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ショート・ストーリー集

66
ショート・ストーリー、集めました。
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#小説

目醒めの刻

 暖かく白い光が目の前で踊っていた。わたしはくるくる回る走馬灯のようなものの中にいた。時…

上野 紗妃
5か月前
14

終わりの始まり

 ドアを開け、多少の驚きの表情を示したまま、両者は無言のまま互いを観察した。  ややあっ…

上野 紗妃
6か月前
13

夜鷹の灯り

 なんて言うか、この頃、すっかりバカになってしまいまして……、 「馬鹿?」  あ、いや、関…

上野 紗妃
6か月前
13

最終電車

 遠くにポツンと灯りが見えた。 「来たよ」 何気なく彼は呟いた。ホームの端で黒っぽいコー…

上野 紗妃
6か月前
14

水曜の朝、午前三時

 君はもう随分長くSNSをやってはいるけれど、そんなに多く"ともだち”がいるわけではないよね…

上野 紗妃
6か月前
16

木曜茶会

 毎週木曜日はコメダの日。私たちの決め事はそうなっています。もちろん特別な用事などがあれ…

上野 紗妃
8か月前
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サスペンスと言う勿れ

「いいか、五千万用意しろ、それをカバンに詰めて、N駅から14時発の電車に乗れ、先頭車両だ。そしてカバンを網棚に乗せたまま次のA駅で降りろ。降りたら後は直ぐタクシーに乗って家に帰れ。分かったな。もしこの指令に背いたら家に火をつける。警察や他の人間に連絡した時も同じだ」  少し長いセリフだったが、目の前にカンペを置いて受話器越しに一方的に喋るだけだ。売れない舞台俳優の神田にしてみればゴールデンに放送されるこのドラマ出演に今後の役者人生を賭けていた。ただし、少々意気込み過ぎていた

リストカットの罠

行き付けの酒場のカウンターで マスターと2人きり 俺はいつもの取り止めもない 話を始めた。 …

上野 紗妃
9か月前
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TIVANT

「ノサキさん、ノサキさん、例のオンナの素性がやっと判明しました」 「何? 本当か!」  公…

上野 紗妃
10か月前
12

ずぶねり

 今年の出来事であるが、スマホで大相撲夏場所の取組結果を行きつけのバーのカウンターでチェ…

上野 紗妃
10か月前
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ああ、南国バリの夜は更けて PART 3

夜、そろそろ寝ようかなと思っていたら、突然ヨースケから着信があった。

 何だろ、こんな…

上野 紗妃
11か月前
16

アキラかなマコト?

 人には『見える人』と『見えない人』の二通りあるらしい。私は見えない人のようだ。  アキ…

上野 紗妃
1年前
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ホテル・エルナンデス

 見た目は普通のビジネスホテルだと思った。ロビーに入ると意外に広い空間。天井も高く、ラウ…

上野 紗妃
1年前
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白い光の中へ

 昔はこの辺りも随分と賑わっていたものですけどね、近頃ではさっぱり観光客も寄り付かなくなって、私らの商売もあがったりですわ。古い旅館を家族で切り盛りする年配の女将はそう言って自嘲気味に嗤った。  簡素な朝食を頂いた後、ふと窓外の風景を目にしてみる。普段なら緑の田畑が広がるであろう平野は一面の雪景色となって、朝の陽光がキラキラと眩しく瞳孔を刺激する。遠く山の端に小鳥の囀りが聴こえて、それが逆に静寂さを増幅させている。人の気配はまるでない。宿の西端に小さな湖水があって今朝方はその