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脆い春[1-2]_小説

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私たちは、15歳の夏、間違いなく一緒にいた。よくある中学生の友情ってやつで、その後高校生になって最寄り駅ですれ違うことがあっても、お互い見て見ぬふりをしてしまう関係になったけれど、それは決して良い悪いではなく、ただ単にお互いのタイミングや相性が少しづつズレていったのだろうと思う。

けれど、私たちが共に過ごした夏は事実として永遠に残っている。不思議だ。たとえどんなに険悪になったとしても、過ごした時間や共に生きた空間は確かに46億年の地球の歴史に刻まれている。

変えられない過去は、私たちの「今」によって創り出されてきたのだ。今息を吸って吐いた瞬間に、一秒前に吸った酸素は体内に取り込まれてもう手にすることの出来ない過去になっている。重ねてきた日々を振り返ればそれは遠い昔になるが「今」を積み上げてきただけという客観的事実を前にするとその莫大なスケールにゾッとする。

惜しくも、美玲―いや、川谷命が「今」を積み重ねてきた時間はたったの七億二千五百三十二万八千秒、つまり二十万千四百八十時間、二十三年で止まってしまった。彼女にどのような苦労があったのか、私たちはもう知る術もない。

私はただ、ぼうっと肩をすくめて恥ずかしそうに笑う命の表情を思い出していた。命、あんたに何があったの。

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