が経ち、みんな大人になり、都会に出て行ってしまった。
寂しい思いを抱えながら、僕は今日も一人学校に通う。


1月30日
今日は3分間電話の日。
『もしもし?お蕎麦屋さんですか?』「違います」
『ありがとうございます!』「え?」
『ざる蕎麦を2人分出前お願いします!住所は…』「はぁ」
『あの!私じゃなくて、夫が受け取るので、必ず来てください!あっ…』
一方的に電話は切れた。
その住所にあるマンションは女性専用だったよな?


1月31日
今日は愛妻の日。
僕たちは籍を入れていない。けれど、ずっと一緒にいる。
1番のパートナーだ。
だけど、本当は君を妻として、みんなに紹介したかった。
僕が男であったなら、君をもっと幸せにできただろうか。

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