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66. エル プラネタ 【映画】

あんまり期待しないで観に行ったら、思ったより良かった。
そもそも、インスタグラマーの人が撮った映画だと思っていたら、インスタグラムを使った”今時女子っぽい偽の日記”で一躍有名になったコンテンポラリーアート作家による長編映画でした。

そんなわけで。
「エル プラネタ」は、スペインの片田舎を舞台に、家賃を滞納して電気も止められても、ブランド物を身につけスタイリッシュでかっこいい人を装う母娘の話です。

土台にあるのは現代の貧困問題と、おしゃれ欲とか自己顕示欲とか承認欲求といったもの。

お恥ずかしながらパンフレットを見て初めて知ったのですが、スペインは2009年の世界金融危機で最悪期には失業率が約25%にもなったそう。失業率は今でも15%ほどで、その中で若者が占める割合がとても多いです。そういったことを背景に、この映画は作られています。

それからファッションに対する欲望の方は、ビジュアル面とかあらすじで”SNSで過剰に人の目を気にする現代の若者”みたいなイメージをしがちですが、あまりそこは重要なポイントではないと思います。
駆け出しスタイリストの主人公レオは、確かにゼブラ柄のモードなセットアップに身を包んだりしているけれど、その姿をSNSにアップする様子は映画の中で一度も流れない。(もちろんSNSはやっているけれど)
お母さんのマリアの方が自慢しいなところがあるけれど、彼女はそもそもSNSなんてやっていなさそう。
実際、監督はこういう見栄えを気にする性質について、金持ちの社交界の名士と称して湯水の如くお金を使い、支払いができなくなると逮捕される「ラス・ファルサス・リカス(偽りの金持ち)」という人々から着想を得たそうです。

映画を観ていた時、全然就労経験がなくて仕事を探すわけでもないマリアが生活保護か何かの相談をしている場面があって、わたしは普通に働いてお金を稼げばいいのにと思ったのでした。
でもそもそも働きたくても仕事がない状態だったのです。
レオの方も、せっかく仕事のオファーが来ても、飛行機代が出せないために断らざるを得なかったり、貧困問題は生活の隅々にまで影響を及ぼしていました。
他の欧米諸国や日本は、スペインほど失業率が高くなくても、やはり相対的貧困の問題を抱えています。そういう貧困は傍目には分かりづらいし、そもそもわたしもお金に余裕があるわけではないからどちらかというとそちら寄りだし、どうしていったら良いのだろうとしばし考えたくらいでは答えが出ないのでした。

ところでこの映画はモノクロなんですが、その理由が「予算がなかったから」とのことで、貧困問題について考えながらそのことに着目すると、それすらブラックユーモアのように思えてくるのでした。

ラス・ファルサス・リカスについては、わたしには、日々の生活もままならないのに、外見だけばっちり決めて見栄を張る心情は理解できないけれど、レオの行動に共感できる部分もあって。
レオが着飾るのはあくまで自分のため。多分自分がこうありたい、と思う像が明確にあって、それをきちんと自らの力で実現しようとしています。だから、撮影のために靴を買って返品期間中に返品したりはするけれど、他人から施しを受けることはありません。
わたしも、食べ物や服はもらえたら嬉しいと思うけれど、本やCDは人からもらうのは何だか嫌でちゃんと自分で手に入れたいという気持ちがあります。プライドってほどのものではないけれど。レオに似た性格を感じました。


この映画の監督アマリア・ウルマンは30代のアーティスト。インスタグラムとフェイスブックで行ったパフォーマンス・アートで注目を浴び、その後も精力的に活動している作家だそうです。リアルと虚構を行き来する作風が特徴で、この作品は彼女の初の長編映画です。
「エル プラネタ」では監督の他に脚本・プロデュース・衣裳デザインも手掛け、さらに主演もしています。(母役のアレ・ウルマンは実母)
映画には自伝的要素もありつつ、全くの虚構として世界を作り上げたとインタビューで語っています。

noteを書くために読んだパンフレットでは、ああそういう場面もあったなあと思い出したり、背景を詳しく知ることができたりと幾つか発見がありました。
5本収められているコラムでは、書いている人によって言っていることがバラバラで面白かったです。でもイマイチぴんと来る解説はなかったなあという印象。
それにしても、大して情報量の多くないパンフレットが900円というのはちょっと高いと思う。

まあ難しく考えず、”とりあえずファッショナブルな見た目に惹かれて観たら意外と考えさせられた”くらいがちょうど良いんじゃないかしらん。
わたし自身は、ストーリーや細かなエピソードに特別記憶に残るものはなかったので、おしゃれな画面による目の保養とスペインの貧困問題を知るきっかけ、というのが総括。

いつもながらヘッダー画像は全く関係ない写真です。
ではまた。

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