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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第十六話 見つけ、選び、決め、覚悟する

見つけ、選び、決め、覚悟する

私の結婚の裏側で密かに起こっていたことは、後に「千姫事件」と呼ばれる出来事だった。
私は一歩間違えば、略奪される花嫁になるところだった!
あとでこの話を聞き、心底ぞっとして震えた。
「ああ、私、神様を味方につけておいてよかった・・・」
神様は私の味方、昔そう決めた自分を褒めたわ。

千姫事件の首謀者は、おじいちゃまが私との結婚を反故にしたあのおっさん、坂崎直盛だった。
彼はおじいちゃまが私を大阪城から助け出したものに、私と結婚させる、という約束をした、と固く信じていたのね。
でもおじいちゃまは「千姫を助けた者に千姫を与える、と言っただけで、それを彼に依頼した、ということではない」と言い切って、彼を退けたの。
それでいいと思う。だって私、彼に助けてなんてもらってないもの。
たまたま彼は大阪城から出てきた私達に遭遇した、という方が正しい。
だけどあのおっさんは「約束を破られた」と徳川を深く恨んだの。思い込みが激しい肩だったのね。
そして私と忠刻様の結婚を知った彼は烈火のごとく怒り狂い、私の輿入れ行列を襲い、私を略奪するというおぞましい計画を立てていた。

その計画はあまりにも無謀で、徳川幕府に対する逆賊になることを怖れた彼の家臣からの密告により、パパの知る所になった。
パパは私に内密で事の次第を調べさせ、計画の事実を知った。そしてすぐさま一万もの兵を出し彼の屋敷を取り囲んだ。
パパにしたら自分の娘を略奪する計画など許せるわけもないし、何よりも徳川幕府に対する反対勢力とみなした。
それにより、彼は家臣に殺害されてしまった。
私がそれらを知ったのはすべてことが終わった、輿入れの少し前だった。

おめでたい慶事なのに、やけに周りが殺気立っているなぁ、と気になっていた。刑部卿局は、例によってすべてを把握していた。
なんとしても私を死守する覚悟で、日夜私にへばりついていた。

すべての事が終わり理由を知った私は、うっとおしいわ、と思っていた彼女の行動にそんな意味があったことを知り反省した。そして彼女に心から詫び、感謝を伝えた。
彼女は平気な顔で静かに笑みを浮かべた。
「なんともないことでございます」
頭を下げた彼女を見て、私はまだまだ彼女には勝てないわ、と心の中で舌を巻いた。

そんな不穏な事件も収束し、私は無事に忠刻様のところに輿入れし、結婚した。
前回の結婚は七歳だったから何もわからず、ただ言われるがままだった。
けれどこの度の結婚は自分の意志で決めた。
運命に流されるのではなく、私から運命を選び取った。
その意義は、とてつもなく大きい。
だからこそ、婚礼の夜に忠刻様の顔を見た時、涙が出そうだった。

私は見つけた。
私は選んだ。
私は決めた。
「彼こそわたしの運命の人だ!」

そして私は覚悟した。

忠刻様と結婚するけど、忠刻様に幸せにしてもらうのではないの。私が私を幸せにするわ。
私が私を幸せにし、幸せになったわたしが忠刻様を幸せにする。
そう決めた。

婚礼の時、忠刻様は私を見てニッコリ微笑み、心を震わすあの声で言った。
「私のところに嫁いでくれて、ありがとう」
もちろん事件の話は、彼の耳に私より早く入っていた。
パパはそのことも含めくれぐれも私をよろしく頼む、と彼に頭を下げたそう。それを彼から聞いた私は涙が出るくらい胸がジーン、と熱くなった。

大阪城から逃げてきた私に、最初パパは冷たかった。
秀くんと淀ママの命の懇願をした時も、大阪城に帰るよう冷たく言った。
だけどそれもすべてパパの愛だった。
この度の結婚もすべてうまくいくように、万事に目を光らせ心を配っていたからこそ、坂崎のたくらみも阻止できた。
パパの愛はおじいちゃまのようにわかりやすい愛ではなかったけれど、ひっそりと森の奥で美しい水を満々とたたえた泉のようだった。
パパは自分の気持ちを表現するのが下手だから、私にうまく伝えられなかっただけだった。
そのことにようやく気づいた。

人生は、気づきの連続だった。
その愛を携え、忠刻様との初夜を迎えた。

忠刻様との初夜は、気持ちのよいお湯に身体を包まれているような、安心してつながったsexだった。
秀くんとの身体のつながりは、幼い頃のままごとみたいな延長だったから、男女の愛、というよりも兄妹のような身内的つながりだった。
実際、従兄だったからそうなんだけどね。
あ、忠刻様も厳密に言えば従姉の子だから、身内よね?(ややこしいだったらありゃしない)
だけど彼は正々堂々と女としての私を抱いた。
それもとても大切な宝物を扱うように、やさしく身体の一つひとつに触れ、わたしの気持ちよい場所を開いてくれた。

私の身体は、まだまだ未知の大陸だったことに気づいた。
まだまだ足を踏み入れられていない未開の地に、いくつも快感の足跡がつけられた。
この身体の気づきも大きかった。

私はつながり終えた後のつま先からじんわり登ってくる余韻にひたり、気持ちよさそうに眠っている忠時ダーリンの顔をつつつ、と人差し指でなぞった。彼はうっすら目を開いたけど、微笑んですぐまた目を閉じ眠りに戻った。私はそんなダーリンを満たされたまん丸い月のような気持ちで見つめた。
やることは同じなのに、やる人によって思いが身体を伝い現れるのが不思議だった。
忠刻ダーリンの身体からは、私への愛がたくさん水を吸ったスポンジのようににじみ出ていた。

初めて結ばれた夜からずっと彼は決して私に無理強いしなかった。いつもちゃんと私に確認をし、未開の地を開いた。
私の身体はどんどん開発され、敏感になっていく。
その内、ビルが建つかもしれないわね(な~んてね!)

結婚した翌年、忠刻様の御父上に姫路藩十五万石が授けられた。
忠刻ダーリンには、私の相続分の財産とし化粧料で播磨十万石が与えられた。
私達は、江戸から姫路城に移り住んだ。
朝日を受け、白く美しい姫路城は輝いていた。
私はこのお城が一目で大すきになった。
姫路城に移った私達は、忠刻様ダーリンがまだ家督を継いでいないので、離れに居を構えたの。
そこは、武蔵野御殿と呼ばれた。
そのでの生活はとても幸せだった。
ダーリンといつも寝起きを共にし、一緒に食事をし、たくさんおしゃべりして笑いあった。
秀くんの時には望めなかった結婚生活がそこにあった。
私はたくさん笑うようになった。

本当にしたかった生活が私の心を豊かにさせ、私をさらに美しくさせた。

そして翌年、二十二歳で妊娠した。


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