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【中国ドラマ感想】東宮~永遠の記憶に眠る愛~/东宫/GoodbayMyPrincess

実はドラマ視聴前から、たまたま聞いたOPが好きだった。
なのでドラマ本編をいつか見ようと思いつつも、中国ドラマ特有の「一作品長過ぎ問題」でなかなか見る気が起きなかったが、今回ついに全五十五話を完走したので個人的な感想を書き留めておく。


※以下ネタバレあり。



まず本作は中国の時代劇ではよくある「架空の中国」が舞台だ。
中国では史実に沿った時代劇は作る許可がなかなか下りない事が多いので、小説やドラマ等でもこの「架空の中国」と言う手法がよく取られている。
とは言え架空と言えどもまあ大体中国なので見ていてそんなに難しくはない。
本作も豊朝西州丹蚩朔博と四つの国が出てくるが、豊朝が所謂「漢民族」で、その他は「異民族」だと思っていれば問題ない。

そんな舞台で繰り広げられる西州の姫・曲小楓と、豊朝の皇子・李承鄞のラブストーリーが本作のメインである。
最初に言っておこう、本作は悲恋である。
ハッピーエンドを求めている人には向かないドラマである。

物語は李承鄞が父親の怒りを買った兄と共に、婚姻話の為に西州へ向かうところから始まる。
この兄が道中で丹蚩の格好をした集団により殺される事を、よく覚えておいてほしい。

紆余曲折あり西州に辿り着いた李承鄞は、西州の王の側室になっていた明遠と再会し、実母の話を聞かされる。
子供のいない皇后の手により殺され、自分は今まで実母の仇を母と慕っていたのだと。
これにより李承鄞が「皇太子になって絶対復讐してやるマン」に進化する。

だが李承鄞は第五皇子で、皇太子になるには程遠い。
一番上の兄は殺され、現在皇太子に最も近いのは二番目の兄だ。
何の才能も実績もなく皇太子に選ばれる事はない。

李承鄞「よっしゃ!丹蚩を滅ぼして功績を立てるぞ!」

まあ普通の発想だろう、李承鄞には丹蚩への私怨もある。
功績を得られて敵討ちも出来ればこれ程良い事はない。
しかし問題が発生する。
丹蚩とは謂わば遊牧民の国で、王がどこにいるのか分からないのだ。
王の首を取れずに「丹蚩を滅ぼした」では笑い種だ。
そしてここに地獄への門が開かれる。

小楓が師父と慕う顧剣の仲介により、小楓と身分を偽った李承鄞が出会ってしまった。
最初は険悪な雰囲気だった二人だが、共に行動する内に好意的な感情が芽生え、惹かれ合う。
だが李承鄞は母方の祖母が丹蚩の王である小楓から、王の居場所を突き止める為に近付いたのだ。
察しが良い人ならもう分かるだろうが、李承鄞は基本的にクソ男だと思って問題はない。

李承鄞の思惑など知る由もない小楓はどんどん李承鄞に惹かれてしまう。
そして二人は丹蚩で結婚式を挙げたのである。
しかし幸せに満ちた結婚式も策略に過ぎない。
王の孫娘が結婚となれば丹蚩の人々は一ヶ所に集う、そこを狙われたのだ。
幸せな未来を願い挙げられた結婚式が一瞬で惨劇へと変わった小楓は、目の前で祖父である王の首が取られる瞬間を目撃してしまう。

この丹蚩滅ぼし作戦で私が気に入っていたイモイェンが死んでしまったので泣いた。
ちょっと見るのやめようかと思った。

ショックで意識を失っていた小楓は李承鄞に保護され、目を覚ますや否や李承鄞に抱きつき号泣する。
この時何故か李承鄞も一緒に泣くのだが全く意味が分からん。
いやお前は泣くなや。
そして李承鄞に抱きつきながらも飾られた鎧を見て「祖父を殺したのは李承鄞である」と気付いてしまう小楓。
「傷付けるつもりはなかった」だとかほざく李承鄞の被害者ムーブが止まらない、私の苛立ちも止まらない。
李承鄞は小楓と出会う前から丹蚩に対して私怨を抱いていたし、丹蚩を滅ぼす事に対しての躊躇いはなかった。
自らの出世の為に小楓を犠牲にする事に躊躇いはなかったのだ。
そのくせ、自分が出世する事も小楓と結婚する事のどちらも諦められずに結果、小楓を傷付けては「傷付けるつもりはなかった」と泣きながらほざくのだ。
いや、意味が分からん。

そして小楓は師父と慕っていた顧剣も李承鄞の一味だと知り、悲しみのあまり悟る。
「全部忘れてなかった事にしよう」
本作では「その水を飲むと愛する人の事や苦しい事を忘れられる伝説の忘川」と言う川がある。
李承鄞から逃げる最中でその川を見つけた小楓は飛び込むのだが、李承鄞も一緒に飛び込んだ。

