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リーディング小説「美しい子宮~寧々ね~」第二十九話 蓮は泥より出でて、泥に染まらず

蓮は泥より出でて、泥に染まらず

わたしの闇は、わたしの本音でした。
頭で考える本心ではなく、無意識で望んだ本音です。
無意識の本音は、頭で考える意識下の本心よりも強いのです。今の現実は、すべて無意識の本音が望み、作り上げたものです。

わたしは豊臣の存続を望んでいました。
本心から望んでいる、と信じていました。
けれど、結果はどうだったでしょう?
豊臣は根絶やしにされました。
これが、現実です。

本心から望んだことであれば、その願いは必ずどんな形を取っても叶うはずです。
ということは、わたしの本心は豊臣の存続を願っていなかったことになります。

ならば、わたしも意識していない無意識でわたしが望んだ本音とは・・・・・・

豊臣の滅亡です。

この事実に気がついたわたしは頭を殴られたような強い衝撃を受け、へなへなとその場に座り込みました。身体全体が高熱に侵されたように、小刻みに震えます。

どうして?
秀吉と二人、あんなに苦労して天下を手中にしたのに、豊臣の滅亡をなぜわたしの本音だったのでしょう?その理由に思い至った時、思わず大きく開いた自分の口を、手で覆いました。

わたしの本音・・・・・・

それは、秀吉への復讐でした。

わたしを一人の女として抱いてくれなかった秀吉。
わたしを普通の妻にしてくれなかった秀吉。
わたしではなく、他の女に自分の子どもを産ませた秀吉。
わたしは一番秀吉の望むものを握りつぶすことで、秀吉に復讐をしたのです。

茶々様と懸命に豊臣の生きる道を模索していたのはずなのにどうして?と畳にうつぶせたまま、両手で頭を押さえました。

自分を問い詰めながら恐ろしいことに気づき、ハッ、と顔を上げました。
わたしは、ちゃんと知っていたのです。すべてわたしが計画したのです。
茶々様に秀吉の子を産ませる、と決めた時から、潜在意識下でわたしの密かな計画が進んでおりました。

わたしはお市様が憎かった。
死んでもなお、秀吉の心を捕えていたお市様が、憎くて憎くてたまりませんでした。
ですからそのお市様の血筋と美貌と性格を引き継いだ茶々様を、復讐の道具に使いました。
茶々様ならば、他の男と契ってでも何をしても、秀吉の子を産むことを承知しておりました。
茶々様の野望と激しい性質を利用し、秀吉の望むものを手に入れさせ喜ばせました。そして秀吉の死後、奪ったのです。
秀吉の願いを、粉々に踏みつぶしました。
ですから、秀次、茶々様と秀頼様を死に追いやった影の真犯人は、わたしです。
まちがいなく、わたしなのです。

いつ頃から、わたしは底なし沼のような深く暗い闇を抱えたのでしょう。
きっと死の淵から蘇った時です。
あの時神様は、自分の本当の気持ちと向き合うように、チャンスを与えてくれたのです。
けれどわたしは
「抱かれたい、女の悦びを得たい」
という肉欲で結ばれた愛情に興味を失っただけ、と美しい思いに変換したのです。
自分の醜い心を一片も残さず、閉じ込めたのです。
そして「今世は処女として本当の愛を得て生きる」という上っ面の願いに、捻じ曲げました。

本当の愛を得て生きること、わたしはそれを秀吉に求めました。
でも、今気づきました。そうではないのです。
他の人に、求めるのではありません。
わたしが、わたしに与えるのです。
わたしが、わたしに「本当の愛」を与えるのです。

「本当の愛」とは、自身の気持ちを偽らず、闇も光もすべて受け入れて生きることです。
それが、自分への愛、です。
自分を認めること。
自分の気持ちに寄り添い、愛しむということです。
わたしはこれを怠りました。
自分の気持ちを封印し、秀吉の意に沿うようにしたのです。
なぜか?ですって・・・・・・

秀吉に、愛して欲しかったからです。
彼にとって、唯一無二の存在になりたかったからです。
自分の黒い闇の中に白い蓮の花を咲かせた、と思っていました。
「蓮は泥より出でて、泥に染まらず」
だったのに、わたしは自分という「蓮」を認めませんでした。
「蓮」の存在を無視したのです。
自分を抑え、自分という「蓮」の息の根を止めたのです。

わたしの子宮。
一度も男を受け入れることなく、一度も産み出すこともなかった子宮は、深くわたしを恨みました。
そして、わたしが自分で自分の息の根を止めたように、豊臣の息の根を止めたのです。
わたしが頭で考えた望みなど、取るに足らないことでした。
わたしを司っていたのは、わたし自身である子宮でした。

子宮からの本音や気持ちを聞こうとせず、耳を塞いだわたし。
自分を認めようとせず、醜い心を閉じ込めたわたし。
わたしが、自分自身に応援されない存在にしたのです。
だから、他に愛を求めたのです。

自分が百パーセント望む愛は、自分だけが与えることができます。けれどわたしはその愛を秀吉に求め、手に入れられなかったから、苦しみました。
苦しみは怒りや恨みとなり、蓄積されたのです。
それらはやがて深い闇に生まれ変わり、爪先から頭の先まですべて覆い尽くしました。
黒雲が雨を呼ぶように、真っ黒な思いが豊臣を滅亡させる流れを呼び寄せました。

なんということでしょう。
なんということを、してしまったのでしょう?
どうして、こうなってしまったのでしょう?

わたしは畳にうつぶせ、土下座しました。

「赦して下さい。赦して下さい。
ごめんなさい。ごめんなさい」

そう言葉に出しながら、秀吉に詫び、秀次に詫び、茶々様や秀頼様に詫びました。わたし自身に詫びました。

けれど、そこには誰もいません。
どれだけ詫びても、わたしを赦してくれる人など、もうこの世に生きていないのです。

その時、声が聴こえました。

「あなたを、赦します」

それは、なつかしいあの方の声でした。

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