鞄のなかに本を一冊


正直私は自分の文章に、自信なんてない。
自信なんてないけれど、でも、私は私の言葉に救われてきたことがあるから、書くことでも、それを読み返すことでも救われてきたから、私の言葉がもしかしたら誰かを救うことがあるかもしれないと半ば願って、ネットに言葉をあげるようになりました。

でも、私の言葉に価値があるのかどうかは知らない。


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これはどうでもいい話だけれど、私は最近脱毛サロンに通い始めました。

それはけっこう勇気のいることで、心根が陰キャでコミュ障な私には、そういう美容に気をつかっている外向きできれいな人たちが行きそうな場所(という私の勝手なイメージ)に行くことはとても緊張することです。
案の定対応してくれるスタッフの方も、きれいなメイクばっちりで、私とは全然もっている性質が違うなぁと感じる方が多くて、勝手に気後れしてしまいました。

それでそういう場所が苦手だったから、苦手だったり怖い場所に行くときには、私は鞄のなかに好きな小説を入れて行くと決めていて、その日も、ちょうど読みかけだった大好きな人の書いた小説を入れて出かけました。

施術の最中に、「趣味はなんですか~」みたいな話になって。
私は自分の趣味がとっさに思いつかなくて、(というか人に自分の趣味嗜好を話すことを苦痛に感じることも多いので)なんとなく乗り気でないままに、「しいて言えば読書ですかね~」と返しました。

そしたら「本を読むってすごいですね」と言われたんです。

そのときに、それまで第一印象で感じていた『私ともっている性質が違う』というのがはっきりと、浮き彫りになった気がして、『この人とは世界観が違うな』と感じて、その人と同じようなテンションで会話するのが、けっこうしんどくなってしまいました。

もちろんその人が悪いわけではないし私の受け取り方の問題なのですが、その人がまったく本を読まないような感じだったので私もその先をどう続けたらいいかわからず、私の悪い癖『会話したくない』が発動してしまいました。

子供のころからずっとそうで、自分が浮いていると感じて人と話すことをやめたくなることがとてもよくあります。
でも、大人になって、それなりにいろんなコミュニティに属してきたなかで、『自分が浮いていない』と感じられる場所もたしかにあったんですよね。
私の場合それは、言葉を大切にしている人だったり、本を読むこと、詩を書くこと、そういうことに親しんでいる人の間では、私は比較的『浮かずに』いられた気がします。

そして自分が『浮いてしまう』とき、本は私のお守りでした。

否定されても、世間の世界観が私には合わなくても、本のなかには別の世界観がある。それにどれだけ救われてきたか。
本を読まない人たちはきっと、世間の世界観のままに生きていくことができるのだろうなぁとか、あるいは、本以外のものを通じて自分の世界観と世間の世界観をすり合わせていくことができるのだろうなぁとか、勝手に想像してしまいます。(もちろんこれは私の勝手な想像で、本を読まない人にも読まない人の気持ち、それぞれの人生のなかでつらいことは様々あると思います。)

でも、私の心のなかには『言葉』で埋めている部分がある。
その部分を、言葉以外のもので埋められる人、とりわけ人とのコミュニケーションで埋められる人に、私は憧れるし、同時にそんな人とは仲良くなれないと思う。私はああはなれないから。
(でもこれを書いている今は、人とのコミュニケーションも結局は言葉でのやりとりか、とも考えるし、結局どんな人も言葉を糧に生きているのかもしれません。)

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価値、というものはすべてが、それ自体以外のものによって発生するものだと思います。

たとえばみんなが「くそつまらない」と思っているものでも、誰かにとって「おもしろい」ものであれば、それはその人にとっては紛れもなく「おもしろい」ものであり、それはそのもの自体に価値があるということではなく、その人にとっては価値があるということだから。

だからすべてのものには価値なんてなくて、それを選んだ人が価値を感じるか、感じないか、でしかないと思う。

だから私の言葉に価値があるのかどうかはわからない。

それは読んでくれた人次第です。その人がたとえ、私の文章を「くそつまらない」と思って読んだとしたって、それは私の文章に価値がないということにはならない。
私にとっての私は、価値があるとかないとか、そういう次元にはまったくいないから。
それはこれを読んでくれている、あなたも同じです。
あなたにとってのあなたは、価値があるとかないとかで計ることはできない。

誰かにとっての私に、価値がなかったとしたって、
私にとっての誰かに、価値がなかったとしたって、
絶望せずに生きていきましょう。

いつか私の言葉に価値があると思ってくれる誰かに、鞄のなかの一冊として選んでくれるような誰かに、出会えたとしたら、そんなに素敵なことはないから、その日まで。その日を越えても。私は私で、私の世界観を大事にしつづけていたいと思います。

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