ビリー・エリオットをもう一度
10月の初旬にビリー・エリオットを観ました。
待ってました、3年越しの日本再演!
初演は見逃してしまったので再演を聞いた時は是が非でも観に行くのだ、と堅く決めていました。
というのもこの作品、私にとってとても思い入れのあるものなのです。
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ここでちょっと作品について触れていきます。
この作品は原作が映画で
日本では「リトル・ダンサー」というタイトルで上映されました。
あ、それならみたことある!という方も多いのでは!
この映画自体がかなり名作で数々の賞を総なめにしているのですが
舞台「ビリー・エリオット」はこの映画をさらに膨らませた作品です。
そりゃもう「これはすごい!」というお墨付きがあるようなものです!
✳︎ここからはストーリーや舞台の概要を含んでいます。知りたくない方はご注意ください!✳︎
正直なところ、私のむかーし見たきりの
映画版ビリーエリオットの印象は
とにかく暗い!なんか人も絵も暗い!といった印象でした。(関係各所の皆様ごめんなさい)
でもビリーがバレエにのめり込んで行く姿、大人のゴタゴタに振り回される姿、感情を爆発させる姿は幼心にもやはり印象深いものでした。
舞台版はミュージカルですから、もちろんナンバーが入るわけですが
当初私は不謹慎にもあのくらーい作品をどうやってミュージカルに…?なんでわざわざあの作品をミュージカルに…?という気持ちで観に行きました。
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さて、この「観に行きました」は実はさかのぼること7年前のおはなし。
実は私、2013年にロンドンで上演されたものを観てるんです!
当時日本では「リトル・ダンサー」=「ビリー・エリオット」という概念は定着していませんでした。
なのでリトル・ダンサーの舞台をやっているらしい、なんて情報もあまり知られていなかった。
(思い返せばガイドブックに必見!と載ってましたが)
なので「本場でオペラ座の怪人を見よう!」とか
「レミゼラブルのUK版が見たい!」とか
「英語のウィキッドだ!」「マチルダだ!」なんてあっちこっち予定を立てましたが
「ビリー・エリオット」は予定に入れていませんでした。
ところが、ロンドンに居た友人(舞台大好きな子!)とそのお母様が「これは絶対に見るべき!」と強く進めてくれて予定に追加。
そこで私は作品の衝撃に打ちのめされ、同時に偶然にも程がある再会を果たし
結果、この一連の出来事が私の人生を大きく変えました。
ありがとう、Nちゃん…!Nちゃんのお母様…!
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本題に戻ります!
初めてみたこの作品はUK版なので
台詞はもちろん全て「英語」
大まかな流れはわかっても細かいニュアンスが全くわかりませんでした。
その中でも明確に覚えているくらい印象に残っていたのが以下のポイント
・グランマソングのナンバーが夢みたいにおしゃれ。しかも舞台上でタバコ吸ってる。(前の方の席だったのでタバコの香りがしました)
→これは日本版でもう一回見るまで、ちょっと夢だったんじゃないかと疑ってたくらい幻想的でキレイな場面。日本版の歌詞を理解しながら見るのはまた一段と夢のようにロマンチックでした。
・ビリーが宙を舞う!イスが魔法みたいにまわる!
→子役がこんな危ない事して大丈夫なの?!とちょっとドキドキするくらい宙でクルクルするので驚きました。日本版で冷静にみるとしっかりオールダービリーが見守っていました。イスが回っているのも不思議で、尚且つビリー役キャストの集中力と技術に驚きました。
・舞台美術はよく見ると意外とシンプル。
→影が映る打ちっぱなしの壁が印象的でした。
スペーシングが絶妙でこじんまりした感じをあの広い舞台でみせるのは技だなぁと感じました。
・ナンバーの緩急が激しい!曲は全体的にロック、ポップ調。
→ビリーの怒りのナンバーとビリーとマイケルのナンバーが全く別の作品みたい!
子供達の場面はポップで可愛らしく、一方ではグランマソングのノスタルジックさ、「団結だ!」や警官との衝突の場面のズシンとくるロック調、カントリー調の素朴で心に響くメロディー。
ナンバーの色が本当に多彩!
当時はロックミュージカルはまだあまり日本に上陸していなかったので(ロミジュリくらい?)ミュージカル+ロックが新鮮でした。
恥ずかしながら最近調べて作曲がエルトン・ジョンと知りました…ひゃーすごい。
・マーガレットサッチャーってすごい言う。
→当時はまだ自分の中でミュージカル=ドラマチックな話(愛とか革命とか)という概念が強かったので
実在した人物(しかも首相)の名前を連呼してる、その上おっきいマーガレットサッチャー人形みたいなのが出てくる(揶揄してる?)、クリスマスにマーガレットサッチャー…??
セリフがわからなかったので「?」が飛びましたがなんか新鮮だぞ!と思いました。
意味は日本版でやっと理解しました。
そして何より
ビリー・エリオット役のキャストのパフォーマンスが圧巻。
圧巻を通り越して愕然としました。
こんなに若い子が、全身で「表現」してる。
特に怒りやもどかしさを表現するナンバーは言葉にできないくらいのエネルギー感!
