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家族に介護はできません~あなたの知らない裏(介護)社会~

★『在宅介護』とは?

 若者の数よりもお年寄りの数が圧倒的に多くなってしまった我が国日本。押し寄せる介護の波に我が国は『介護を自分たちの手で行わなければならない』という非常に悩ましい問題に直面することとなりました。
『介護を自分たちの手でおこなわなければならない』となったとき、思い浮かぶのはなんでしょう? やはり『在宅介護』という文字が頭の中にちらつくのではないでしょうか?
 そして『在宅介護』と言われると正直怖いと思っている人が、実は多いのではないでしょうか?
 
 『在宅介護』です。もちろん、『お家』で『家族』が介護するということですね。初めのうちは元気はつらつでピンピンしていたお年寄りも、数年もすれば弱ってきます。ある日突然転倒からの入院になってしまう可能性もあります。無事に手術もできて、リハビリもしっかり行った結果、転倒以前の生活と同じように暮らせるのならば御の字です。

 しかしながら手術もリハビリもできない状況下に陥り、車椅子生活を余儀なくされてしまったらどうでしょう? 生活は一変しますよね。今までひとりで生活できていたことがむずかしくなって、誰かの手を借りねばならなくなったとき、最初に話が来るのがそう、『家族』なのです。

――でも、介護保険を使えばいいじゃん! 在宅介護ならヘルパーを使うことも可能だよね?

 たしかにおっしゃるとおりです。介護保険を使えばいいんです。在宅介護ならばデイサービスのような通所介護もヘルパーのような訪問介護も利用できます。多くの人の手を入れることができれば介護もそんなに怖くないでしょうね。

ごめんなさい。ハッキリ言います。現実、そんなに甘くないです。

★人材不足の介護業界

 これまで10年近く介護業界には携わってきましたが、とにかく人材確保ができていません。ヘルパーは特に担い手が少ない。若手は特に少ないです。そのうえ、20代くらいだと『あんたにできるの?』とお年寄りに不信がられるので荷が重すぎるんですね。実際、40代超えていたって『あんたで大丈夫?』と言われるくらいですからねえ。
 そんな実情を知ってか、知らないでかはわかりませんが、求人を出してもまず電話はかかってきません。一年に一回、新しい人が見つかればいいほうです。ゆえに明らかにNGな人材でないかぎりは採用されます。年齢も60歳オーバーしてても採用です。だってとにかく人材を確保しないといけませんからね! 人なんて選んでいる場合じゃないわけです。
 老々介護なんて知ったこっちゃありません。社会のニーズに応えるためなんです。
 ひいてはあなたの生活のためなのですから、多少なり性格に問題があろうとやることやってくれればよくないですか?

――いや、それじゃ困るよ。だってあんたたちは介護のプロなんだろう?

 もちろん、介護のプロです。ヘルパーは資格がないと人の肌にも触れられませんし、訪問は当然のことながらできませんから。資格持ちがやってきます。ケアマネの立てたケアプランに則って、その人のための介護を行います。だから、介護が行えない人が来ることは絶対にありません。

 でもね、それは一日の内の数時間、いや、もっと短い時間かもしれません。
 在宅です。施設じゃありません。24時間あるうちの12時間以上はおそらく家族が看なければなりません。介護保険を使うにしてもお金がかかります。人材も確保できません。少ない人材をたくさん使いたいのであれば、それ相応の対価を支払わねばなりません。となれば、使いきれないほど財産が有り余っている家庭以外は家族でどうにか面倒を看ないといけないという現実が確実にある――ということになります。

 そう、家族。これを読んでいるあなたですよ、あ・な・た。

 そしてここが最大の問題点でもあるのです。なぜか? それは『家族に介護はできない』からです。

★家族に介護はできない

 仕事だからこそ、私は10年近くもの長い間、介護をやってきました。逆に言えば仕事だったからやれたんです。仕事でなかったら、冷静さを保ったまんま続けることはできなかったでしょう。途中で投げ出していたかもしれません。
 仕事だからがんばってきたけれど、仕事内容に見合う給料ではなかったし、やることも多岐にわたってハードそのものでした。半面、やり甲斐もありましたし、ありがとうという言葉も山のようにいただける職場でもありました。しかしながら、もう二度と戻りたい世界でもありません。『介護福祉士』も『介護支援専門員』の資格を持ち、長く仕事をしてきた私が『もう二度とやりたくない!』と思えるほど大変だということです。

