貝の観察、実践

ⅰ. 爪

貝殻を拾ってきた。何の貝かは知らない。

流れる流線型の縞模様は半透明の整然とした混沌の湖から始まっていく。細やかな線の束が扇状に広がってゆく。線はその直前の今を複製し続け次第に肥えてゆく。複製された跡が重なる。

便宜上神と呼ばざるを得ないものがつくった美しい形。

縦に伸びる縞模様に響き渡り反響を続ける神様の設計図は虹彩を纏う。

半透明の幾重に重なった虹彩は裏側に音を強め、目を凝らし見えないものを見る者だけが表面の光彩の深さを知る。

我々の指先には無色透明の貝。

透過する貝が十個もついているだなんて!

ⅱ. 貝絵

貝をモチーフに描くというのは、何も貝の図像を写し取るのではない。

貝の設計図を読み取り抽出するのだ。

幾重にも重なった光の粒子、流線型の小宇宙。

貝の阿頼耶識に直接触れるのだ。貝の模倣ではなく、貝を創り出さねばならない。

ⅲ. 食

今日食べたものは十年後の身体になるそうだ。

十年でも明日でもよい、神様の設計図の遂行者を捕食できるなら、それが私の身体になるのなら、そんな幸せなことはないだろう。

そして私は貝を創る。

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