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岸辺内閣総理大臣の憂鬱/バトルロートル・ビギニング④

岸辺の卑怯と哀れな官房長官

「バトルロートル!」
 私は一張羅の華やかなフランス製スーツを身に纏い、美人秘書が書き上げたシナリオの1行目ををできるだけ激情的にエモーショナルにわざとらしく絶叫した。シナリオにそういうト書きがあったから。
 そして自分の背面にあるホワイトボードに自らカタカナで書いた”バトルロートル”という文字に向けて掌をバン!と叩きつけたらホワイトボードが勢いよく回転してしまったので慌ててそれを止め、ちゃんと文字が見えるように固定したのだけれど、そもそもマジックインキが極めて細いいわゆる”名前ペン”であったこと、私自身の筆圧が弱くて字がへなへなしていること、貧乏育ちで紙を最大限に使うため字を異常に小さく書く癖があることなどが原因で叩いた拍子にほとんど消えてしまっていた。これでは国民に対する説明が不足すると、私は再度名前ペンを持ち、書き直した。
 こほん、と咳ばらいを一つ。
 「バトルロートル!」

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1,443字
全5話の小説をマガジンに纏めました。

以前、webで公開していた作品をブラッシュアップしました。 ナンセンス小説、不条理小説です。 やや残酷、やや性的な描写が含まれます。

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