38. 佐藤史生 その1 【漫画】
1970年代に革新的な少女漫画を数多生み出した花の24年組の一人、佐藤史生。
寡作でやや独特な絵柄のためか、萩尾望都や竹宮惠子などに比べると些か知名度は劣りますが、古代神話や宗教・民族衣装などのオリエンタルな要素と、ムズカシイ先端科学を絶妙に織り交ぜた世界観は、SF少女漫画の金字塔といっても過言ではないでしょう。
代表作は「夢みる惑星」と「ワン・ゼロ」。どちらもめくるめく大スペクタクルです。
大学に入ってからその存在を知り、なぜもっと早く出会えなかったのかと歯ぎしりしながら、ちまちまとコミックスを集めています。
本来ならそれら代表作から紹介するのが筋かもしれません。
でもちょうど先日読み終わったので、第一回は初期短編集「春を夢見し」を取り上げようと思います。
デビュー作から11作目までのうちの6篇を収録。
138ページにある作者による簡単な解説を見つつ、コミックス冒頭から振り返っていきます。(大幅なネタバレあります。ご注意を!)
・「ミッドナイトフィーバー」、「透明くらぶ」
同じキャラクターがわちゃわちゃしている連作。
まず「ミッドナイトフィーバー」の方。
主人公のインベーダーくん(もちろんあだ名。本名不詳)が、深夜、他に開いている店もないというので、店名“マザーシップ”をひでェセンスと罵りながらその店の階段を下りていく。
ドアを開けたらディスコパーティー開催中。猿の被り物のボーイがいて、ミスタースポックに激似の秀才っぽい人(※1)がいて、ステージでデヴィッド・ボウイ似の麗人(※2)が歌っている。
お酒の力も相まって、インベーダーくんは現実逃避のトリップ状態。
夢と現が混乱して、この人たちは人間なのかしら? それとも……?
ミステリアスなままパーティーはお開きに。
※1 「宇宙大作戦 スタートレック」の登場人物。恥ずかしながらまだ見てない。でも先日「映像研には手を出すな!」を家族で見ていた時に、何かのシーンでスタートレックの話になって、やっぱり通るべき道なのね、と早く見たい気持ち。
※2 断っておきますと、佐藤史生は決して絵は上手くないんです。上手くないんですが独特の魅力があって、このボウイ似のカリスマこと小尾倭さんも大変麗しい。醍醐味は絵の技術でなく雰囲気なので、慣れれば乱れは気にならない。
続きまして「透明くらぶ」。
インベーダーくんは、大学のSF研究会にてディスコの面々と再会する。
みんなでSF談義をしながら愉快な日々を送るかに思われるも、怪しげなメンツの巣窟あるあるという感じでクラブハウス取り壊しが決定する。
倭さんの機知によりうまく回避、これまで通り楽しくやれるぜ! というところでインベーダーくんが倭さんに告白。
「男っぽく振舞ってるけどあなたも女性なんです、ぼくはちゃんとあなたを女の子扱いしてあなたのナイトになりたい」
みたいなことを言って、倭さんは承諾する。終わり。
「ミッドナイトフィーバー」の方は倭さんカッコイイし、最後まで謎が残って、マザーシップの余韻に浸れたので良かったです。テンポも良く、小ネタが色々仕込まれていて面白い。
でも「透明くらぶ」の方はなんだかなあ。わたしはミステリアスなカリスマにはミーハーっぽく夢を抱いていたいタイプなので、「本当はこう思ってるんでしょう!?」みたいな内面暴露はご遠慮いただきたい。
それに、自分がそんな言われ方をしたら、そんな押し付けがましく決めつけないでもらえます? と腹が立ってくると思う。倭さんにはたまたまハマったみたいだけれど、インベーダーくん的思い込みの激しいタイプは苦手です。
作者も「キャラクターを動かしたさに構想がまとまらぬまま見切り発車をし、てきめんに設定をトチってしまってゆきづまった」と書いているので、当初からこんな終わり方にする予定ではなかったのでしょう。
ジェンダー的観点からも、あんまりよろしくないんじゃないのかなアという作品でした。
・「恋は味なもの!?」
デビュー作のラブコメディ。いかにもデビューのために一般受けを狙ったザ・少女漫画という感じで、SF要素は皆無です。
主人公のちょっとヒステリーな美々子とその幼馴染草次郎。
二人の友達、理想高きファザコンで超絶美人の皐月さん。
