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106. ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇 【ドキュメンタリー映画】

これは、人身売買によって労働力を得、魚を根こそぎ獲っていくタイの漁船についてのドキュメンタリー映画です。
と言っても無論そんな漁船の様子を取材できるわけもなく、内容はその漁船から逃れてインドネシアなどに流れ着いた人々を見つけ出し、希望のある場合は故郷に返す、という活動をしている労働権利団体の活動にフォーカスしています。

労働に関する問題を取り扱った映画という点では、以前ご紹介した「メイド・イン・バングラデシュ」もそうでした。

でも、あちらは労働環境が悪いにせよ、自分で望んで働きに来て少ないながらに賃金を得ていたのに対し、こちらは全く望まずに連れてこられタダ働きさせられているので、まるっきり違う問題です。

たとえば良い仕事口があると騙されて連れてこられます。或いは歓楽街で一人遊ぼうとしているところを拉致されてきます。
そうして船に乗せられると、何年も、長い人は二十年以上も下船することなく働き続けることになります。大して睡眠も取れず、船内ではひどい暴力も振るわれ、人間扱いされません。賃金は一銭も出ませんし、船上で亡くなる人も後を絶ちません。

そこから命からがら逃げ出して、どうにか陸に辿り着いたとしても、漁場が遠くにあるためそこはインドネシアだったりします。
タイとインドネシアでは言語も違いますし、農村部は貧困のため携帯電話やパソコンが普及していないようです。
一文無しの漁師は帰る術もなく、その土地に順応し妻子を作りました。
この映画では、労働権利団体はこういった人々を見つけ出し、故郷と橋渡しをしようと命がけで活動していました。

こういった非人道的な漁船は、安く・大量に魚を獲らんとする資本主義由来の考え方から生まれています。そして”安く大量に”精神は労働問題以外にも様々な問題を引き起こします。密漁や乱獲、違法な漁具の海洋投棄などです。

ただわたしは根本には貧困問題があるように思います。
田舎から都市部に出てきたものの働き口がない人など、お金がないとそこにつけ込まれてしまいます。
それに、もし逃げてきたインドネシアの村に携帯電話があったら。帰るのは無理でも家族に連絡を取ることはできます。自分の安否を知らせ、何が起こったのかを伝えひとまず「生きています」と家族を安心させることができます。
わたしはIT技術の過度な発達には懐疑的ですが、それでも、あのインドネシアの村々に携帯電話があったら少しは救いになったのじゃないかと考えてしまいます。

前述の「メイド・イン・バングラデシュ」では不買運動をすると末端で働く人々にお金がいかなくなってしまい狙った効果を出せませんが、こちらではそもそも給料が出ていないため不買運動が企業に訴えかける手段となります。
違法漁船を持つ器量は警察や国と繋がりがあり国内で声をあげても揉み消されるらしいので、こうやって外に支援を求めることが改善への近道です。


映像については、ドキュメンタリー映画ではありますが、フィクション(というより事実に基づいて制作した映像)部分もあり、しかもその同じ映像が何度も繰り返されたりするので、どこまでがリアルな映像でどこまでがそうでないのか観ているうちによく分からなくなりました。
ラストも、ドキュメンタリーによくある特にカタルシスのない終わり方ではなく、救出された人が十数年ぶりに家族と感動の再会をする締めくくりで綺麗に終わっていました。
全体によく編集されているという意味で観やすかったですが、その分重みや鋭利さは薄まっていたかなという印象です。

何はともあれしばらくは魚を食すたびに(魚自分じゃ買わないけど)この映画のことが思い起こされそうです。
ではまた。

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