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【小説】愚。#7


前回

途絶(いいわけ)

 創作大賞2024が終わってしまっていた、知らないうちに。

 贋蔵の涙は一粒で途切れたが勃起は途切れず創作大賞2024は途切れた。

 まぁいい。

 そもそも贋蔵贋蔵と先程来、呼称してるわけだが前回というかもっとまえからこの男は贋造という表記になっちゃってたわけでこのあたり、作者の登場人物に対する愛情の欠落が伺えるような気もするけど実はこのふたり別人、あるいは作者も知らないうちに作中でパラレルワールドが展開されていてそれぞれの世界に存在する同一人物が微妙に違う名前で呼ばれていたのだ。
 ということにしようとしたけどすんません、そんなことはない。

 だから登場人物に名前つけんのイヤなんだよ忘れちゃうし。

贋蔵は贋蔵

 世間の些末な誤記で世界情勢が変化するわけでもなく、贋蔵の勃起が終わるわけでもない。

山空のプロフィール

 ざわざわする社食。
 パーマネントが昏倒痙攣し金属音が消えると途端にざわざわの度合いが強くなる。ざわざわが金切り声に取って代わった感じ。
 ざわざわ。ざわざわ。ざわざわ。
 ざわ。  ざわ。

 ざわざわしながらも誰一人パーマネントを抱き起こすなり担架に乗せるなりして救出しようとする者は無く、おばさん放置痙攣継続。

 というか、社食の民共にとってのトレンドはもはやパーマネントではなかった。パーマネントはオワコンである。

 群衆は移り気。
 群衆のトレンドは山空と女に移行していた。
 愚民は目移りが早い。

 さて山空、さて女さて、あろうことか山空は片目を瞑ったまま女に手を伸ばし、女は不気味に笑いながらそれを取った。
 山空が腕を引くと女の身体はやや起き上がりながら極々自然な成行で引き寄せられて行きそしてまたその、位置関係の具合から男の股間と女の顔面が次第に近づいて行く。
 とってもスロー、極めて緩慢にそれは行われていて贋蔵を始めとする社食の民は瞬きもせずにそれを見つめていてあの、ざわざわが、消えた。
 固唾を呑むとはこのことか、山空と女以外の者は動かない。
 進まぬようで進んでいる景色やがて、女の顔面は真正面から山空の股間に接したそして、握りあった手指を一旦卑猥に絡めてから解き、男の手は女の頭に触れやがてその髪を優しく撫でるのであった。

 ふぅと、唇から息を漏らす女。
 とってもスロー、極めて緩慢に髪から耳、頬、顎、首、肩と身を屈めながら山空は女の脇に手を入れ抱き上げようとしているのだがしかし、女は腰にしがみつきその股間にふぅふぅ吐息をかけてなかなか動こうとしない。
 とってもスロー、極めて緩慢にそんな小競り合いが続いた。

 昼休み終わってんじゃねぇの?
 しかしもはや社食には時間の概念も就業規則も存在しない。

 押す山空引く女。
 息を詰めて見つめる群衆。
 勃起しながら泣く贋蔵。
 放置されたパーマネント。

 ついに山空は女の脇に自分の肩を入れ、手をその背中で組んで抱きかかえるような体勢を取った。
 力がこもった、それは他人が見てもわかるほどに。しかし女は動かない。 異様な情熱で山空の腰にしがみつきふぅふぅしている。
 女の脇に深く腕を入れて力を込めればふたりの頭部が接近するのは自然である。
 山空は女を抱えながら、その首に吸い付いた。ちゅっという音がした。けっこうでかい音だった。思いっきり吸い付きやがったな、新入社員の分際で。
 これが作戦なのか成行なのか知らないが、これで女は脱力し、山空の腕に身を委ねた。
 ゆらゆらと立ち上がった女を抱き寄せ、また優しく髪を撫でる山空。
 しばし山空の胸に顔を埋めてい女が、不意にゆっくりと顔を上げた。
 見つめ合う二人。山空は相変わらず片目を瞑っている、なんでだ、なんで瞑ってんだ。

「初体験は13歳」
 女は瞼を閉じ、重なる二人の唇。
「勃起すると28センチ」
 どよめく社食の民には目もくれず、女は食い千切るような勢いで山空の唇を吸い始めた。びちゃびちゃという唾液交換の音だけが空々しい空間に重く鳴る。

 俺より早かったよ、具田。
 俺より遥かにデカかったよ、具田。
 図らずも猥談の回答が得られてしまった贋蔵は心で具田にそう呼びかけた。ペニスは萎えていた。

 贋蔵の涙は枯れてしまった。

(つづく)

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