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六月讃歌

黒々と 影が散らばる 木陰かな

この間まで新緑の季節だったというのに、もうすっかり夏だ。車窓から見える植物の勢いが眩しい。

廃屋の隙間からつるつる伸びる蔓薔薇、畑の隅に植えられた立葵、黄金と焦げ茶の縞模様は麦畑。日差しは強く影は濃い。花木の勢いは凛と強い。
ぼんやり眺めていたが、突然の雨に曇る。梅雨が近いのだろう。目を楽しませてくれるが、憂鬱でもある。

昨夜、藪蚊に指先を咬まれ飛び起きた。奴らの吸血はひたすら痛くて痒い。そして竹藪に住むのは奴らばかりでない。百足。あの鎧めいた虫が育ち、家に侵入する季節。捕まえて退治するのは簡単だが、噛まれると酷いことになる。百足避けの薬をまいてはいるが、不安だ。

物憂さと戯れている間に雨が上がった。
日の光が濡れた町を、畑を、山を輝かせる。
色とりどりの屋根瓦と壁、気の早い夏薔薇、盛りを迎えつつある紫陽花、道端の矢車草、刈り入れを待つ麦、若葉色の稲、たわわに実る枇杷、ふっくら柔らかそうな苔、青々しい山々。

濡れた緑鮮やかな六月の初め。

単純なもので、憂鬱ばかりではない季節を謳歌する気になって電車を出た。百足がなんぼのもんじゃい。噛まれさえしなければ大丈夫だ。
などと言いつつ、出来るだけ竹藪を避けて帰宅するのであった。ヘタレと言うなかれ。これは戦略、君子危うきに近寄らずである。
濡れた花を愛でつつ帰宅した。

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