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花束

君のために何か出来る事を
探し続けていたけれど
僕の発する言葉で
君の心を動かすなんて
とても無理だと
地球を7周半した所で
やっと気が付いた

それからどうしようかと
随分悩んだあげく
僕が始めたのは
君だけのために花を
咲かせようとして
小さな小さな土地に
一粒の種を蒔いた

花を育てるのは
思いの外
時間がかかった
雨や風から
小さな芽を守ろうと
大地の上に泥だらけで
蹲っては
一晩中祈りを捧げた

日照りが続くと
僕は川まで何度も
往復して水を運んだ
夜は狼の群れから
茎を守るため
寝ずの番をして
昼間疲れて眠った

そんな間抜けで
要領の下手くそな
僕だったけど
たくさんの時間を費やし
やっと
やっと
やっと
たった一輪の花を咲かせた
それは薔薇の花だったけど
青い色をした薔薇だった

本当はピンクや赤いのが
良かったのだけれど
土壌の関係かもしれない
この土地に咲く花は
どれも青い色をしていた
だから
ほんの少し寂しくて
悲しくなってしまいそうだ


でも
一生懸命咲かせた
この花だから
もしかしたら
喜んで貰えないかと
少しでいいから
君の喜ぶ顔が見たくて
僕はまたまた
地球を7周半して
君の窓辺に届けた

君がその花を
喜んでくれたのか
どうか
僕には
分からなかった
君は心を喪失し
閉ざされた部屋の
住人でいたから

でも僕は
いつか
この花が
君の元へ
届くと信じて
何度も
何度も
花を育てて
地球を周り

君が見るとも知れない
その窓辺に
花を届けた
僕が育てた
青い薔薇は
いつしか
ひとつの花束になり
君の窓辺を飾った

それから
君がどうしたか
僕は知らない
僕の作った花束を
君が見てくれたのか
それさえも
知らなかった

ただ
風の噂で
聞いた事によると
君は心を取り戻し
どこかの国の
王子さまと結婚し
どこか
遠い国へ
嫁いで行ったらしい

もう君には
会えなくなった
そもそも
君は僕を知らない
でも
君がしあわせなら
それでいいと
僕は思った

君の窓辺には
まだ青い薔薇の花束が
たくさん
残されているのだろうか
僕は今でも
君の知らない土地で
君の幸せだけを祈り
こうして
生きているんだ。

どうか君は幸せになって
色とりどりの
綺麗な花を
新しい君の窓辺に
咲かせて欲しい
そうでなければ
悔しいと思う
青い薔薇の花束は
いつか枯れてしまうのだろうか

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