 ですから、私は家族にも介護はしないとハッキリお断りしています。自分の両親に『私はみません。だから、しっかり自立した年寄りで居続けてね。車いす、認知は即入所』という話もしているくらいです。
 一見、薄情な話に思えるかもしれませんが、介護の知識や技術がある私ですら敬遠するほどのことなのですよ。まして、なんの知識も技術も持たない人が介護に携わる、いえ、強制参加されたらどうなるか……? 忌憚なく言えば崩壊するでしょうね。しかも想像以上に悲惨な状況に陥ること必至です。

 そうならないために上手に介護保険サービスを使うことをお勧めします。今はいろいろな種類のサービスがあります。デイサービス、デイケア、ショートステイ、小規模多機能。それでももうダメだという限界に達したら、殺す前に入所をお勧めします。

 今までさんざん親に面倒を掛けて、大事にしてもらった、育ててもらったのだから、最後は自分が看取るんだ――それは大層ご立派な志で心から拍手を送りたくなります。しかし現実が見えていない甘い考えだとも私は思います。

 遠慮なく言わせてもらえば『介護ができる』なんて考えること自体がそもそも幻想ですよ。その考えは即捨てていただきたいです。もし捨てられないのならどうぞやってみてください。たしかにやりきっている超人みたいな人もいます。けれど、レアケースだと思います。そんな超人みたいな人だって地獄を覚悟したうえで飛び込んで、苦労に苦労を重ねて介護を物にした結果論だと思うからです。

★お伝えしたいこと

――こいつ、本当に介護職やってきたのかよ?

そう疑ってもらっても構いません。そう言われるのも覚悟の上で、私は口酸っぱくして言います。甘い考えしていたら、看取るどころか殺しちゃいますよ。

 そうならないために、私は少しでも介護の表側のきれいな部分ではなく、あえて裏の側面を皆さんにお伝えしていきたいと思っています。
 なぜなら私自身が突然、介護をしなくちゃいけなくなってしまった実例だからです。立ち位置も同じでした。未経験から介護の世界に飛び込んで、打たれて、打たれて、打たれた結果、ケアマネとして働くまでに至ったのです。

 そうです。立ち位置は家族さんたちと同じ未経験からの叩き上げ!

 それでも心身すり減らして壊れるまでは、なんとか10年近く従事できたのです。
だからこそ、声を大にして言います。介護は頑張りすぎるものではないです、絶対に。

 現実世界を少しでも知って、介護に対する理解と現状を深め、今後直面するであろう『介護』生活を乗り切ってほしい――これはそんな私の願いを込めたエッセイでもあります。

 さあ、あなたの背中に差し迫った『介護』という世界の扉を一緒に開けていきましょう。
 その先になにが待ち構えているかは――あなたの手と目で確かめてください。

★余談

ヘルパーやらない?

 一時間で八品作らないといけない家にひとりで行くことになったときは緊張でがちがちになりました。何日も前から憂鬱で、会社へ行くのもしんどくなるくらいに落ち込みました。その家の利用者さんはうつ病もあって、新しい人が来るとさらに落ち着かなくなりましたし、自分のやらなくちゃならないことと利用者さんにも気を配らないといけないことで、神経すり減らして家へ帰るころにはもうエネルギーが完全になくなってしまっていました。

 真夏の揚げ物地獄もすさまじかったですけどね(笑) 食事ひとつ作るにしても、利用者さんによって千差万別であったため対応はとてもむずかしかったです。主婦の延長でやれる仕事という認識は実に間違ったものであるのですという余談でありました!

次回をどうぞお楽しみに!

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