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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第二十三話 自分の人生を輝かせる者

自分の人生を輝かせる者

それから何年も私は、自分のできることがわからずにいたの。
その間適当に生きる、とは言い方が悪いけれど三十八歳から四十六歳までの私は暇つぶしのように生きていた。
勝姫のことを心配することもなく、生活に何不自由もなく、傍から見たら「幸せ」と言える状態だったと思うわ。
だけどね「幸せ」とは誰が決めると思う?
周りではないのよ。自分自身よ。
いくら生活が満たされていても、自分自身が人生にやりがいや生きがいがないと、心が満たされないの。
私は時間だけがただすーすー音を立てて流れていくのを、ただ見ていた。

その間、フラワーアレンジメントやカラーコーディネイトなど色んな習い事はしてみた。
だけどそれらを身に着けスキルアップしても、それで生計をたてるわけでもないから本気になれない。ただサロンで少しお披露目をするくらいだけなので、何だかむなしかった。
流行りのファッションを身に着けても一応出家した身なので、大っぴらに外に出られるわけでもないから、つまらない。
そんな状態なので、何をやっても長続きせず手を出しては食べ散らかしポイッと捨てたようになってしまったわ。
これは、男の人に対しても言えた。
年齢的に恋のお相手になる男性は微妙で、同年代の男性は仕事に忙しい。そして私と何かあると出世に響くので近づいてこない。
だから近寄ってくるのは野心満々な若い男性か、もう出世をあきらめたおじさん達。だけどそんなタイプは好みじゃないわ。
いくら一夜限りのアバンチュールとは言え、嫌なものは嫌よ。
この身をすり減らしたくない、とより好みをした結果、ほぼ誰も近づいてこなくなり、ますます暇になってしまったのね。

手持無沙汰になって時間を持て余していたら、ずいぶん昔に大阪城という鳥かごの中にいた頃、同じようなことがあったのを思い出した。
結局、二度結婚し子どもも産んだけど、私自身は成長もせず、何も変わっていないかもしれない、と思うと胸がざわっ、とした。
あの激動の日々を経て、今徳川政権は落ち着き、戦もない平和な時代になった。今更私が役に立つことなどないのかもしれない。
砂漠に咲いてても、誰にも見られることなく、ひっそりと枯れ果てるだけかも、と思うとはぁ~~~、とため息が出て肩が落ちた。が言った。

「姫様、背中が丸くなっておばあさんのようにです」
刑部卿局が痛い言葉を投げてきた。彼女もすっかり年を重ね、七十歳を過ぎていたがかくしゃくとし、元気だった。
忠刻ダーリンと結婚する時、秀くんとの縁を切るために満徳寺に入り、わたしの代わりに刑部卿局が出家したことにし、彼女は俊澄尼という名前になっていた。でもそれは建前だけで生活は何も変わらなかった。私も二人になるとずっと刑部卿局と昔ながらの名前で呼んでいた。
彼女もこっぱずかしいけれど、頑なに私のことをずっと「姫様」と呼び続けていた。

「ねぇ、刑部卿局。人って、自分のためだけに生きるなんて、つまらないわよね。人は誰かのために役立つことで、自分の存在価値を認められるのかもしれないわね」

「そうですね。けれど、姫様。
人様の人生よりはまず、自分の人生でございます。
自分の人生がつまらないのを、人様を使い自分の人生のはけ口や活性化のために使うなど、みっともないことでございます。
それは人様を利用して自分を輝かせる、ということです。
誰かのために自分をお役立ちさせたいのなら、まずは姫様自身が自分の人生を輝かせてみたらいかがでしょうか?
自分の人生の輝かせる者が、人様の人生も輝かせるものですよ」

刑部卿局の言葉は、私が見たくなくてわざとスルーしていたところを指摘した。鋭いところを衝かれ、弁慶の泣き所を蹴られたように痛みを感じた。
だてに年を取っていない刑部卿局の言葉は胸に重く響いた。それから私は食事をしていても寝床に入ってもずっと考え続けた。
どうやって自分の人生を輝かせることができるのかしら?
私自身が輝くために何をしたらいいの?何をしている時、笑顔になる?
一生懸命考えては、紙に書き出してもみた。

その時、ふと思い出した。私はたくさん恋がしたかったから、恋をしてみた。だけどそれだけでなく、他にもしたいことが、あったんじゃなくて??

