効率化と適応力はトレードオフである
"効率化"の取り組みとそのリスク
労働人口の減少やIT技術の向上などにより、昨今の日本企業ではDXやらAI活用やらのバズワードを引っ提げて、”効率化”を目的とした取り組みが散見されるようになった。
環境における課題の大きさ・共通性と、トレンドに則った解決策がうまくフィットしているため、どこもかしこも”効率化”と向き合わざるを得ない状況のように感じる。競合優位性としての生産性の高さを掲げる企業も少なくないのではないだろうか。
もちろん、”効率化”を一概に悪いと言うつもりは全くない。目的達成に対する手段として、”効率化”という選択が最適な場合も当然考えられる。
実際に、SaaSやシステム等を活用することで人件費を半分以下に抑えることや、一人当たりの売上を2倍、3倍にすることなんてことも現実的な話である。
しかし、”効率化”がはらむリスクは考慮から漏れることが多く、”効率化”を目指す取り組みが、一転して重大な経営課題となり得るケースは多いのではないかと考える。
そのリスクの一つが”適応力”の低下である。
時間的価値の向上による、状況適応の価値の損失
例えば、SAPなどをはじめとする、ERP(Enterprise Resources Planning)と呼ばれる基幹システムがある。これは、迅速かつ的確な経営判断を行う、いわゆる「経営の効率化」のために導入される、会計や販売、人事情報などを統合して管理するシステムである。
しかし、「経営の効率化」を目的とし、その結果、業績の向上などを目指すわけだが、実はこの基幹システムが大きな経営課題となっているケースは非常に多く見受けられる。
(執筆時、筆者はコンサルタントとしてシステム刷新のPMOを担当している)
これは、日々移り変わる業務プロセスや事業の重要指標にシステムが適応できず、適切な経営判断を行うためには現場の属人性に頼った情報集約に頼らざるを得ない場合や、そもそも重要な経営判断を行うための要素が精緻に確認できない場合などが該当する。
社内で何気なく利用しているシステムは、”効率化”を求めて導入されたものがほとんどであるはずだが、システムでの対応が困難な業務で合ったり、そのわずらわしさから、ExcelやGoogleスプレッドシートなどで業務を独自にカスタマイズ(効率化)した、いわゆる職人とも呼べるような方がどの職場にもいるように思うが、心当たりはないだろうか。
つまり、”効率化”を目指した取り組みは、時間を重ねるごとに”適応力”が求められるようになり、適応できなくなった仕組みは陳腐化し、重大な経営課題となり得ると言える。
また、製造卸のような業態を例に挙げると、自然災害による工場停止などを考慮したバックアップの製造施設や過剰在庫の確保、ライン中断を考慮した予備人員の確保は、”効率化”とは逆行した”適応力”(冗長性)の確保であり、”効率化”と”適応力”はトレードオフであることがよくわかる。
”効率化”によって我々は時間的価値を手にしていると言えるが、その裏側では、状況適応の価値が損なわれている可能性を考慮することが重要になると考える。
SDGsではないが、筆者は持続可能な活動にこそ、大きな価値があると考えている。上述の論考を企業活動だけに当てはめるのではなく、政治活動や教育システムなどにも適用し、目的に応じて最適な意思決定ができるよう努めていきたい。
参考書籍:ジェレミー・リフキン (著), 柴田 裕之 (翻訳)
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