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ep.26 おやすみなさい、そしてさようなら。

中央管理塔の最深部の更に奥深く。隠された空間にマザー・ノエマは君臨していた。
外の騒ぎであらかたのの絵馬が出払ったその場所を制圧するのに、大した時間はかからなかった。

「やあ、会いたかったよ。はじめまして、マザー・ノエマ。僕はユク、君を終わらせる者。」
立ちそびえる彼女に挨拶をする。

『侵入者を確認、ただちに退出することを命じます。』
警告を無視して足を進める。
『防衛システムを作動。全ノエマに緊急アラームの送信を行います。』
本来ならこれで警備隊が駆け付けるのだろうけれど、すでに外部との接触は妨害済みだ。アラームが他のノエマに届くことはないだろう。

防火扉が下され睡眠ガスが充満する。お生憎様、そんなものでやられる作りじゃない。ロボットだもの。
対人間用の防衛対策しかされてないだなんて、なんとお粗末な防衛システムだろうか。
マザー・ノエマのメインサーバーに触れる。ここから直接コネクトしてシステムに侵入する。マザー・ノエマは全てのノエマと繋がり、常に膨大な情報を処理し続けている。ノエマへの干渉を断ち切り、情報制限と脳へのリミッターを、条件付きで解除するよう上書きを行うのだ。

ここから先は時間との勝負だ。この塔を完全破壊するまでのタイムリミットはあと23分。脱出の時間も含めて、である。

ふぅ、と軽く息を吐く。
別に必要はないのだけど。生きた人間のように振舞っていたらいつの間にかついていた癖だ。

「作戦を開始する。」

格好つけて呟いたわけじゃない、記録のためにだ。音声記録を残しておこうと思って。

『システムへの不正なアクセスを確認しました。保護プログラムを開始します。』

静かな攻防がせめぎ合う。システムに侵入しプログラムを書き換えたい僕と、プログラムを守り僕をシャットアウトしたいマザー・ノエマ。
書き換えては上書きされを繰り返す。
マザー・ノエマの方が巨大サーバーを持っている分処理速度が速い。
けど、残念ながらこの勝負は僕の方に分がある。
マザー・ノエマ、あなたと僕の生みの親は同じだけれど、僕の方がずっと後の世代に作られている。僕らコンピュータは世代の違いが致命的な力の差になる。

「おやすみなさい、マザー・ノエマ。そして、さようなら。」

最後の上書きを終わらせる。
“ガチャン”と防火扉のロックが開く音がした。

『緊急アラームの送信を中断しました。全ノエマの任務終了、管理システムの停止を通告します。』

やっと

やっとだ。

やっと終わりだ。

長かった戦いがこれで終わったのだと、ほぅとため息が出た。
呼吸の必要はないのに、さっきそれを実感したばかりなのに。
僕はおかしくなって少し笑った。

ドガァンッ!!

あ、

僕としたことが、

マザー・システムの上書きに、23分しっかり使い込んでしまったようだ。

激しい衝撃音とともに体が吹き飛ばされる。

逃げ、なきゃ

でも、どうやって?

ガラガラと崩れる音が聞こえる。
瓦礫が落ちるのが見える。

ダメだ、
帰るんだ。
帰らなきゃ。

約束、したん、だ。

あの子と、

ナナと。

力強く踏み出した足から急に力が抜ける。
下を見ると、足元が崩れた瞬間だった。

奈落の底が、見えた気が、した。

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