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静謐の夜

ありきたりなワンルーム。角部屋は、それでも少し外の音が聞こえる。
盛れ入る月の光が、窓の影を映していた。

部屋の天井と上の階が何故か繋がっており、そこから5歳くらいの男の子が毎夜、眠りに来る。

男子大学生の部屋なんて、面白いものがある訳でもなし、ただ、何か言葉を交わすこともなく、互いにその温もりだけ感じていた。

男の子の母親は大人しく幸薄そうな人で、彼が夜の間うちで寝ていても問題ないらしい。

それは突然だった。
男の子となんとなく仲良くなったころ、要は言葉を交わすようになったころ。
その子の父親がなにやら喚き散らし、暴れて部屋に殴り込みに来た。
しかしなにやら、言動がおかしい。どうやら酷い暴力男のようだ。
私は男の子を抱き抱えた腕とは反対の腕で、必死に反撃を行う。
なんだか色々と叫んだ気もするが、あまり覚えていない。

そのうちに外がバタバタと騒がしくなってきた。
うちの前に人が集まって来ているようだ。
その人たちは男の子の母親の仲間のようで、騒ぎを聞きつけ、駆けつけてくれた。

彼らはみるみる狼に変身して男に飛びかかっていく。
なんと、男の子とその母親は、狼人間の末裔だったのだ!
沢山の狼の下敷きになった彼が一体どんな目に遭ったのかは割愛しておく。

未だ腕のなかで震える男の子を抱きしめながらことの顛末を見送っていると、見知らぬ女性が後から部屋へと入ってきた。

一瞬、男の子の母親に見えたが違う。前髪やインナーが派手な原色に染め上げられ、態度もやや慇懃無礼な感じだ。
その人が徐に近づき、腕の中の男の子に何か処置を施す。
男の子は終始私に抱きついていたが、気がつくといつの間にか子どもから子犬の姿に変わっていた。

派手な髪をした女性は、横柄な語り口調で私がこの子守護者であると言い放つ。
曰く彼ら狼人間は、力が弱い子供時代、それを見守る人間と共に過ごすらしい。
一匹につき一人の守護者がつき守護者に教え導かれながら成長していくのだという。

そしてその守護者が私だというのだ。

戸惑いつつも了承する。
結局、やることは今までと変わらない。
ただ少し、自分の知らない世界を知っただけなのだ。

腕の中の子犬もとい子狼は、少し重くて暖かった。

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