書籍:きみのお金は誰のため


こんにちは。
3人娘を育てている、ベンチャー企業のCTOです。


きみのお金は誰のため

田内学さんが書かれた、「きみのお金は誰のため」を拝読しました。

著者について

田内学さんは、noteで「お金の向こう研究所」を運営され、金融教育をされています。

他にも、ドラゴン桜2の監修をされていたり、「お金のむこうに人がいる」を刊行されたりしています。

16年間、ゴールドマン・サックスで金利トレーダーとして活躍された後に、「経済はお金でなく人を中心に考える必要がある」と考えられ、現在の様々な活動をされています。

本書について

本書は、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」 にて、総合グランプリ、及び、リベラルアーツ部門第1位を受賞されました。

ここ数年、金融教育に関する書籍が多数出版されています。
例えば、「お金に困らないための力」「資産運用」「お金の歴史」といったテーマの書籍があります。

これらのテーマも非常に大切ですが、本書はこれらのテーマとは異なります。
「お金に対する見方」を考えさせられる、まさにリベラルアーツ・教養のための書籍だと感じました。

本書の目次は以下の通りです。

  • お金の謎1「お金自体には価値がない」

  • お金の謎2「お金で解決できる問題はない」

  • お金の謎3「みんなでお金を貯めても意味がない」

  • 格差の謎「退治する悪党は存在しない」

  • 社会の謎「未来には贈与しかできない」

  • 最後の謎「僕たちはひとりじゃない」

目次を見ると、もしかしたら道徳的・倫理的な内容に思えるかもしれませんが、実際にはロジック・構造の話がされています。

それでいて、物語形式にもなっており、非常に読みやすくもあります。

今回、本書の内容のうち、いくつか学びをピックアップして記載いたします。

お金で解決できる問題とは

お金の問題解決力

お金で問題を解決できるのは、そのお金が使える場合においてのみです。

例えば、無人島においてお金を持っていっても、誰もそのお金のために働いてはくれません。
100万円の現金を持っていても、無人島では、そのお金でお腹を満たすことはできません。

私達が何かの問題(お腹がすいたなど)を解決するためにお金を使う時には、そのお金を受け取ってくれる人がいて、その人やその人の先にいる人が働いてくれることで問題が解決しています。

お金を使うということの先に、人の存在があるということを理解していないと、お金が万能であるかのように錯覚してしまいます。

解決できない問題を人にパスする

例えば、ドーナッツを作りたいと思った時に、材料の小麦粉を買う必要があります。
その小麦粉は、小麦粉工場で働いている人が作っています。

その小麦粉工場では、材料の小麦を仕入れる必要があります。
小麦は、小麦農家が作っています。

このとき、お金は小麦農家における材料と労働、そして小麦農家への労働へと流れていきます。

さらに、ドーナッツを作るためには小麦粉の他にも、卵、砂糖、バターが必要であり、それらを作っている人にお金が渡っていきます。
もちろん、オーブンやクッキングシートなどの機材や資材を作っている人にもお金が渡っています。

自分ひとりでこれらのものを用意することはできません。
お金を使うということは、自分では解決できない問題を、他の人にパスして解決してもらうということと言えます。

お金の力は選ぶ力

お金そのものは、問題を解決する力を持っていない。
人が問題を解決する。

このとき、お金の持つ力は、パスする先を選ぶ力となります。

どの小麦粉を選ぶのか、はたまた、小麦粉の代わりに米粉を選ぶのか。
ドーナッツ屋さんでドーナッツを買ってきてもいいし、スーパーやコンビニでドーナッツを買ってもいい。

お金に力はあるが、それはあくまでも選ぶために使われます。

逆に、選択肢が無い状況においては、お金は力を失います。

無人島においては、問題をパスする先の選択肢はありません。
無人島とはいかなくとも、先生がない環境では学校の授業をうけることはできませんし、習い事教室がなければ習い事は出来ません。

例えば、大災害やパンデミックが起きたとき等は、働き手が減ります。
そのようなときにはお金の力が弱くなります。
エッセンシャルワーカーと呼ばれる方々の重要性を認識するのは、そのような時です。

エンジェル投資

エンジェル投資とは

新しいビジネスを始める新しい会社には、将来、大きな社会貢献を果たし、その結果として大きな収益をあげる可能性があります。
しかし、そのような会社でも、はじめは収益が無いところからのスタートとなります。

ビジネスをして売上を上げるには、働いてくれる人が必要です。
その人たちに支払う給与がなければ、ビジネスを軌道に乗せるどころか、ビジネスを始めることすらままなりません。

ビジネスを動かすためのお金が必要です。

そのお金を調達するための手段の一つが、エンジェル投資です。
エンジェルと呼ばれる投資家からお金を受け取り、その代わりに株式を投資家に渡します。

株式は、会社の所有権であるため、将来会社が大きな利益を出したら、その利益を受け取る権利となります。
ただし、会社が倒産したら、投資したお金は戻ってきません。

投資は人の時間を使うこと

投資されたお金は、その会社で働いた人の給与として支払われます。

事業が失敗した場合、投資家は損をします。
しかし、投資されたお金は、働いた人に渡っているため、消滅したわけではありません。

投資した事業の失敗は、お金の総量を減らしているわけではありません。
お金自体は損失していません。

このときに損失しているのは、働いた人の労働時間です。
もしかしたら、そこで働いた人たちが、別の会社でより多くの社会的な価値提供をしていたかもしれない時間を損失したと言えます。

投資家が投資している先は、単純なお金ということではなく、若い人たちの時間に投資していると言えます。


以上、学びを得た箇所をピックアップして記載いたしました。

感想

SNS上でのお金の話は、感情的・道徳的・倫理的な話が多いように感じます。
「お金持ちはズルい」とか「あいつは銭ゲバだ」とか。

本書は、そのような話とは適切な距離をおいて、社会におけるお金の役割についてロジックで語っています。

それでいて、そのお金の使い方には、人の気持ちが乗っかっているということも分かるような内容となっており、乾燥無味ではなく、温かみのあるストーリーが展開されます。

本書の最後に、「ぼくたち」の範囲の話が出てきます。

人はどうやら、自分が仲間と思った範囲に対して、積極的に助けたりサポートしたりする特性を持っているようです。
これは、人が善性を発揮する際の非常に重要な概念のように思えます。

みんな大好きコテンラジオの「シンドラー」のシリーズでは、特にこの「どこまでを仲間とみなすか」という点にフォーカスしつつ、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害について語っていました。

「ぼくたち」の範囲は人によって様々です。

「ぼくたち」の範囲が自分だけだったり、家族までだったり、仲のいい友達も含んだり、近所の人たちを含む場合もあったり。
あるいは、地域の子どもたちを含んだり、会ったこともない外国の子供も含まれるかもしれません。

そして、その範囲は時と場合によっても変化します。

普段は優しい人でも、急いでいたり疲れたりしていたら、手を差し伸べられない場合もあります。

そのうえで、本書では「お金の奴隷になっている人ほどその範囲は狭くなる」という指摘があります。
そうなると、自分の生活は他人が支えてくれているという実感をうけずらく、お金がすべてを解決してくれているという感覚に陥りやすくなってしまいます。

このような、社会とお金に関する様々な視点について学ぶことができる、今の時代に重要な書籍だと感じました。

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