そう自分に問いかけ、リラックスした姿勢で瞑想状態に入った。
目を閉じ昔やりたかったこと、叶えたいと思った夢を思い返してみた。
それは過去を思い出す作業でもあった。

深い呼吸を何度か繰り返していくと、体がどんどんゆるんでいった。正座したまま、ゆらゆら体が左右に揺れているのがわかる。
そうやって過去への糸をたぐっていくと、昔の自分が現われた。大阪の鳥かごにいた時の私だった。その私は鳥かごの中で、どうせ叶わない、と思った夢を宝箱に入れ鍵をかけて深く地中に埋めていた。私は彼女のそばにいき、その手を押しとどめ、二人で土を掘り返し、宝箱を取り出した。
現われた宝箱の蓋、ドキドキしながら開いてみたの。
そこから出てきたのは、過去の私のビジョンだった。

「貧しくお米を食べられず、お腹のすいた民におかゆを作って食べてもらうの。
粗末な寝床で寒くて震えている民に、あたたかい綿のつまったお布団を持っていきホカホカにくるまって眠ってもらうの。
みんな、喜ぶでしょうね。
みんな、笑顔になるわよね~」

そのビジョンを見た時、私はハッ、とした。
少女の頃、こう思っていた事をすっかり忘れ果てていた。
というか、そんなことは自分にできるわけがない、と決めつけて葬り去っていた。鳥かごの中の鳥だったから、そうやって夢を見るだけで手も足も出なかった。
だけど、今はちがうわ。環境の状況も何もかも違う。
今の私なら、あの時思ったことを何か少しでもできるんじゃないのかしら?
今ならそれが出来る立場なのに、どうしてできないの?

そう思った時、もう一人の私が現われた。彼女は黒い着物を着て鋭い目つきをしていった。

「無理無理!あなたになんてできるわけないじゃない!
あなた、もう出家したのよ。俗世間から一歩離れているの。
それに今さらそんなことをして、誰が喜ぶというの?
家光にも迷惑かけてしまうんじゃないの?
少女の頃の夢は、世間知らずだからこその夢。
現実はそんなに甘くないのよ」

思わず黒い自分の意見に「そうそう」とうなづきそうになった。だけど何かが私の心を引き留めた。

私、自分の夢を握りつぶそうしていない?
何を怖がっているの?
できない理由ばかり並べて、何をしているの?
そんなことでは、これまでと同じじゃないの。
何も変わらないわ。
やりたいことをやるのに、誰に遠慮しているの?
そんなのだから、何もできないのよ!!
やりたい!と思う、その気持ちだけで十分じゃなくて?!

私はできる理由よりできない理由ばかりを探していることに気づいた。大切なのは、やりたいかやりたくないかだけだ。

私はまず市井の様子を知ることにした。
身なりを隠し顔を隠し、いろんな場所に行ってみた。
誰が何を困っているのか知りたかった。
すると意外なことが見えてきたの。

それは、夫と別れたがっている女性の多いこと。
けれど、この時代は離縁を女性から言い出せない。夫が浮気をしても暴力をふるっても、博打で借金のかたに売られても、無力で何もできない女性達がたくさんいた。
刑部卿局を通じ、直接彼女達の話を聞くと彼女達は本当に困っていた。
それも一人や二人ではなかったの。何百人近くもいたわ。
そういえば私も忠刻ダーリンと再婚するにあたり、豊臣と離縁していない、という理由で満徳寺に入ったことも思い出した。
女性から離縁を申し立てられない、という不平等な制度の為だったからだ。

「これだわ!」私は思わず膝を打った。横にいてうとうとしかけていた刑部卿局が目を覚まし、しゃきん、と姿勢を伸ばした。

「私がやるべきことがわかった。刑部卿局」

私がやるべきこと。
それは離縁したい、と望む女性たちをサポートし、不幸な夫婦生活から解放し、自由になる手助けをすることだった。
どうやってすればいいのか、その方法はまだわからない。
けれど何か少しでも今の私にできることがあるはず。
「それを探せばいい」
私は力強くガッツポーズを天に向けた。
自分がやる、と決めたらきっと神様はその方法を探し出してくれる。
神様は、私の味方だから。
やる気を見せ意欲満々になったわたしを、刑部卿局を静かに眺め微笑んでいた。

やがて、そのきっかけは思いがけないところからやってきた。


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