お稽古考
このところ、仕事で移動が続いていた。
電車で効率よくまわれる状況ではなく、クライアントさんが
車を出してくださった。
車だと、密室だということもあって、
なんとなく、あれやこれやの話をする。
30代の若いお父さんとの会話の中心は家族だった。
家事のサポートと共に、彼の課題のひとつがお稽古だった。
お子さんはいくつもお稽古をしている。
お連れ合いが下のお子さんの育休明けで復帰するにあたり、
どれかお稽古を整理しようという話になっているらしい。
どこまで、当人の意思を尊重するか。
おつれあいの気持ちを尊重するか。
お父さんは答えを出しあぐねていた。
辞めさせるのではなく、お休みするものを探してみるのはありかもね。
と言ってみた。
辞めると戻れない感じになっちゃうけれど、
ちょっとお休みして様子をみる。
やっぱりやりたいなぁと思うなら、以外にそれはその後続くのでは、と。
子どもがやりたいということは、何でもやらせてあげたい。
そういう親御さんは多い。
子どもがやりたいというのに、親が腰を折るなんて(親失格!)
という風潮も日本にはある。
一方で、自分は英語が話せないから、子どもには是非しっかり英語を身につけさせてあげたい、という親御さんもいる。
ふだん、老人まわりの話ばかりしているけれど、一応子どもを3人育ててみてお稽古について思うのは、正直なところ、
子どもがやりたいというのに、親が腰を折るなんて(親失格!)
なんてのは、余計な御世話だ、ということだ。
一人っ子なら理解できる。
でも、複数いたら、誰かのお稽古の時は誰かが待ってなくちゃならない。
それが、30分のピアノのお稽古だったらまだいいけれど、
2時間の野球の練習だったら、付き合わされる側は地獄でしょう。
しかも、大体、付き合わされるのは、下の子と決まっている。
不公平じゃんね、そんなの。
子どものやりたいことをやらせてこそ親!っていうポリシーに反しない?
と思うのだ。
と言う話をすると、大抵、じゃぁ、下の子も一緒にやらせればいいじゃない?という展開になるわけだけど、
お兄ちゃんが野球やってるから、下の子も野球って、
お兄ちゃんの気持ちと個性しか尊重していないことにはならないのか?
いや、子どもは順応性があるから、そのうち、下の子もおもしろいっていうようになるよ。考えすぎだよ。
と言われたこともあるけれど……。
特に、同性の下の子はこのパターンに陥りやすい。
お姉ちゃんがバレエやっているから下の子も、とか
お兄ちゃんがサッカーやってるから、下の子もとか。
でも、不公平よね?意志尊重されているのは上の子だけ。
とはいっても、3人いて3人バラバラのお稽古となると
時間的にかなり厳しい。
3人にほぼ同じくらいのお稽古をさせるとなると
いくつも掛け持ちするのは、金銭的にも厳しい。かなり。
となると、せいぜい、やらせて2つ?
できれば1つずつが理想的だ……った。当時の我が家には。
そのお稽古をどう選ぶかというと、
お稽古というのはそれなりにお金がかかるから、
投資するだけの見返りがほしい、と私は思っていた。
どんな見返りか。
彼らの一生の友達になってくれる趣味になること。
野球なら、大人になってもお父さんチームに参加して続けるとか、
友達と野球見に行くとか、ボランティアで審判やってるとか。
なんとなく、仕事以外の生活の軸になったり、
仕事以外の付き合いができる世界を広げてくれる、
そんな趣味に育ってくれるお稽古をしてほしいと思った。
もう一つ、ここからは最低の親と言われそうだけれど
親も仕事から帰ってきて、家ではくつろぎたい。
だから、お稽古がバトルの原因になるものは避けた。
どういうことか?
例えば、楽器は、家でそれなりに練習しないと上達しない。
それは、私自身が、母に無理矢理ピアノを習わされた
経験からもよくわかる。
まぁ、お試しでやってみるのはありだけれど、
うるさくお稽古しなさいといわなければならないものは、
私は付き合えない。
しかも、3人に言わなくちゃならないんじゃ、たまったものじゃない。
長男と次男にピアノをちょっとやらせて、思いの外大変だったので、
割に早い時期に楽器は選択肢からはずれた。
もう一つ、親の出番がすごく多いお当番制のある習い事もパス。
お洗濯が非常に大変なものは、自分でユニフォーム洗ってくれるならどうぞ、とした(私に真っ白なユニフォーム期待しないでねということで)。
一方で数を絞った分、一緒に楽しむ機会は意識して作った。
バレエの子とは、クリスマス毎にくるみ割り人形を見に行ったし、
音楽をやった子とはコンサートに行ったり、テニスをやった
子とは試合を見に行ったりという具合に。
彼らがいろいろ解説してくれるのを聞くのも楽しかった。
そのベースにあるのは、歌をやっていた子の先生がおっしゃったこと。
スウェーデンではとても児童合唱が盛ん。みんな小さい頃は歌い手さん。
それが、大人になって音楽を楽しむ素地を作る。そして、今度は
若い歌い手さんたちの歌を楽しみ、彼らの音楽性を育む。
それが文化。
ウィーン少年合唱団も、音楽家になる人ばかりではない。
将来は何になりたいの、と聞いて、オペラ歌手という子も少ない。
豊かな趣味を持って、別の世界に羽ばたいていく。
それを支えるのが、子どもの頃に培った趣味であってほしい。
そう思ってお稽古をさせてきた。
さて……彼らが今、それぞれ楽しんでいると……どうか?
よくわからないけれど。
でも、中高とずっと続けた習い事。
学校以外の世界があったことも、学校以外の友達がいたことも
彼らにはプラスだったのではないかなぁと思うのです。
得意技は家事の手抜きと手抜きのためのへりくつ。重曹や酢を使った掃除やエコな生活術のブログやコラムを書いたり、翻訳をしたりの日々です。近刊は長年愛用している椿油の本「椿油のすごい力」(PHP)、「家事のしすぎが日本を滅ぼす」(光文社新書)