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129. 吉祥花人(ラクシュミー) 【漫画】

何度かご紹介している佐藤史生が責任編集を務め、友人の漫画家8名に声をかけて編んだ同人誌的アンソロジーです。


佐藤史生の他に元々知っていた作家は、坂田靖子と

鳥図明児だけ。

作品は全て描き下ろしで、元々は佐藤史生が「オーボーな編集者をやってみたい!」というオーボーな気持ちで(笑)原稿を集め始めたらしい。結局いつまで経っても集まらないので白泉社のホンモノの編集者に頼むことになったとのことですが、佐藤史生の好みが多分に反映された冊子になっているのではないかと思います。

タイトルのラクシュミー、日本語では通常「吉祥天」ですが、当時既に吉田秋生の「吉祥天女」が出版されているので、被らないよう配慮したのかな? とか。
(「吉祥天女」も読みたいと思っている。wikipediaによると同名のプログレバンドも存在したらしいので、そっちも聴かなくては)

ちょっと雰囲気が似ていたり、似ていなかったりする短編が寄り集まっているので、それぞれについて感想を書いておきます。


・The Brilliant Trees/惑星ウニの美男美女 鳥図明児
巻頭カラーの「The Brilliant Trees」は、冒頭の一文が秀逸。

王たる者は、聖なる銀色の樹を頭上にいただいていなければならぬ

このイメージがあんまり素敵なので、自ずとアンソロジー全体への期待が高まります。

内容は、それ自体に実は何の効力もなくても、思い込みによりことが上手く運んだりするのはよくある話で、銀の枝が良い社会を象徴している話。佐藤史生の編集による冊子だからか、彼女の「雨の竜」のネアンを思い出す。たとえ中身がどうであろうと、やっぱり私も長い銀髪の美しい若者は神々しいと思うし。

惑星ウニの方は、ダンサーのリリギを主人公にしたシリーズ物の内の一作。全部で5編が「光を見る男」という単行本にまとまっているらしい。
そう言われてみれば最初に名前だけ出て来る「詩人とスー」という”おかしなヤツ”とか、続き物っぽい描写もあるけれど、これだけで読んでも特に違和感のない作品です。(とはいえ知ってしまうと続きも読みたくなってくる)
「虹神殿」同様リリギの格好が古代風でとても好み。
ジャンキーが頑張って薬を断つ話だけれど、回想なのですべて白昼夢の出来事のように思えてしまう。色々と謎が残りながら、あんまり気にならないのが不思議。


・アジョワの道 象田透児
架空の民族の風習を描いていて、通過儀礼が題材です。
太い線と細い線が入り混じっているのが見慣れなくて居心地が悪いけれども、内容は素朴で良い。
この方は鳥図明児の双子の妹さんだそうで、絵柄や話の雰囲気が似ている。グレープフルーツ他漫画雑誌に数作品掲載されているだけで、他目立った活動はされなかった模様。


・エジプト熱 坂田靖子
エジプト展を観て古代エジプト熱に取り憑かれた男に、友人たちがミイラを買ってプレゼントする話。オチもしっかりついている、坂田靖子らしいナンセンス漫画。
出目出っ歯のミイラ屋が何となく憎めないお顔をしている。

後書きでは全然関係なくパソコン通信の話をしている。この一年、パソコン通信というワードが身近にあるので、親近感がわきました(笑)
坂田靖子はブログも数年前までコンスタントに更新していたりしたので、かなりPCが好きなんだろうなあ。


・エロスの顎 Belne
多分天使と堕天使もの? で、BL?
雰囲気は耽美だけれど、登場人物たちのガタイがよくて皆雄々しい。
内容は何度か読み返さないと正確に読み取ることができませんでした。(それが正確なのか確かめる術もないが)故に説明も難しい。
もし本当に堕天使と天使の愛なのであれば、そこから歪な美のイメージがこんこんと湧き出そうである。
Belneという方は近年も精力的に活動されている作家のようですが、守備範囲外のため全く存じ上げず。


・相模大野猫暮し 伊東愛子
本当は別の作品を掲載予定だったのが、アシスタントの方が都合で来られなくなり、この作品になったのだとか。
猫愛の詰まった、日々の猫との暮らしを描いたコミックエッセイです。
肩肘張らない伸びやかな線で描かれる猫たちとの生活に、ほっこりしたり少し切なかったり。ページ数も少なく、小休止的な作品でした。


・夜の熱い手 徳永メイ
全然知らない人だと思ったら、佐藤史生の「精霊王」(まだ読んでないけど)を始め漫画作品の原案を幾つか手掛けている人でした。自身の作品も幾つかあるようだけれど、ほとんど出回っていない模様。
絵がわりときちんとしているし、ストーリーも考えられるのだから、もっと自分で作品を作れたのではないかと思ってしまいますが、そこはまあ様々な要因があったのでしょう。
刑事になりたての青年と彼に優しくしてくれる、よくできた先輩の話で、コマ割りや話の展開などよく考えて描かれている印象です。ただあんまり登場人物たちに感情移入するようなポイントもないので、淡々と話が進んでいく感じでした。


・水都物語 浜田芳郎
少しずつ沈んでいく街を舞台に描かれる、ある工事とその周辺の人々。
同人誌ににて同じ世界での話を幾つか描いているそうです。世界観はきっと好みなのに、いまいち全容が掴めないのはそのせいかもしれない。
絵はよく描き込まれ、文字もわりと多いのにどうも理解が進まない一編。


・夢疾風 橋下多佳子
浦島太郎・別バージョン。おおまかなストーリーは昔話と同じながら、ちょいちょい改変が入っているのが面白い。

ちょっと雑念が多いなあ。竜宮まで移送するので精神統一してくれますか?

浦島が竜宮で遊び呆けている間に、現実世界で代理として亀が頑張って
こつこつ働いて社長になっていた。
田園調布に三百坪の自宅と軽井沢に別宅
そしてモルジブにプールが三つ付きの別荘を建ててくれていた
ついでに美人の妻と三人の子供(亀と子供のハーフ)ももうけてくれていた
で、帰ってきた浦島はそのままその生活を受け継ぐことに。

など。子供に読み聞かせしている間に思いついたのだそう。
わたしが最もその思い付きに感動したのは、

その材料、調味料、料理法、そして器
目の前にこれに至るまでのすべての歴史が味覚を通じて俺に語りかけ押しよせてくる
そして俺が「美味い」と思う事によって
それらがすべて「よかったよかった」と微笑をうかべて喉もとへと消えてゆくのが手にとるようにわかるのだ
俺は圧倒され涙を流した

というところ。どんな食体験なのだろうとわくわくすると同時に、もしこうやって食べられるのならば、大量生産・大量廃棄の悪しき習慣から抜け出せるような気がしました。


・緑柱庭園
佐藤史生の作品。「羅陵王」に収録されており、何度か読んだことがあるが、以前とはまた少し印象が違って読めた。
好き合っていた少年少女が、その母的存在である女帝に振り回される様を描いていて、自信満々で自分勝手な女帝があたかも太陽王のようで嫌いなのでした。
でもその女帝を含め、今回は皆がどういう心理で動いているのか、前より想像しながら読めたように思います。
また次回読んだら違う感想を抱くのかもしれない。


そんな感じで。
だらだらと長くなってしまった。
ではまた。

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