李承鄞「私も一緒に行くから一緒に忘れよう」

いや何でやねん。
お前が忘れてどうする。一生背負え。この加害者。
もう先に言っておく、李承鄞は終始この「被害者ムーブ」を続ける。
これに耐えられないと全五十五話は完走出来ない。

ここでラブストーリー第一部が終わる。


場面は変わり、小楓が豊朝に嫁ぎに来たところからラブストーリー第二部は始まる。
記憶をなくした小楓は西州の為に「皇太子に嫁ぐ」と言う命で和睦の為に嫁ぎに来た訳だが、まだ皇太子争いは終わっていない。
同じく記憶をなくした李承鄞が虎視眈々と皇太子の座を狙い、兄弟を蹴落としついにその座を手にする。
もう言わずとも分かるだろうが、小楓は「皇太子に嫁ぐ」と言う命で来ている。
皇太子が誰かは関係ない、「皇太子と言う身分」に嫁ぐのだ。
記憶がない為に伏せられていた「丹蚩が滅んだ」と言う事実をひょんな事から知ってしまい、「李承鄞は祖父を殺した」と気付いてしまった小楓はもちろん嫁ぐ事を拒否する。
しかし太皇太后「明遠は太祖父を丹蚩に殺されたが恨みは忘れて西州に嫁いだ」と頓珍漢な説得をされ、西州の為に嫁ぐ決意をする。
いや本当に頓珍漢な説得で草。
明遠はその仇の国にも仇本人に嫁いでいませんよね?

この結婚の際に顧剣が小楓を連れて逃げようとするシーンがあるのだが、小楓が記憶をなくす前と変わらずずっと優柔不断で腹が立つ。
顧剣は滅ぼされた顧家の復讐の為と言いながらも、小楓を忘れられないし断ち切れない。
だから結局小楓を傷付ける事しか出来ない。
そのくせ小楓が真実を知って顧剣を拒否したら被害者面をする。
顧剣は「指示待ち王子様」と言う表現がぴったりだと思う。

そして結婚して小楓が皇太子妃になって更に視聴者を苛立たせるのが、李承鄞を慕う側妃の趙瑟瑟だ。
趙瑟瑟は李承鄞が西州へ行く前からの知り合いで、李承鄞を慕っている。
ここで李承鄞が記憶をなくしたせいで問題がややこしくなるのだ。
記憶をなくす前は李承鄞は小楓だけを愛していたが、記憶をなくしてからはもちろん小楓への愛はなく、趙瑟瑟を愛している事になってしまった。
はあ~~~!?めんどくっせえなこの男~~~!!!

立場上小楓との結婚は避けられず、趙瑟瑟は側妃となる訳だがこの趙瑟瑟が本当に面倒な女だ。
まさに「女から嫌われる女」と言える。
「皇后にどう思われたって罰せられたって李承鄞に愛されていればそれでいいわ!李承鄞も私だけって言ってるもん!」
このムーブをかましてくる女が面倒じゃない訳がない。

更に李承鄞が他所の侍女と子作りしたと知った際には人目も憚らず泣き、自分の部屋に帰るや否やヒスを起こして暴れる始末。
挙句の果てには李承鄞の目の前で、李承鄞にもらった玉牌を叩き割ってしまうのだからマジで情緒不安定。
昔他の公主と遊びに行った際に山に置き去りにされたエピソードをまるで「私可哀想でしょ」と話していたシーンがあったが、視聴者側からすれば「お前李承鄞関係なく昔から嫌われとるやんけ」案件でしかない。
置き去りにした公主の気持ち、分かる。

また、この頃くらいになると李承鄞に記憶がないが故に、趙瑟瑟を一番に愛してはいるのだが、小楓も何故か気になるし放っておけないムーブが始まる。
李承鄞の子を妊娠した(とされているだけで李承鄞の子ではない)侍女が流産した際に、趙瑟瑟を排除したがる皇后が一計を弄した。
小楓が黒幕ですと言う供述を小楓と李承鄞の前で聞かせ、その上で「その供述も趙瑟瑟の仕業でした冷宮送りにしま~す!」と言ったものだ。
この際に、小楓との不仲を装う事で小楓を権力争いから遠ざける意図がある李承鄞は小楓を庇わないのだが、趙瑟瑟に飛び火すると物凄い勢いで庇い出す。
そして皇后の侍女が見ている為、わざと小楓と言い争いをし「この性悪女め!」と言ってビンタをかますのだ。

