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はじめに

 サロンを始めて2ヶ月以上が経った。正式にOPENした年月日は存在するが、そちらはOPENにはしない。
 私は、自分の誕生日に始まり、クリスマスや正月、バレンタインやハロウィンといったイベントが苦手だ。
 ホステス 時代に周年やら“生(聖?)誕祭”やらで普段店に金を遣ってくれている客に更に金を遣ってもらうためにいつも以上に営業をかけるというのにも疑問を持っていた。単純に祝い事として有難く受け止めれば良いのだが、どうしても自分としては罪悪感がついてまわるため、なるべくイベント事に関わることのないような環境に身を置くようにしてきた。
 ただ、私のサロンは大まかな括りでは「飲食店」である。昔からお世話になっている店の周年やスタッフの誕生日には花を贈ったりシャンパンをおろしに行ったりすることに関しては抵抗はなく、むしろ遊びに行く理由が作れるので楽しんでいる。孤独な経営者のささやかな喜びであり癒やしでもある。
 ともかく自信がなく不安を感じやすい自分にプレッシャーをかけるとどうなるかわかっているからこその「記念日を明かさずイベントはしない」という決断をした。
 
 OPEN時期がコロナ禍に入って2年経つころであるため、客からは「よくこんな時に始めようと思ったな」との声をいただく。正直にいうと、ずっと飲食業を始めたかったわけでもなく、コロナ禍だからもう少し先にしようかとか検討をしていたわけでもない。いつ始めたって何らかの苦しい時期はやってくるとの覚悟はしていた。何か強い志を持って始めようが何となく始めようが、何かしらの試練は同じようにやってくるし何事も理想通りにうまくいくわけがない。「夢を叶えたんだね」とか「自分だけのお城だね」とかたまに激励の中にいただく声としてあったのだが、私としては夢だったわけではなく自分の城だとも思っていない。しかしそう言われる度に「はい!辛い事もあると思いますが、楽しみながらがんばります!」なんて優等生な返答を繰り返していた。我ながら何とひねくれた本音であろう。

 私はこのサロンを始める前は会社勤めをしていた。部署としては事務職であり、時々会社オリジナルの事業の運営に関わったり自分が主として担当することもあった。その会社の立ち上げのころから所属しており、5年が経とうとするころだった。特に何かすごく不満があったわけではない。贅沢しなければまあ安定した生活は保証されていた。サロンの立ち上げから現在に至るまでも支え続けていただいている社長には感謝している。
 ちなみに私のような女性がいわゆるお酒を出すお店や小料理屋等を始めるとなると必ず言われるのが「スポンサーはいるのか?」「バックに金主でもついてるのか」とのツッコミであるが、それは皆無であることを先に宣言しておく。

 独立するきっかけとして何かあるとすれば、私はチームプレーが苦手で、みんなで1つの目標に向かって肩を組んで協力してやっていくことが困難なタイプであることと、足りないものやできていないことに異常に気付きやすく、それが簡単には改善できないことにもどかしさを抱えていたという点である。
 継続したチームプレーの必要もなく自分では変えられない欠点が見えない場所に身を置くとなると、独立しかなかった、と思う。“と思う”と付け足したのは、つまりこれも後付けだからである。
 何か強い思いや目的があって私はサロンを始めたのではない。続けられる明確な自信があったわけでもない。一番の理由はといえば、本当に正直にいうと単純に「今始めてみようと思った」からである。

 「甘過ぎる」「どうせすぐ潰れる」との声が遠くから聞こえる気がする。しかし、始めてみなければわからないのはどの業界でも、どんな状況でも同じだ。熟考することや話し合いを重ねることよりも、勢いが何よりも強みとなることを、会社員を経験した身としては実感がある。
 そして「今の自分ならどんな最悪な事態に陥っても何とかするのではないか」という、根拠のない自分への信頼が、実は何よりも支えになっていることに、最近気付けたような気がする。

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