どうどうめぐり

ぐるぐるめぐる、どうどうめぐりのそのさきで

僕はいったい、なにを思えばよいのだろうか

鼻から吸った空気が熱い

喉の奥でつまるようだ

なにかをなさなければいけないのか

なにもなさなくてよいのか

いまの僕にはわからない

思考がめぐる、思想がめまぐるしくまわる

僕の頭の中はきっと、小宇宙のようになっていることだろう

いきる、とか   

しぬ、とか

いまだに僕にはわからない

わからないから気になるし

わからないからとっても痛い

めぐった先の堂々の中

僕の求める答えはあるか

ひとりそっと、ひっそりと、

思考のツボにはまっていく

ふかいふかいツボの底で、きっといつか

見えた光。

遠い遠い、宇宙から、一通の手紙が届いた。

『あなたの星は、なにいろですか?
もしも、あおい星なのでしたら
ぜひともわたしにおへんじください
わたしは実は大昔、あおい星を飛び出して
きんいろの星にやってきました
あなたの星はあおいろですか?
あなたの世界は、美しい?』

おどろいた!
だって、何を隠そう今までの人生で僕、個人宛に手紙が届いたことなど
一度もなかったからだ
その栄えある第一通目がなんと宇宙からだなんて!
誰が想像できたことだろうか!
あああ、なんと返事を返せばよいか
考えるだけで小躍りしたくなるほどの喜びだ。

ただ、ひとつだけ僕には懸念があった
どうやって宇宙に手紙を飛ばすのかではない、(そんなこと容易である)

僕の星は、確かに青かったでもそれは
もういまから二百年も前のことだったからである。
いま僕が住むこの星は、茶色の木々と黒色の海が覆い、灰色の空に包まれた、
なんとも汚らしい星なのである
それでも僕はこの星の美しいのを知っている。
知っていると思い込みたくて
僕宛に届いた、僕だけの大切な手紙には懇切丁寧なお返事を返したくて
だから、かつて美しかったこの星の、朽ちた末路の、
最果てに漂う哀愁の美を語ろうと思い。筆をとった。(正確にはキーボドだけど、言葉尻をとらえるなんて無粋な真似をみんなはしないと僕は知っている)

『拝啓、名も知らぬ貴方へ
最初に、ぼくは貴方に謝らなければいけません。
貴方は手紙に
あおい星ならばお返事を。
と書いていました。
けれども残念ながら僕の星は青くはありません正確に言えば、
かつては青かった星、なのですがいまはもう、
色などとうの昔に抜け落ちて、
茶色やら黒色やら灰色やらに囲まれる星に、僕は住んでいます。
けれども僕はこの星の美しいのを知っていますし
茶色やら黒色やら灰色やらが捨てたもんじゃないことも知っています。
きんいろの星は美しいですか?空は何色ですか?
木々や海はありますでしょうか
貴方がもし僕と同じ青色の星にいたことがあったとしてその時、
貴方の星は美しかったでしょうか。
ぼくはじぶんのしらないことは、なるだけ、なるだけ知っておきたいのです。
差し支えなければ教えて下さい。
貴方の過去と、今の景色を。』

『追伸、
枯れた木々の茶色の重なりと、葉が奏でる音が
僕には一等美しい植物にしていることを知っているのです。』

ああ、この手紙よ
この手紙に込めた僕の想いよ!
もうなんでもいいから、届いておくれ!
手紙なんて、ましてやその返事だなんて初めて書いたからさ
もう
不備がないかドキドキだ
キーボドを叩く手が汗ばむくらいにドキドキだった
どうか返事が届きますように。


『かつては青かった星に住む貴方へ
お返事ありがとうございます。
実のところ、あおい星と銘打ったのはもし返事がこなかったばあい
悲しくて悲しくて、それはもう悲しくなってしまうと思ったので
言い訳ができるようにといれただけですのでお気になさらず
それどころかなんて素敵なお返事でしょうか
わたしは胸が躍りました。
色が抜け落ちた世界、
もしかしたらわたしのいまいる星も同じことが言えるかもしれません
わたしのきんいろの星は、どこもかしこもきんいろです。
空も、森も、海も。
見渡す限り全てきんいろ
きんいろ以外のいろをきっとどこかで落としたのでしょう
眩しくって、ずっとは目を開けていられないので
みんなサングラスをかけるの当たり前になっています。
もう長い間きんいろ以外のいろを見ていませんので
わたしはほかのいろのことをすかり忘れてしまったのです
しかしながらいまさっき、あなたがくだすったあのお返事を読んで
少なくとも茶色は思い出すことができました。
ああ、わたしも知っています。
微妙に色味の違う葉っぱが、重なり影を作り出し
わたしの足元を飾るのです
踏みしめた落ち葉がサクサクとこ気味良いリズムでうたうのです
ああおもいだしたおもいだした。
あの記憶のなんと美しいことか。
わたしは期待してしまいます。
この手紙がまた無事に届き、貴方からお返事いただけることを。
茶色を取り戻した、きんいろの星のわたしより、愛を込めて。』


