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星旅日誌

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『星を旅する少年が書いている日誌』をテーマにした短いSF小説集です。
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記事一覧

真夜中のコーヒーハウス

真夜中のコーヒーハウス

 ある星に旅人向けの空き家があると勧められ、その家にしばらく滞在することになった。二階建ての、少し古いがきちんとした造りの一軒家だ。家の前には真っ白い砂浜と青い海が広がっている。夜になると月に照らされ、遠くの波が細く銀に光り、何か信号を送っているように見える。それを眺めながら真夜中にコーヒーを飲むのがここ最近の日課だった。
 ある深夜、キッチンテーブルでこの星の海洋植物図鑑を眺めていると、窓際の風

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【星旅日誌】移動楽団のお祭り

ある星に降り立って何日か経った頃。丘の上のホテルで本を読んでいると、どこからか小さく音楽が聴こえてきた。
窓を開けて外を見てみると、丘の麓にある街に色んな色の明かりが灯っている。部屋の鍵とコインを数枚、それからソーダ飴をポケットに入れて、ホテルを出た。

一年中夏の暑さが続くこの星でも、夜は涼しい。ほとんど人の通らない石畳には青いガラスが埋め込まれ、周囲の微かな光を反射している。街へ近づくにつれ、

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【星旅日誌】旅のひとことノート

 ある星で散歩をしていると、見事な湖があった。磨いた鏡のようにピンと張り、一面に夜空の星を映している。
 水際に観光案内板と小さな木の机があった。薄桃色の糸閉じノートと、短くなった銀鉛筆が置いてある。ノートの表紙には『ひとこと』と書いてあり、中を開くと、ここを訪れた人たちの言葉が数ページに渡って並んでいた。
 中にひとつ、目を引く風景スケッチがあった。備え付けの銀鉛筆ではなく万年筆で描かれているよ

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【星旅日誌】ネオン月光

宇宙飛行機の燃料補給のため、ある星へ降りた。

ひっそりと静かな夜で、遠くまでまっすぐに道路が一本伸びている。見渡す限り周りには何もない。雲も霧もなく、澄んだ空には月や星がまばらに広がっている。

宇宙飛行機を〈陸上自動運転モード〉に切り替え、道路を走って燃料スタンドを探す。天窓から空を見ていると、月がやけに点滅することに気づいた。

やがて道路の向こうに灯りがひとつ見えてきた。行ってみると小さな

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