いや、分かるよ?視聴者は神様視点だから分かるよ?
でも小楓は分からんよね?
この間は小楓とお舟デートしてましたよね?
服も仕立ててプレゼントしてましたよね?
からのこの罵詈雑言とビンタは小楓視点からすると最早恐怖なのよ。
二重人格を疑うレベルで恐怖なのよ。
時代劇では「本当に好きな相手を守る為」に不仲を装うシーンは多々あるが「それ相手にそう伝えてからじゃダメなんか?」と毎度思う。
守る為に相手の心を傷付けてちゃ意味ないだろうに。

そしてこの頃辺りから趙瑟瑟もウザさを増してくる。
無自覚マウント取り女から、私が皇太子妃になってやる女へ進化。
だが小楓を目の敵にしたところで自分の立場が悪くなるだけな事も分からないようなので、ついに李承鄞からも愛想を尽かされるのである。
自業自得ですわねーーー!!!

しかし李承鄞にとってのラスボス・高于明を倒すべく策を実行している間に小楓が拉致される事故が発生。
連れ去ったのは顧剣なので危険はないが、顧剣の荒療治により少しだけ記憶を取り戻した小楓は「自分が愛していた男は顧小五である」と言う事を思い出す。
この顧小五こそ身分を偽っていた李承鄞である訳だが、中途半端に思い出してしまったが為に記憶が混濁。
「顧小五は顧剣である」と勘違いしてしまうのだ。
さあ!ややこしくなってまいりました!(大歓喜)

そして顧剣と共に西州へと逃げようとしていた小楓は、絶対に小楓を逃がさんとする李承鄞の起こした火事騒動に巻き込まれ、頭を強打。
頭を強打したんですよ、もうお分かりいただけますよね?
小楓の記憶復活ーーー!!!地獄の幕開けです!!!

自分のせいで丹蚩が滅んだ事、李承鄞に騙されていた事、顧剣の事、正気をなくした父親の事、首を吊った母親の事。
今まで忘れていた愛する者の事やつらい事を全て思い出してしまった小楓は当然、李承鄞に冷たく当たる。
しかし李承鄞も「顧小五は顧剣である」と勘違いしている為、「急に冷たくなったのは顧剣のせいだ」と更なる勘違いを重ねてしまう。
顧剣を呼び出す為の鳴り矢を放ち、殺される事を承知でやって来た顧剣を李承鄞は四方から矢で打ち殺すのだ。

その際に小楓の顔を掴んで無理矢理に顧剣を見させ「見ろ!愛する男が死ぬ様を!目を開けてしっかり見ろ!」などと言ってしまう。
挙句の果てには顧剣の側には小楓の侍女・アドゥがいるのに矢を放つのである。
小楓が「アドゥが何をしたって言うのよ!」と言って止めさせようとするのだが、本当にその通りで草生える。
アドゥは何も悪くなくて草。
そもそも、小楓の一番の理解者であるアドゥまで殺してしまったらそれこそ取り返しがつかない訳だが、この男馬鹿なのか?
しかも負傷して目を覚まさないアドゥの側で飲まず食わずでついている小楓に対して「食事を取らないならアドゥを追い出して二度と会えなくする」などと脅迫する始末。
ん?お前更に嫌われたいんか???

最近鳴りを潜めていたクソ男ムーブがここに来て一気に復活してて草。

しかし今更李承鄞が何をしようとも、記憶を取り戻した小楓の心は戻らない。
皇后も高于明も倒し、もう不仲を装う必要がなくなったとしても。
もし今後李承鄞が、小楓が何をしようとも笑顔で全て許す程に優しく接しようとも、李承鄞が小楓にしてきた事がなくなる事はないのだ。
故郷である西州へと帰ろうとする小楓と、絶対に帰したくない李承鄞。
お尋ね者として自分の嫁を貼り出すその神経は最早視聴者には理解不能である。

だが結局寸でで小楓を取り逃がし、小楓は西州へと帰ってしまう。
そしてこの時についに李承鄞も記憶を取り戻したのだ。
いや、もう遅いんよ!!!
思い出したとて!思い出したとて何になるんだよ!!!

