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時代の変化に合わせ「当たり前」を見直す大切さを、iOS14のアップデートから学んだ話 | UI Design Weekly vol.07

先月WWDC2020が開催され、アプリの一部機能がオンデマンドで利用できるApp Clips、ホームスクリーンにも追加できるウィジェットなど、
魅力的なアップデートがたくさんお披露目されました。

その中でも、個人的に一番感動したのは電話をがかかってきた時の通知UIアップデートでした。
今回は、そのアップデートを通して考えたことを書いてみたいと思います。

iOS14で「電話」の通知が変更に

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今までは電話がかかってくると、iPhoneで行っている全ての操作が遮断されていました。

(1) 電話を受け取る
(2) 電話を拒否する
(3) リマインドする
(4) メッセージする

と、選択肢はあるものの、かかってきた電話に対して何かしらアクションを取らなければいけないUIになっていました。

しかし今回のアップデートでは、他のアプリのように電話にも

(5) 何もアクションせず、今やっているタスクを続行する

という選択肢が加わることになります。

多くのAndroidユーザーにとっては真新しい話ではないかと思いますが、iOSでもついに
通話=全ての操作をやめて最優先しなければいけない」という考え方がなくなった...そんな大きな時代の流れがこのアップデートに表れていると感じました。


「電話」について考えてみる

この一見地味なアップデートですが、私にとっては良い意味で衝撃的でもありました。
長い長い電話をする端末の歴史を経て、電話を最優先にするかどうか、つまりタスクの優先度はユーザーが決めるものだ、という大きな流れが表れているようでした。

そこで改めて今の時代においての「電話」を観察してみると、気づいたことがいくつかありました。


1.電話のアプリが使わない機能だらけ

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あくまで個人的な観察ですが、iOSの「電話」アプリを開くことが最近ほとんどないということに気付きました。機能ごとにみても、

よく使う項目:ない。
履歴:
音声通話の履歴はほぼなく、LINEオーディオの発着信履歴一覧になっている。つまりLINEを見れば良い。
連絡先:中学・高校の時から引き継がれている連絡先がなぜか残っているがここ数年使ったことがない。
キーパッド:サイトで電話番号を見つけても、電話番号押下で直接発信できる場合が多いのでほぼ使わない。
留守番電話:1年に1回あるかレベル。

という結果で、こんなに使わないメニューだらけのアプリであったことに驚きました。
もちろん仕事柄もあると思いますし、ちょっと極端すぎるのではと感じる方もいると思いますが、
プライベートはLINEやその他SNS、仕事はSlackというコミュニケーション手段が定着している私のようなユーザーにとって、このようなケースは少なくないのではないでしょうか。

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そのことに気付き、初めてiPhoneにした8年前からずっと電話アプリが占領してきたホームスクリーン左端のベストポジションを、LINEに譲りました。そして時代の流れを感じるのでした...。


2. 電話アイコンが何なのかわからない問題

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数年前からしばしば話題に上がる、
若い人は電話アイコンのカタチの意味がわからないらしいという話も、
「ジェネレーションギャップだね〜笑」と笑って終わらせられる話ではなくなってきています。

使われなくなった「受話器」が「電話」のメタファである、と理解できない人が本当に多くなっていくからです。

Webサイト用に電話アイコンを作る度に、この件に関して一人で悶々と考えているのですが、結局のところ答えは出ていません。
スマホのような代替のメタファが使われるようになるのか、
もしくはLINEのような特定のサービスにそれぞれ置き換わっていくのか...。

前者の例で挙げると、「保存」を意味するフロッピーディスク💾も古くなったメタファの1つです。

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まだその意味を理解できる層が過半数を占めているとは思いますが、
今新しいサービスで「保存」を意味するアイコンをデザインするとなった場合、あえてフロッピーディスクを用いることはほぼないのではないでしょうか。

3. 固定電話がメインであることを想定したフォーム

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個人情報を入力するフォームを、順番通りに埋めていくと
え、携帯番号の欄あるんかい」と書く場所を間違えてしまった経験はないでしょうか?私は何度もあります。笑

