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ひとり遊び 【小説】

去年現代詩手帖に応募して、落選したようなので。
映画リキッド・スカイを観て勢いで書いたもの。

↑この映画、素晴らしきカルト映画だったのでお勧めです、音楽とヴィジュアルのインパクト大。



 何だって言うのよ、こんな紙屑。わざとらしい舌打ちとともに女がポラロイドをぶちまけた。鋭い眼光に、向かい合った相手は肩をすくめただけで黙っている。

 日暮れ時、電気をまだ点けていないので部屋は全体に暗く沈んでいる。影の力が強い時間で、二人の表情は険しさを増して見える。
 ダイニングテーブルに散らばった写真は、どれも荒くぼやけた色で、薄闇に親しんでいる。暗い赤、暗い青、暗い緑の中心に、写っている人物はどれもこの怒る女だ。彼女はヨガか舞踏のような奇怪なポーズで静止している。妖しい気配が像の曖昧さにいや増して、薄暗い魅力が紙面に渦巻く。しかし彼女には不満なのだ。

「こんなのが芸術だって言うつもり? 全然、全然、つまらないわ」
 芝居がかってテーブルを叩く。更に続ける。ネオンの光は光のままで捉えなければ意味がない・輝きの失せたネオンなんて見たくない・映像ならまだしも、写真なんて! ……。
 俯いた相手は沈黙を守る。

 息継ぎをして怒りの熱が急激に冷めた彼女は、全てがどうでもよくなったらしい。
 朝まで帰らないから。鍵はポストに。
 勢いに任せてテーブルの天板を外す。中にシンセサイザーが収められている。女は迷わずキーを叩く。トランスサウンドと共に、床下から電気仕掛けの道が出てくる。ベルトコンベヤー式の道は滑らかに動く、ガラス窓を突き抜け、ビルの合間を縫って市街へと。おまけに白く発光している。BGMは浮遊感ある電子楽曲。

 女はタンクトップとショートパンツの上から真珠色のドレスをかぶると、道に飛び乗る。白いシフォンレースが海月のようなドレスは、光の靄の中で影になってひらめいて、泳ぎ去る彼女の行く先はネオンの洪水、夜の街。

 残されたのは、天使の顔立ちのカメラマンが一人。滑り落ちて床に寝そべる数枚のポラロイドは、もはやこの撮影者にも見向きもされない。カメラマンは手早く服を脱ぎ、シャワールームに閉じこもってしまった。
 赤いライトに照らされた小さな空間でセルフィーする。
 見解の相違だ。あれは良く撮れていた。呟く言葉は反響して輪唱になる。エンジェル・フェイスは写し取られた自分の顔にうっとりしている。


ヘッダー画像はシメオン・ソロモン「後悔の眠り」

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