詩「秋の朝」

丁寧に泣く生活
光が差して笑ってるひとみ
いちじくが実る頃

朝、顔を洗ったあとの
肌にふれる空気の感じで
季節が変わってゆくのに気づく
水を浴びる肌の
緊張ぐあいも傾きかげんも
いつもとは少し違って
清潔なタオルで水気を拭きとる
閉じる視界に
ただよってわたしは
いつどこのわたしをわたしだと思っていたのか
ふいにわからなくなる

新しさとは
いつもと同じ景色をいつもと同じように見せる光のことで
こんな日はなんだか懐かしくなる
わたしのなかに生えた秋がしぶとく育っていたのを
夏や冬や春では気づかない
なのに今ここに立てば
わたしはわたしだということになって
世界を思い出す
季節の変わり目でだけ思い出せる景色があるのは
嬉しいことだろうか
それはどちらかというと悲しみに近いけれど
ちっとも悲しくなんかなくて
ただ明日も丁寧に生きていたいと願う

本物の新しさは黙る
見たことのある景色がふえる
光はあふれることがなく
少しだけ目減りした
そのへこみのことをわたしたちは
季節の変わり目と呼んでいるにすぎず
悲しい思い出さえもあふれずに溜めてゆける
鼻先で受けとった季節を
体の奥のわたしへ繋いであげる
わたしはそこにいて
ここにもわたしはいる。


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