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128. 初仕事 【映画】

ブライアン・イーノ展を鑑賞した後、家の近くでは上映が終わってしまっていたこの映画を観に行きました。

亡くなった赤子の撮影をするカメラマンとその依頼人の話です。
※以下ネタバレあります。

<あらすじ>
依頼人・安斎は、妻と幼い子供を立て続けに亡くし、自分が何をすべきだろうかと考えた結果、子供の遺体を写真に収めることにする。
そして友人である写真家に依頼するが、実際にやって来たのは写真家のアシスタントで駆け出しカメラマンの山下だった。自分の気持ちを蔑ろにされたと感じた安斎は、精神が張り詰め極度な緊張状態にあったこともあり、初対面の山下に対しつっけんどんでかなり嫌な態度を取る。追い返されそうだった山下は、しかし真摯に安斎と向き合うことで信用を得、遺体の撮影が始まる。

冷凍保存してある遺体を日に数時間のみ取り出して来て、撮影が行われる。
最初の撮影の時の、冷凍庫から赤児を出すシーンは、不穏ながら神聖でとても美しい。

山下は真剣に遺体撮影という仕事に向き合ううち、安斎の狂気に引きずり込まれて、この仕事に異様な使命感を持って臨むようになる。二人は狂気の中で心を許し合い、強固な絆が出来たかに思われた。
しかし撮られた写真を目にしたことで、安斎の心が落ち着きはじめる。
そこへ安斎の上司・山下のカメラマンが急に現れることで状況は急激に変化する。
安斎は未練を断ち切って、前に進み始めたのである。山下はまだ狂気に囚われていて、急に変わってしまった安斎に困惑してしまう。意地になり、もっと撮影せねばと思う。

同僚がほとほと困っていた時、安斎の父から「死体遺棄の可能性がある」と通報を受けた警官がやって来る。警官は「なんてことをしているか分かっているのか」と彼らを一喝し、山下はふと冷静さを取り戻す。
そうして安斎と別れ、仕事場へと帰っていく。


山下が依頼人に寄り添おうとするあまり、撮影という行為に呑まれていくのは若さゆえだなあと思いながら、でも仕事なのだから依頼人の意思を尊重すべきなんだよなあと違和感を覚えました。
また、これは後で知ったのですが、監督自ら安斎を演じているそうです。気持ちの整理がついていない状態の安斎は鬼気迫るものがあり、俳優として映画の雰囲気を作り出しながら尚且つ全体の構成や演出にまで気を配れるのは見事だなと、監督主演作の凄みを感じました。

それはさておき。
映画を観終わってずっとモヤモヤしていることがあって、つまり警官の言葉になぜ皆素直に頷いたのだろうということです。
”人が亡くなったら速やかに葬らねばならない”法律があることはここでは置いておいて。心理的な面で、気持ちの整理になるのなら、亡くなった人を一時的に冷凍保存して遺体を撮影しても別に良いのではと思うのです。辱めようとしているわけでもないし、満足したらきちんと弔えば良いじゃないと。
だから、「法律だからやめなさい」と言われるならともかく、倫理観に訴えて「そんなことやっちゃだめだろ」と言われて皆が納得するというのがどうにも腑に落ちないのです。
別れの方法は千差万別だし、遺体を撮ることがそんなに悪いことだとは思えない。自分がやろうとは思わないけれど。

まだしばらくこれに悩まされる気がします。
何にせよ、今まで観たことのないタイプの映画でした。

ではまた。

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