傷ついていたんだ。

北関東の田舎で過ごした約4年。
見ないように、気づかないように頑張っていた。
でも、確実に、少しずつ、私は傷ついていたんだ。

「前はどんな仕事をしていたの?」
こんな平凡な質問にも心が警戒心をマックスにさせて、私は噓をつく。
「新卒で会社勤めしてたんですけど、結婚するタイミングで辞めて、こっちに引っ越してきたんです~。こっちではフルタイムでバイトしてます。」
新卒で働いてたから何なんだ、という感じだが割と効果は高い。
マダムたちはまだまだ【新卒・正社員】というワードに寛容である。
「会社員だったの~?!すごいねぇ。」
こちらもまた、だから何なんだ、という感じだが、恐らく私の社会的信用度が上がっている。

別にすべてが嘘なわけではない。
現実、新卒で正社員として8年ほど働いていたし、結婚した後に今の街に引っ越してきた。
全ては次の質問に対する防御である。

「お子さんは?」
「いません~。結婚も遅かったし、まぁ予定もないですね。」
全てここまでの下準備なのである。セットで準備している。
なんかよく知らんけど東京で長く働いてて結婚遅かったから子供もいないらしい、と思わせたいんだ。私は。

「子供欲しいと思わないの?」
と聞かれるのもキツイが、こちらが何にも言ってないのに
「子供は1日でも早いほうがいいよ!」
と言われるのも地獄である。どちらも地獄に変わりはないが、なるべく軽めの地獄へ行きたい。

1番の地獄はバイト先のビルの警備員のおじいちゃんに
「子供はいつ作るの?親御さんに孫の顔を見せてあげるのが1番喜ぶよ。」
と言われた瞬間だった。
「いや、お前誰やねん。1番関係ないやろ。」と言いそうになったが、まだまだ令和4年でもこんな感じがある厳しい街だ。
それまで警備員のおじいちゃんに対して慈愛の感情で接していたが、(めちゃくちゃ良い人だったので)その日からはなるべく顔を合わせないようにした。

子供関係の質問は本当に心が削れる。
別に不妊治療をしているわけでもないけど、37歳という「まだ産もうと思えば産める年齢」に苦しんでいる。これあと何年続くの…。
一時期は「絶対子供欲しい!!」と息巻いていたが、その時は完全に精神を病んでいた時期なのでもう忘れたい記憶である。

単純に考えて、本気で子供が欲しかったらもう不妊治療をしているはず。
うちの夫はバツイチで、前妻との間に子供がいるので問題があるとしたら私だし、そもそも我が家は絶対子供を作ろう!という空気ではない。
私が面倒くさがりすぎて不妊治療は無理…ともう決めているので、自然に委ねている。

っていう本心を話したところでまたカウンターの
「でも子供はなるべく早いうちに~…」
というお言葉が返ってくるのが怖くて、本心も言えない。

この辺りでは子供がいなくて、フルタイムで働いている人が不思議で仕方ないらしい。
実感としてこちらの街は早くに出産している人が多いので、同世代でも正社員で働いたり、フルタイムで働いた経験がある人が少ないらしい。(これは私の実体験からの情報なので、正確な情報ではないです。)

正社員の話もこれまた面倒くさいというか、放っておいてほしい。
8年近く正社員で働いていた、という話をしたときに(質問されたので)
「なんで辞めちゃったの?」
と高確率で言われるのも地味にきつい。親しい人に言うこともあまりないのに、なぜあなたに退職理由を述べなきゃいけないんですかね…と言うわけにもいかない。
さらに「もったいない!」はよく言われるが、
「なんで辞めちゃったの?バカなの?!」
と言われたときは怒れば良かったと、今更後悔している。
正社員=安定した収入、安定した生活というイメージなのでしょうか。
私もヘラヘラと「そうですよね~。」なんて言うからだめなんだけど。
「バカなの?!」と言うのはもっとだめだと思うの。

私は人間関係など複合的な理由でうつ病を患って退職したので、別にバカが理由で退職したわけではない。
それに、どんな理由であれ会社を辞めること=バカ、ではない。
会社を辞めることは、もったいないことでもない。
人には様々な事情があるし、事情がなくたって同じだ。

この街はとても空がきれいだし、夜も静かで暮らしやすい。
とても良いところで、引っ越してきてから私の精神は急速に回復していた。
だけど、小さな出来事の積み重ねで私は傷ついていたようだった。

人に話すほどでもない、小さな愚痴だから、夫にも友達にも誰にも話してこなかった。

でも、小さな傷も重なったら当然大きな傷になる。
気づかないうちに傷口が大きくなっていた。

だんだん仕事に行けなくなっていた。
気分が落ち込んで、人に会いたくなくなった。
またか、と思った。

些細な愚痴でも、吐き出すことは重要なんだと再認識した。
とにかく誰かに話したかったんだ。
私は傷ついていたよ、と。



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