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26. アンドレイ・タルコフスキー

絶対私好みだろうと分かっていながら、ずっと観られていなかったタルコフスキー 作品をようやく観ました。
「ストーカー」「鏡」「惑星ソラリス」の三本。

タルコフスキーは映像の詩人と呼ばれた抒情的な作品を撮るソ連の映画監督です。
「ストーカー」と「鏡」は特にタルコフスキー独特の水の写し方、その映像美を存分に堪能できる内容で、
崩れた天井が落ちてきて水の中へ落下する、淀んだ水の流れ・澄んだ水の流れ、水中で水草が揺れている、ある場所にだけ降る雨・唐突に降り出す雨……
などなど印象的な場面が多くありました。
「惑星ソラリス」は映像美より人間の心理の描写に重きをおいた内容で、原作が素晴らしかっただけにイマイチな感じがしました。


それぞれもう少し詳しく書いていきます。

・ ストーカー(1979)
SF界では超有名人らしい、wikipedia曰くロシアで最も有名なSF作家である、しかしお恥ずかしながら私は知らなかったストルガツキー兄弟の小説が原作で、映画の脚本も彼らが担当しています。
地上に唐突に現れた謎空間ゾーンに、それぞれの理由を持って足を踏み入れた三人の男たちの群像劇です。

入ることを禁じられており、家族にも止められながら危険を冒してゾーンに行く姿は、規制の多いソビエト社会を暗喩しているそうですが、あまり意識せずに観ました。
それよりも、登場人物たちのどこかおかしな行動や非現実的な現象、圧倒的な映像美に強く惹きつけられました。
難解だと言われがちなタルコフスキー作品ですが、これは筋もきちんとあって登場人物たちの心理描写や台詞も多かったのでストーリーも堪能することができました。
ゾーンの内部など、どうやって撮影したのか分からないシーンにも魅了されます。


・鏡(1975)
自伝的な作品だそうで、幼少期の記憶から大人になって子供が生まれた後まで様々な時制がごちゃ混ぜに流れていました。それぞれのシーンが繋がっているような繋がっていないような、心に浮かんだ順番にそのまま並べた印象です。
待てども家に帰ってくることのなかった父への憧れと、自分とは同じように感じていないらしい息子、が一応中核を成しているでしょうか。
映像のどこかで少し寝てしまったのですが、それがどの程度の長さだったのかも分からないほど、“筋”の関係のない作品です。
やはり水や火を使った印象深いシーンがいくつかあり、全編をくまなく見ることよりも、断片的な映像の記憶を残すことの方が重要なのでは、と思える作りでした。


・惑星ソラリス(1972)
スタニスワフ・レムの同名小説が原作です。「ストーカー」もSF小説の映画化ですが、時代的にSFものが流行っていたからなのか、タルコフスキーの世界観とSFの非日常性の親和性が高かったからなのか。

私は元々原作の小説が好きでして。惑星ソラリスの表面を覆う未知の“海”が千変万化する様子の描写が素晴らしく、一体これをどう映像化しているのだろうと見るのを楽しみにしていたのです。
でもあの言葉を尽くした描写は見る影もなく、海なんてほとんど出てこないヒューマンドラマになっていてとても残念でした……。
SF映画史の金字塔だそうですが、レムがこの作品を認めなかったというエピソードにも頷けます。
原作のことは置いておいて観ればまた違った感想も抱けるかもしれませんが、今の所もう一度観るということはなさそうな気がします。

未来都市として日本の高速道路が使われているのも、何せ日本語が読めてしまうので、多分タルコフスキーが期待したような効果を感じられず歯痒かったです。

“海”の作用で現れた主人公の自殺した妻が、不完全な自身の存在に悩みまた自死を選ぶのですが、その蘇生の演技は臨場感があって(少し不気味でもあり)良かったです。



タルコフスキーの作品は、見終わるとどれもぼうっとして、現実世界が現実に思われず、神経が普段より過敏になって様々な小さなことが気にかかるようになりました。
感覚が作品世界からなかなか戻ってこられないと言いますか、非常な引力を持った映像だと思います。
ともかく観られて良かった。「ノスタルジア」と「サクリファイス」も観たい。劇場で観たいです。

タルコフスキー作品の配給をしている映画配給会社パンドラはロシア映画と女性監督映画に力を入れている会社のようで、ソ連のカルトSF「不思議惑星キン・ザ・ザ」(訳が分からないしどうやって撮ったのか想像もできない、だけど魅力的な映画です。おすすめ)や、気になっていて結局観に行けなかったパラジャーノフ特集、ソクーロフ特集なんかもここの配給でした。
普段あまり配給会社を意識することはないのですが、自分の趣味に合う作品を多く配給している会社は定期的にチェックしておくと良作に出会いやすそうな気がします。既に観たい映画が山積みだということはまあちょっと置いておいて、そういう見方もアリだな、と思いました。

ではまた。


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