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140. 谷和野 その2 【漫画】

最近ハマっております谷和野さん。
その1はこちら↓

今回読んだのはデビュー短編集「いちばんいいスカート」です。
表題作含め7作が収録されています。現実世界での心の機微を描いたものが3編、ファンタジー・ちょっと不思議系が4編。
表題作とその次の「みづくろい」、木を擬人化した「みんなの、大きなかわいい子」は、悪くはないけど取り立てて思うところもないかな……という感じだったので、他の4作について書いておきます。(大いにネタバレあり)

・同居もん
楽しく仕事をしている一人暮らしOLのトゲ子さんの家に、ある日突然、一揃いの足が住み着いていた。彼は、足だけなのに電話に出るし、皿洗いや洗濯もする。足だけだから、どんな人なのかとかあまり気にならない。なぜここにいるのかも分からないし、トゲ子さんは何となくそういうことは聞かずに同居生活を始める。
その内トゲ子さんにはすごく好きな人ができて、でもその頃には足さんとも家族みたいになっていて、二人の空間に彼氏を呼ぶのはどうなんだろうと迷ったりする。
足さんは気を利かせたのか、トゲ子さんにはもう必要なくなったと判断したのか、自発的に家を出ていく。

足が何者なのかとか、なんにも分からないまま話が進行していって、分からない内にいなくなってしまう流れに寧ろ居心地の良さを感じました。
孤独でもなく、誰かが確実に存在しているわけでもない状態って、結構緊張しそうですが、慣れたら意外と楽しいのかもしれません。
きっとトゲ子さんと恋人の間で、今頃足さんのことは笑い話になっているんだろうなあと思うとほっこりします。

・おこったちゃん
コタツの擬人化って初めて見ました。布団が半纏で、お腹の下に足を入れるようになっていて、コードを挿すと髪がお団子になる。可愛い。
これはコタツが引っ越しに伴って捨てられて、別のお家に拾われるまでの話です。
我が家にはコタツはなくて、祖父母の家にある憧れのもの、というイメージなので、わたしがコタツを入手したら絶対捨てないけど。日々人間の足をあっためながら半纏姿のコタツさんがとりとめもなく考える姿がもし見えたら、きっと誰も彼女を捨てようなんて思わないだろうになあ。
ものに対する見方を今一度見直そうという気にさせてくれる作品でした。


・空に落ちる
既存の天国・地獄観に疑問を投げかける作品。
そもそも閻魔様他の裁きを受けた後行くのが極楽浄土でなく天国だし、地獄に落とされるとルシフェルがいるしとごっちゃな死後の世界でのお話です。
生前全く罪を犯さなかった女性が、天国行きを喜ぶのですが、実はその天国とはこんなところ。

意識があるままからだじゅうの感覚を失って係の者に奥の部屋に連れて行かれます。
地獄の人のように痛がることも一時的に逃げることもできません。
そこでひたすら決められた時間を過ごすんです。
天国で与えられるものは罪を避け続けたことへの罰なんです。

地獄に行きたくない一心でひたすら他人に迷惑をかけないよう注意深く生きてきた主人公。自分の意思なんて全く主張せず、それによって寧ろ近しい人を傷つけてしまったりしていたのでした。
天国が手放しで喜べるような良いところではない、という設定はたまに見掛けますが、天国でも罰を受ける・罪を犯さないということが罪というのは自分にはない発想だったので面白かったです。
あと個人的には弥勒様が普通にお仕事してる姿がツボ。


・よいお菓子 わるいお菓子
母に気を遣い自分の生きたいように生きられない少女・緋紗子は、母への愛と折り合いがつかなくて何となくモヤモヤしている。
それがちょっと変わっているけれど自分を支えてくれる少年・山田や母の死をきっかけに意識が変わっていく。

山田くんに心をかき乱される緋紗子の様子や、彼女のためを装いながら自身の欲を満たしている母の姿が丁寧に描かれています。親子の確執という普遍的なテーマで、容易に世界に没入して読むことができます。
そして何と言っても緋紗子が可愛い。長い長いおさげを垂らして歩くセーラー服姿の少女は、顔も整っていてさながらお人形のよう。あんまり可愛いので、ページを繰るだけで嬉しい気持ちになってしまいます。
扉ページの、キャンディーの包み紙にくるまった姿の可愛さとインパクトよ。

今作も谷和野さんの独特な言葉選び・テンポ感に、作品世界をふわふわ漂いながら楽しむことができました。ちょっと低空飛行のこの温度感好きだなあ。「よいお菓子 わるいお菓子」はどことなく、楠本まき・藤原薫感がある。
また別の作品も購入したので、しばらく谷和野特集になりそうです。

ではまた。

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