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43. ボストン市庁舎 【ドキュメンタリー映画】

今年初、映画館で観た映画でした。(初映画は家族で一気見したゴッドファーザーでした。)

多様性・民主主義を重んじ、市民のための市役所を目指す、アメリカはボストンの市庁舎を写したドキュメンタリーです。
テーマは、「人々がともに幸せに暮らしてゆくために、なぜ行政が必要なのか」を伝えること。

予算の使い方。ホームレスのシェルター問題。家のネズミ駆除。女性や移民の差別問題。発掘された文化財の整理。エトセトラ、エトセトラ……
市役所の関わる様々な活動が、40以上も連続して流されます。
一つ一つはごく短く、ショートフィルムを見ているようなのですが、全部合わせると四時間半という大作です。途中に休憩を挟んで、合計で20分ほど寝てしまいました……。
映像は明確に繋がっているわけではなく、ある一つの事案が解決してカタルシスが得られるわけでもありません。淡々と日々どんなことが行われているかを記録する、いわば壮大な街の紹介動画です。

この映画には、とにかく市長マーティン・ウォルシュさんが出てきます。(このウォルシュさんは今はバイデン政権で労働長官を務めていて、ボストン市長はアジア系女性ミシェル・ウーさんになったそうです。)

彼は“市民がより良く生きることができる場所”を目指し、あちこち動き回って職員や市民と言葉を交わします。演説にしばしば自分の体験を織り交ぜて、親密な言葉で語ります。とにかく何か思うことがあったら、市役所に、市長に電話やメールで伝えてくれと何度も繰り返して言います。
70万人も住民のいる都市で、そんな活動をしているのです。この広い都市の大勢の人から連絡があって、それに逐一真摯に対応するとは、どんなにか大変だろう。もっと小さい街ならともかく、一体休む暇なんてあるのだろうかと心配になるほどです。

それでも彼らがそういうやり方をするのは、民主主義において対話が最も重要だからです。
自分が何を思っているかを伝え、相手が何を思っているのかを理解しようとする。短絡的に結論を出そうとせず、話し合いに話し合いを重ねる。
相手のことが信用できないと、何を言っていても結局裏切られるのではないかと疑ってしまいます。正直この映画を観ただけでは、本当にボストンという都市が市民の生活を第一に考えていて、疚しいことなんて何もないかどうかは分かりません。
でもそれも、解決するには対話です。
今世界の至る所で危機に陥っている民主主義が、ボストンには息づいています。


監督のフレデリック・ワイズマンは、一貫して“一切インタビュー、ナレーション、追加音楽を入れない”作風を貫いている映画監督で、社会構造を見つめるドキュメンタリーを多く撮影しています。
日本でも劇場公開され近年話題になったドキュメンタリー映画、「パリ・オペラ座のすべて」「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」もこの方の作品です。

今回の作品は、大麻の販売や銃の所持など日本とは違う問題もありますが、学ぶべきところの多い映画でした。
丁度トランプ政権の時に撮られたものなので、社会の仕組みが大きく変わってそれに翻弄される人々の様子も出てきて、政治の重要性も伝わってきました。

また、改めて市役所の活動内容を見ると、市が請け負う仕事はこんなに多岐に渡るのか、と驚きます。市の仕事=わたしたちの生活そのものなので、考えてみれば当たり前なのですが。
作中で市長自身も「市が何をやっているかを市民に伝えられていない」と言っています。
自分の住んでいる所のことなのに、よく知らないことが多いのです。

実際わたしも、自分の生活に関わることだけれど、どうにも政治に対する興味関心が希薄です。
対して作中では、ボストンの市民が(もちろん全員ではないでしょうが)本当に自分の住んでいるところに愛着を持って、どうしたらより快適に過ごすことができるか、何が暮らしのためになるのか真剣に考えているのが印象的です。
自分が生きている場所について知ろう、知りたいと思っている人が多いように見えます。

こういうのを観ると、あ、考えなきゃ、と思います。でも同時に、やっぱりふわふわと地に足がつかないままの自分もいます。
それはそれで仕方ない。多分現実世界を生きたくないんです。考えた方が良いことは分かっているけれど……。
今はあまり自分の周りの政治に目を向けられなくても、興味を持てた時は素直に飛び込んでいけたら、と思います。

ところで本筋には関係ないのですが目に留まった箇所が三点あったので、メモ的に書いておきます。

・女性同士の結婚式
市役所内の小部屋のようなスペースで、こじんまりと行われていたけれど、本人たちの希望なのか、それとも同性婚は教会等での結婚式を認めていないのか、どっちなんだろう? 当人たちがとても幸せそうだったから、まあいいのだけれど……。

・粗大ごみの回収方法
ベッドもごみ収集車の後ろに放り投げられて、巨大な歯で細かくされていく。
日本の粗大ごみの回収を見たことがないから分からないが、こういうものなのだろうか。使われなくなった日用品が粉砕されていく様子がダイナミック。

・インタビューマイクがスマホ
記者会見か何かで、記者たちが突き出すインタビューマイクのほとんどがスマートフォンでした。見慣れないので異様な感じがして、そんな時代なのかと少し恐ろしく感じました。


ドキュメンタリー映画は、観たからといってすぐさま何かを変えられるわけではない・そういう気持ちにはなれない、というものも多いですが、どうしてだか観たくなります。
何もできなくても観ることにも意味があると思いたいのかもしれません。よく分かりませんが。
今年もきっと何本か観ることになるのだろうなあ。

ではまた。


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