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旅のフォトアルバム

#旅のフォトアルバム
 ひょいっと身軽に、旅に出かけたい。いいよ、いつでも行っていい。そういう自由を、私はようやく手に入れた。旅とはイコール、「自由」ということ。
 20XX年、秋の日の思い出。
 自身の病気や育児、ペットのお世話でてんてこ舞いの数年を過ごしたのち、あるとき思い立って少し遠くの場所に予定を作り、バスと電車で一人出かけたのだった。
 あの日は大袈裟でなく、人生のターニングポイントだったと思う。最寄のバス停まで歩き、遅れて到着したバスに乗り、予定より1本遅い電車に乗った。時間がずれても、誰にも迷惑をかけない。その事実が無性にうれしかった。
 「自由!」
 電車の座席で、私は何度もそう思った。

 目的地に到着。予定まで時間があったので、海辺のベンチに座って時間をつぶすことにした。船が入港したり、出港したりするのをゆっくり眺めながら、コンビニのおにぎりを食べた。そして、持参した文庫本を心ゆくまで読みふけった。

海辺のベンチで『秘密の花園』を読んだ。

 自分がどこにいてもいい。何を食べてもいい。長く歩いても、階段を上っても、体はどこも痛まない。誰かのお迎えに行かなくてもいい。食事を取り分けしなくてもいい。買い物をして帰らなくてもいい。まさに自由。これぞ旅。
 ゴージャスな海外旅行ではなく、名所旧跡巡りでもない。飛行機も使わず、自宅から電車で1時間も行かない距離なので、そうか、もしかするとこれは、旅というより遠足かもしれない。
 でもいいの。こんな時間を私は、ずっと切望していたのだ。病気がちの方々、育児真っ最中のどたばたを経験された方々、誰かの世話に時間を取られた方々には、おそらく共感をもらえるだろう。自由な時間のありがたさ。涙がこぼれるほどにうれしく、貴重な時間だった。旅って素晴らしい。
 そのときに読んだ本が『秘密の花園』だったのもよかった。花園の鍵を見つけたメアリーと、病気がちだったコリン。彼らも自分で選んで自由を手に入れたのだった。土に触れ花を植えて、時間をかけて見守った。運動をして腹を空かせ、おいしく食べて笑った。
 彼らが人の助けを得て、頑固な考えを改め、おのずから気付きを得たように、海辺のベンチで過ごした旅の時間は、凝り固まった私の心根にさまざまな気付きを与えてくれた。焦らずゆっくりでいいこと。やろうと思えばできること。願えば叶うこと。次の旅も自由に決めていいということ。
 私の新しい一歩となった小さな旅。ここに記録する機会を得て、とても感謝している。


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