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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第十三話 私の人生はもう一度、ここから始まる

私の人生はもう一度、ここから始まる


「お、おじいちゃま、それは・・・・・・あの坂崎なんとかという五十代くらいのおじさんでしょうか?」

ドンピシャ思い当たる人物を思い浮かべ、恐るおそる尋ねてみた。
おじいちゃまは「しまった」という渋い表情で、肩をすくめてうなずいた。その顔に、後悔先に立たず、と書かれていた。
「な、なぜに?!」
私はあっけにとられた。
「すまん!千!!」
おじいちゃまは、またわたしに頭を下げた。
いや。そんなに頭を下げられても、それはないわ!と私は心の中で大きくばってんを出した。

「わしは大阪城が落城する時、どうしてもお前だけは助けたかった。
その根回しは、高台院様にもお願いしておった。
だがお前はなかなか城から出てこなんだ。
もしやお前を城から逃がすのを淀殿が渋ったか、あるいはお前もあのまま一緒に自害することを望んだ、と思ったんじゃ。
あの結婚は亡くなった太閤秀吉との約束で、どうしてもせねばならんかった。
だがわしは本当はいやだった。
初孫の可愛いお前を、みすみす豊臣なんぞにやりたくなかった。
すべてわしの力足らずのせいだと思った。
わしのせいでお前の一生を台無しにしたくなかった。
何としてでも、お前を助けたかった。
だからつい、お前を助けたものと結婚させる、などど約束をしてしまったんじゃ・・・」

私は思いっきり顔をしかめた。おじいちゃま、あーのーねーそういうの、私の許可なく約束するの、止めてもらえる?!
これじゃあ、まったく前の豊臣の結婚のパターンと同じじゃん!!
しかも相手は三歳以上年上のおじさん!!
まったく検討の余地なし!言葉に出して言えないから、ブンブン頭を振った。
「おじいちゃま、そのお話は謹んでお断りさせていただきます。
私は生まれた時から政略結婚とは言え秀頼様との結婚が決まっており、そう言い聞かされてまいりました。
結婚してからは、愛を育んできたつもりです。
でも今回はそのような結婚とはまったく違います。
まったく、まったく受け入れられません!!」

一気にまくしたて、勢いに乗って自分の決心も告げた。

「それに私、自分に誓ったのです。
私はもう、運命に流されたままで生きたくありません。
昔はそれも仕方ないと思っていました。
けれど昔の私は、大阪城と共に消えました。
これからの私は、自分の意に沿って生きてまいります。
自分で自分の運命を操る女になります!
それが新しい私です。
ですから結婚も自分で決めます!
五十過ぎのおじさんなんか、絶対にぜったいに嫌ですからね!!」

私は生まれて初めて、声を荒げ言い放った。
あまりの勢いに、おじいちゃまはお、おう、と首を縦に振るだけだった。
私はこれまでこのような物言いを、おじいちゃまにはもちろん、パパにもママにもしたことがなかった。
だけど自分の意見を口に出すことが、こんなに気持ちのいいことだと初めて知った。

これ、当たり前のことよね?
自分の機嫌よりも、相手の機嫌を考えるなんて変だもの。
自分の思いより、相手の思いが上だなんて、ありえないでしょう?
私はこれから、言いたいことを言っていく。
おじいちゃまに何と思われても、いいの。
昔のただニコニコ無邪気は私は、もういない。

私は頭を下げ、立ち上がった。そして胸を張って堂々と前を見て歩いた。
今の私がお好みでないなら、嫌いになってくれても構わなくってよ。
そんなおじさんとの結婚は、払下げだわ。全身で自分の思いを醸し出した。

背中を向け立ち去っている時、後ろからおじいちゃまの声が追いかけてきた。
「千、強くなったな。徳川の女は、それでいい」

その声には、満足そうな響きが込められていた。
エールを受けた私は、あごをつんと前に押し出した。私はもう豊臣の女ではなく、徳川の女。
私はもう一度おじいちゃまの方を振り向き、鮮やかな笑顔で言った。
「それでは、よしなにお願いいたします」

風で砂漠に運ばれたワイルドフラワーの種が、大地に根付いた瞬間だった。
私の人生はもう一度、ここから始まる。


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愛し愛され輝いて生きるガイドブック

あなたは、自分の機嫌を大切にしていますか?

自分の機嫌よりも、相手の機嫌を取っていませんか?

自分の思いより、相手の思いを上にしていませんか?

誰のための人生でしょう?

あなたのための、人生です。


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