傷ついた孤独な大人たちの物語 村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
高校生の時に高校の近くの図書館でこの本を借りて読んだ。その当時の僕はひねくれていて、神経質で、「勉強命」という感じの人間だった。友達は何人かいたけど、そういう性格だったから、あまりいい関係は築けていなかったと思う。別にこれでいいと思いながらも、どこかで寂しさややり切れなさを身勝手に感じていた。
そんな時にこの本を読んだ。本というものは、それを読む人によって注目する部分が違い、どこに感動するかも違うと思う。なのでこの本の主題とはずれているかもしれないけど、僕は多崎つくるの「他人と深く真剣に交われなくなってしまった」状態に共感をしました。
多崎つくるは学生時代の4人の友人から絶交され、それがトラウマになり、他人と深い関係を作ることが怖くなった、という設定の人物なのですだが、人間は誰しも、大なり小なりそのようなトラウマや傷を抱えて生きているのではないかと思う。
他人を100%信じられる人などまずいないと思う。それは生きていくなかで得たトラウマや傷が作用しているのだと思う。それが小さくても大きくても、その人の人生観に影響をある程度及ぼすようになってしまうのだと思う。
大人になれば、変に気を遣うのがうまくなって、他人と深い関係を築くのが下手になってしまう。この「大人の気遣い」は、傷やトラウマが生んだものなのではないかと思う。傷やトラウマを受けたり、他人に与えたりするうちに、そのようなことが起こらないように、人との関係にある程度の距離を作ることを覚えてしまうのではないかと思う。昔はあんなに簡単に深い友情を築けたのに。
このような距離感で誰も傷つけず誰からも傷つかれない関係を維持することに安心してしまい、そこから出ようとしなくなってしまう。
それが「大人」なのではないかと考える。
この小説はそんな傷ついた孤独な大人たちの物語だと思う。
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