美々子の兄、だらしない密さん。
この四人が繰り広げるどたばたコメディー。“皐月さんのこじらせてるファザコンの中身が実はこんなだったんだなあ”ってところがミソ。こういうどんでん返しものはどの漫画家さんも一作くらいは書いてるんじゃないかしら、と思うような展開です。
佐藤史生さんにはこの路線は辛かったようで、編集さんから「死んだつもりでこういうのを3作つづけろ」と言われたものの挫折したそう。おかげであの素晴らしきSFの数々が読めるので、挫折してくださってありがとうございます、というところ。
・「スフィンクスより愛をこめて」
こちらが2作目。
宝石目当てのイヤな男と結婚させられそうになった女の子を救うため、推理小説作家が一肌脱ぎます。誘拐・ペテンもさらりとこなし、華麗に悪を退ける勧善懲悪もの。でも最後は悪役のおじさん含めみんながWIN-WINになるハッピーエンド。
1作目のコメディ調を引き継ぎつつ、ストーリー展開が面白味を増しました。
脇役のキャラクターたちもいい味を出しています。
・「春を夢見し」
表題作は打って変わって和ものです。
主人公が家庭教師に行った先、山中の桜に囲まれた旅館でおてんば娘に出会います。桜の精を見ることのできる彼女は、勉強よりも桜の木の上で笛を吹くのが好き。
でも旅館は経営難で、借金を残すよりはとおばあさんは土地を売り払おうとしています。土地売買の騒動の中、主人公は少女と仲を深めていきます。
そうして彼はおばあさんを説得し、おばあさんも孫が可愛いので、結局旅館を残すことに。主人公は旅館を継ぐことになり、色々あって父親との確執も解消。
最後は火事にあった桜が十五年ぶりに花を咲かせ、感動を誘います。
羅列するとなんじゃそら、という感じですが、幾つかの物事が同時並行的に起こっていて、最後はうまくまとまる流れで、分かりやすく書けませんでした……。
ストーリー展開が大分複雑になった印象です。
おばあさんたちが話す「〜ですのし」「おりてござっせ」などの語尾はどこかの方言だろうか? 聞き馴染みのない音で気になりました。
・「ふりかえるケンタウロス」
病弱な美佐保さんの元に、家庭教師兼、婿養子候補の仁くんがやって来る。(また家庭教師もの(笑))。
美佐保さんはその境遇から、自由で強く気高いケンタウロスに憧れていて、そのイメージを近く中央アジアに探検に行きたいという仁くんに重ね合わせる。
二人は次第に惹かれていくけれど、美佐保さんは病弱なので、仁くんの夢を一緒に追いかけることはできないと分かっている。
美佐保さんは最終的に、自分の元を去ってしまうケンタウロスより、そばにいてくれる人間の仁くんを望みます。
葛藤の末仁くんは、自分のできる範囲で精一杯生きていこうとする美佐保さんの姿に折れ、ひとつの夢を諦めることになります。
ウーマン・リブを意識して描いた作品だそうです。
多分この漫画が描かれた頃よりは個々人の「自分のできる範囲」が少しは広がっていると思います。だから読みながら少し違和感も感じるのですが、でも彼女は彼女なりに一生懸命なのだと考えると、切ない気持ちになります。
他人のために夢を諦めるなんてとても無理だ、と今のわたしは思うけれど、それがずっとそうとも限らない。別の何か有力な選択肢が出てきた時に、何を選択しても後悔はないようにしたいです。
仁くんに後悔は残らなかったのだろうか。
よく構想の練られた長編を読んだ時ほどの満足感はありませんでしたが、色々趣向の違う短編を味わえて楽しかったです。
そういえばSF以外の作品を初めて読んだ気がします。当時の少女漫画の流れを感じさせつつも、次第に独自の路線へと舵を切っていく様子が伝わってきました。
もう一冊積ん読になっているのはお正月に消化する予定。
その他、まだ入手していない作品もけっこうあります。それらに思いを馳せると、大変だあ、とうれしい悲鳴を上げてしまいます。
ところでnoteを始めて今日で三ヶ月だそうです。早いなあ。
記事の数も、もうすぐ50になりそうなので、その辺りで一度振り返ってまとめてみようかなあと思っています。
ではまた。
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