これでハッピーエンドをほんの少しだけ匂わせるの本当に質が悪い。
「二人共記憶を取り戻したならなんとなる!」と視聴者に一瞬でも思わせるの本当に質が悪い。
いっそ李承鄞は記憶を取り戻さずに終わる方がマシまであった。

そしてようやく西州に帰った小楓を待っていたのは、父親の死と豊朝との戦である。

兄が西州の王となり「西州の威厳を取り戻す」と言って豊朝との戦準備をしていたのだ。
ここでアドゥは「小楓が帰ってくる前から戦は決まっていた」とフォローするが、兄に「お前が皇太子妃だったら迷った」と言われてもいる小楓は、「この戦は自分のせいである」と自分を責めてしまう。
正直どれも間違いではないからこそ、ここはかなりしんどかった。
小楓が西州に帰ってくる前から兄は戦を決めていたのも本当だし、小楓が皇太子妃だったら戦をするかどうか迷っただろう事も本当。
ただ、例え小楓が皇太子妃だったとしても兄は戦を選んだだろう事も本当だし、その兄に対して西州への帰還と言う後押しをしてしまったのも本当。

そして小楓が帰還している事を分かった上で、西州との戦へとやってくる李承鄞は結局何も変わらないと言う事だ。

砂漠に並び立つ両軍。
今にも戦が始まりそうなその空気を止めたのも、やはり小楓であった。
二人が結婚式を挙げる前、「三つの願いを叶えて」と言った小楓。
まだひとつしか叶えていなかったそれの残り二つを小楓は李承鄞に伝える。

「戦を止めて」
「生きて」

次の瞬間、小楓は自らの首を斬り、自死を選択した。

もうしんどい。
正直、小楓が死ぬ事か、二人で死ぬかのどちらかしか話の終わらせ方がないとは思っていた。
どれだけ憎くても、小楓の中には顧小五と言う名の李承鄞と愛し合った過去がある。
どれだけ憎くてもその過去も消える事はない。
どれだけ憎くても、憎みきれないのだ。
だから李承鄞だけが死ぬエンドはないだろうし、李承鄞のやらかしを考えればハッピーエンドが相当厳しい事も想像がついていた。
しかし分かっていてもこの結末はしんどい。
小楓が一体何をしたと言うのか。

愛する人と一生を添い遂げたいと願う小楓の何がそんなにいけないと言うのか。

ちなみにこの頃になるともう趙瑟瑟は錯乱しているので安心してほしい。
李承鄞が再度この女の元へ行く事はない。
最早救いはこの一点のみである。

そして時は過ぎ、李承鄞が息子に譲位した頃。
李承鄞は西州へと向かう旅に出て、話は終幕する。

だがここで大事なのは第一話の冒頭である。
第一話の冒頭は名もなき登場人物の「彼に出会ったのはもう三十年前になる」と言う語りから始まるのだ。
そしてその語りはこう続く。
「三十年もの間、伝説の忘川を探し続けている」と。

お前まだ忘れようとしているのかーーー!!!
一生覚えていろ!来世まで覚えていろ!来来来世まで覚えていろ!!!

最終的にその冒頭で李承鄞が川に飛び込んでいるシーンがあるのだが、小楓と一緒に飛び込んだ川とは全く異なる(と記憶している間違っていたら申し訳ない)。
これは推測だが、李承鄞はきちんと皇帝になり政務をこなし、譲位が出来る程の年齢の息子がいるのだ。
そこから三十年もの間、忘川を探し続けていたのならば相当な年齢になっていてもおかしくはない。
故にこの川への飛び込みは二種類の理由が考えられると思う。

一、耄碌して忘川だと勘違いし飛び込んだ。
二、探しても探しても見つからない忘川とその間もずっと忘れられない小楓の記憶で限界に達し死のうとして飛び込んだ。

個人的には後者ではないかと思っている。
「もう終わりにしよう」と思い飛び込んだからこそ、その表情が穏やかだったのではないかと。
いや一生背負えって言ってんだろ!!!



・総評
見ていて終始腹が立つ。
小楓の味方は丹蚩しかいないし、その丹蚩が滅んでからは侍女のアドゥしかいないと言っても過言ではない。
小楓に非がほぼないにも関わらず、ずっと小楓が可哀想。
李承鄞と顧剣は本当に小楓に土下座して詫びて、どうぞ。
いっそ第二皇子がそのまま即位して、小楓と結婚していた方が幸せだったのではなかろうか。

ただ、評価は分かれるだろうなとも思う。
記憶をなくしてもまた惹かれ合う二人、と言う側面は確かにあるのでそこが泣けると思う人もいるだろう。
もしかしたら、そう思う人と私のように腹が立つ人の二極化するタイプの作品なのかもしれない。

だが一貫して映像が綺麗で、撮影に対する費用の多さはさすが中国と言った具合だ。
架空の漢民族と異民族の国と言う世界観作りはかなり凝っており、特に衣装の凝り具合は最高だ。
個人的には丹蚩の衣装がかなり好き。
中国の時代劇に出てくる異民族衣装、良いよね。着たい。

と言う訳で人に勧められるかどうかと聞かれれば少し迷ってしまう作品となっている。
李承鄞の被害者ムーブとクソ男ムーブに耐えられるのであれば、小楓の最期はしんどくも美しいので一見の価値があると思う。

あと本当にOPの曲が美しくて良いので、曲だけは聴いてほしい。


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