固定電話の世帯保有率に関する調査では、全体で7割近くです。
意外に多いと感じますが、20代世帯では5.1%と、他の世代に比べて格段に保有率が低いことが分かります。

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さらに、(法人ではなく)個人で固定電話を契約している理由を見ていると、

・ローンを借りるときに固定電話がある方が信用される
・固定電話がないと住所が証明できないから

といったような、ずっとアップデートされずにいた価値観や社会のシステムが理由で固定電話を契約しているという意見もしばしば見受けられました。

全体で7割という数字に騙されそうになりますが、このような背景を踏まえると実際は契約はしているもののほぼ使っていない世帯も多いのではないでしょうか。

フォームに話を戻します。
2つフォームがあると、「固定電話も何かしらの理由で必要なのか、書いておくか」と無意識に判断するのが一般的かと思います。
しかし同時に、電話をかける側がどちらにかける方が良いのかわからない、という状況が生まれてしまいます。本当にこのような判断は必要なのでしょうか?
連絡をとることが目的の場合、「とりあえず両方書いてもらう」ではなく、
繋がりやすい電話番号だけを書く側が選んで書く」だけで良いはずです。もしもの場合に備えたい場合は、本人の電話番号2つではなく緊急連絡先を書いてもらうのが良さそうです。


4. そもそも「電話番号」なくなる説

1でも触れましたが、今電話番号を使うケースはかなり少ないです。SMS認証、個人情報登録、各種手続き...など、
元々の電話をするという役割は少なく、個人を特定/認証するような使われ方がほとんどです。

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The Death of Phone Numbersという記事で触れられている上記の「SMSの今」確かに共感できるものでした。

言ってみれば、11ケタの番号を暗記して入力する、という行為自体がものすごくアナログなことではあります。
この記事にも触れられているように、電話番号の代替が何になるのかは分かりませんが、VHSやカセットのようなコミュニケーションツールと同様、電話番号もなくなっていくのではないのでしょうか。


些細な違和感や、時代の流れに敏感になること

「電話」について観察して見た中で、いくつか気づいた点を挙げました。
時代の流れは変わりつつあるものの、アップデートされていないまま残っている形式やメタファが見受けられました。
デザインに関わる立場からそんな状況を観察し、学んだことが2つありました。

言語化されていない、些細な違和感に気づくこと

iPhoneで何か作業をしているときに、それが「電話」によって遮断されてしまうことは無意識にストレスになっていました。
それがiOS14のアップデートでコンパクトになり、ようやく「この体験がストレスだったんだ」と自分の中で言語化することができました。

自分がデザインする側に立ったとき、AppStoreやユーザーインタビューで表に出るフィードバックは分かりやすく改善できるものが多いですが、
このようにユーザーが無意識に感じているかもしれないストレスや、違和感に気づくために、様々な角度からデザインを検証する必要があるなと改めて感じました。

▼ 時代の流れに敏感になり、定期的にアップデートする

固定電話やアイコン、さらに電話番号そのものについて、今回それらが本当に時代にあっているかを考えることができました。電話以外でも、

・メアドを確認用に2回入力させるのは本当に必要か?
・宅配荷物受け取りで形式的にサインしてるけど、本当にいるの?

など、テクノロジーは時代が変わるごとに進化する一方で、本当は必要のない形式的な作業は残ったままになっていることが多々あります。
特にこのご時世、リモートワークや新しい生活様式になり、実は不要だったものが浮き彫りになったケースも多いはずです。

長く使ってもらうシステムを作るためにも、リリースして終わり!じゃなく、定期的に時代の流れや価値観の変化に合わせてアップデートしていくことの必要性を感じました。


おわりに

今回は生活の中で「当たり前」になっていることに気付き、必要性や意味を改めて考えました。
言葉にするとシンプルですが、デザイナーとして常に変化に気付くためにアンテナを張るよう意識していきたいです。

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