『まじ!?え、やば、え!超嬉しい!』

『一ついろを取り戻した貴方へ
先に着いた、あまりにも短いお返事、大変失礼しました。
無事に貴方の元へ届いた上お返事までいただけて
しかもとても嬉しいお言葉
興奮してしまいました。
何もかもきんいろの世界。
飛び込んでみたくはあるのですが
それが永遠だと思うと、僅かながらに他のいろを知っている身とすれば
退屈となってしまいましょう。
僕らの頭の上は、いつも灰色が広がっています。
それでもその灰色は濃淡のある、ふわふわとした灰色の綿なのです
まるで煤にまみれた綿というか
ホコリのおっきな塊のような
綺麗とは言い難いけれどもその触り心地が良さそうなのを僕は知っています。
汚れた綿は時々涙を流します。
その涙で僕らは溶けて死んでしまうけれど、溶けたときに見える赤は
なんともおぞましく、なんとも美しいのです。
こうしてならべると、まだまだいろを書き連ねられそうです。
次は何色の話を書きましょうか。それを考えるのも楽しい日々なのです。
今は錆びれた星の僕より。多すぎるほどの愛を込めて。』

やっっっっちまった!やっちまったよ!
勢い余って変な手紙送っちまった!
まあ送り直したし、いいか!
それにしても、全てがきんいろの世界かあ
いつか見れるのだろうか。

『あついお返事、ありがとうございます。
二通ともしっかり目を通しました。
気にする必要はありません。
あなたはわたしにいろを思い出させてくれる。
それがどんなにうれしいことか
きっとあなたにはわからないでしょうでもわからなくていいのです
わからないまま教えてください
あなたの星の残りのいろを
わたしはそれが頼りなのです
わたしにはそれしかないのです。』


返ってくる手紙に並ぶ言葉は
僕にとっては愛の囁きだ。
向こうがそうは思っていなくとも
僕だけがそう感じていられればいいのでなんの問題もない。
色がないと思っていた世界に、僕が思っていた以上に色を思い出させてくれたのは、きんいろしかない世界のあの人だったからである。
僕だけが知っていた汚いいろの美しさも
あの人が知ってくれたことで全部が美しく見えてくるのだ
なんと不思議なことだろう。
僕を殺そうとする灰色の雲の涙でさえも
ぼくは愛おしく思えて仕方がないのだ。



***********

退屈、とはよく言ったもので
この言葉にいまのわたし自身の感情は強く支配されているのかもしれない
あたり一面
どこを見渡してもきんいろしかないこの世界
最初は物珍しかった
けれどもいまじゃあ
わたしの死因第一位である。
退屈は人をも殺す。
わたしが昔いた、あおく美しい星の古い言葉だ。
わたしは今、退屈に殺されそうだ。
いや、よくよく考えるとそれはおかしいことなのかもしれない
第一、今この世界にいること自体
わたしが死ぬことがないという証明なのに
それでもって殺されてしまいそう、死んじまいそう、だなんて
よく言ったものだ。
時間だけはある。
いろも感情も失った世界。
あるのは時間だけ。
わたしは、堂々巡ったその先で
一つ答えを導いた。

”手紙を書こう”

手紙なんてもうずうっと書いていない
書き方すら忘れてしまった
けれどもどうしてもこの溢れる言葉たちを書き留める以外の
良き方法を見つけることなど、わたしにはできなかった。
安らぎを求めたはずなのに
目下に広がる世界は本来ならば安らぎであるはずなのに
その安らぎが
わたしの不安を掻き立てるのだった。

ああ、あああ

ほしい

いろが


ほしい。


『こがねいろの世界のあなたへ
不思議なことがあるのです。
あなたに手紙を送ってから
森が金色になりました。
枯れ葉が金色になりました。
空が、雲が、のっぺりとした金色になりました
金色の雲の涙が溶かした彼らの赤いはずの血が、
金色になりました。
ぼくだけが、ぼくの頭があなたいろに染まってしまったのかと思いましたけれどそれは
どうやらちがうようで
他の人たちにも金色に見えるそうなのです。
ぼくは怖いです。
あなたと同じ景色を見ていると思うと、
すこし不安はいなくなりますけれどもやっぱり怖くて仕方ない
だってあなたの不安を掻き立てた黄金色に包まれつつあるのです。
どうか、どうかぼくのいろを奪うことだけはしないでくださいあなたには
わかるはずですぼくの気持ちが』

昔は灰色が嫌いだった。
薄暗くてじとおっとしたいろだ、なんだか薄気味悪くさえ思えた
だけども今はこう思う
何て素敵な色だろうか
灰色の空、茶色い森!黒々とした海!
わたしに流れる血はもう輝いてなどいない
赤黒い血がぼくの体をかけめぐる
あああ、なんて素晴らしい世界だろうか
ああ、これを返すだなんてもったいない!
かつてあおかった星が
一度は色を失って
今は黄金色に輝いているだなんて
あの星はわたしにとっての太陽だ。
いつまでもいつまでも、輝いてくれよな。



そういえば、あおは最後まで戻らなかったな。




***********

見渡す限りのこがねいろ
天国のように思う人もいれば
ぼくみたいに地獄のように思う者もいる。
だけども僕はとっておいたとびきりの色を
結局最後まであの人に渡すことはなかった。
鏡を覗いて少しばかり安心する
僕の瞳の碧いことを。

『拝啓、
これが最後の手紙になります
あなたは僕から色を奪った
いや、もしかすると奪われたのはそちらかもしれないけれども
そんなことはどうでもよくて
あなたを壊した退屈は
きっと僕を壊すこともたやすいのでしょう
それでも僕は知っています。
一番美しい色を知っているから。
貴方には終ぞ教えなかったその色を
たった一つ抱えていきます。
とびきりのいろは最後に
僕が死ぬ時教えて差し上げましょう。
それまではこの色は

僕のいろだ。』


どうどうめぐりのそのさきで

みつけたもの、たくさん

うしなったもの、ひとつ

わからないままのこたえばかりで

けっきょくなんにもかわりはしない

ひろがるふあんにおしつぶされる

あれ、とまってないじゃん

ぼくのかんじょう。

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