堂々と踊り、歌う姿は燦然として見えました。
そしてこれは日本版ももちろん同じ。
血の滲むような努力と、選ばれた者だけに与えられた力。
その瞬間、今しか見られない大人と子供の狭間にいる彼等が放つ光を捉えた作品だと思いました。
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時を経て、日本で「ビリー・エリオット」をやるぞ!と聞いた時はついに!と胸が高鳴りました。
いざ、ビリーエリオットをもう一度!
あの数々の幻のような時間が
幻じゃなかった事を確認しなくてはと双眼鏡を握りしめて劇場に向かいました。
日本版を観劇して、あの日見た数々の奇跡は幻じゃなかった…とやっと思えたような。
セリフや歌詞を通じてより深く作品を知ることができ
お母さんの歌は内容がわかって2倍号泣。
ウィルキンソン先生のお人柄も、英語版ではなんであんなにツンケンしてるんだろう…
と思っていましたが…あぁ、先生そんな素敵な方だったとは…!!
いわゆる「方言」訛りがあった事も日本版で初めて知りました。
お父さんとお兄ちゃんの葛藤は台詞無くしては全く理解できていなかった…
アンサンブルの皆様のセリフやアクションひとつひとつにストーリーの深い部分のストーリーを感じましたし
ナンバーでは仕掛けの一切ない人力の場面構成に
どれほど日々神経を研ぎ澄ませているのだろうと目を見張り
なおかつアンサンブルとくくるのが惜しいほどにお一人お一人の役の人生を感じました。
それから、バレエガールズに大人が混ざっているのは知ってはいましたが
「あれ?今日はいない?」と思うくらいわからなかったです!すごい!!
ついでに映画も見直しました!
暗いって言ってごめんなさい。やっと、やっとビリーの心の動きを理解しました。
お父さんの、おにいちゃんの、ウィルキンソン先生の心の動きを読み取れました。
街が丸ごと何かと戦っている感じ
ふつふつと燃え続ける大人達の怒りと
鬱々としたビリーの中の怒りと諦めが変わっていく様はあの色じゃなきゃダメなんですね…
ロンドンの色とイージントンの色が違うのが印象的でした。
ビリー役のジェイミーベルもまた凄まじい表現力とパフォーマンス力…!
ブルーレイ買っちゃおうかしら…
あぁ、書ききれないし、語彙力も足りない!!
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この作品を初めてロンドンで見たとき
一番に「私は今まで何をやってきたんだろう」と思ったことを鮮明に覚えています。
今まで役者をやってきて常に表現と向き合ってきたはずなのに、私がやってきた事は本当に表現だったんだろうか、と打ちのめされました。
「ショックだった」というのが一番近い気持ちでしょうか、とにかくすごすぎて愕然としました。
それくらいビリー役のキャストのパフォーマンスは印象強く、力強いものだったんですね。
当時は日本で子役が主演の作品といえば「アニー」や「葉っぱのフレディ」あたりが有名で
それだってあんなに小さな子が…と胸が熱くなるのに
ビリーくらいの年代の子がいわゆる「ファミリーミュージカル以外」で主演を張る、なんていうのはかなりセンセーショナルに感じましたし
さらにあの難しいパフォーマンスを堂々と演じる姿には頭をガーンと殴られたような気持ちでした。
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実は、その時の私は既に退団を決めていて、退団までに残された時間はあと半年、作品一作分しかありませんでした。
その時はその後の人生を決めていなくて
でもたぶん、やり切って舞台から身を引くだろうなと
少なくとも舞台は、ミュージカルはもうやらないだろう、そう思っていた私にこの作品は
「表現する、とは?」というシンプルかつ奥深い問いかけを私に投げかけてきました。
そして畳み掛けるようにその劇場で、異国で会うはずのない恩人と再会し
そこでの恩人の一言は私の中に生まれた
「何かが始まりそうなジリジリした感覚」をさらに膨らませました。
そしてその「何か」は退団公演を通じてだんだんと大きくなり
時間をかけてそれは「ミュージカルに挑戦したい」という確かな目標に変わりました。
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もしロンドンで「ビリー・エリオット」を見なかったら…?
今の私は無かったんじゃないかと思うのです。
日本版ビリー・エリオットには別の作品で共演させていただいたり、舞台を通じて知り合ったたくさんの方々が出演されていました。
7年前の私はそんな事、想像もしていなかった!
私「ビリー・エリオット」に人生を変えてもらった、かもしれない。
ずっとそう思ってきましたが「かも」じゃなかったです。
誰かの人生を変える、この作品にはそれくらいの奇跡が詰まっていました。
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もう一度会えたビリーはまた私に新たな課題を投げかけてくれました。
次にまたビリーに会えた時、私は何て答えるだろう?
私は終盤に向かう舞台を見ながら、もう次の観劇の事を考えていました。
数年後にまたきっとここで
ビリー・エリオットをまた、もう一度。
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